“トリオいろはに”のまちなかコンサート (3)

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いずれも堺が生んだ音楽家、チェロの藤原士郎さん、ピアノの井阪あゆみさん、クラリネットの中本吉啓さん3人組の”トリオいろはに”が出演する「まちなかコンサート」が堺市博物館の地階ホールにて開催されました。
前篇中篇では、3人の結成秘話や音楽・音楽界に対する熱い思いを楽しく聞かせてもらいました。後篇ではいよいよコンサートの観覧レポートです。
■まちなかコンサート
この堺市博物館の地階ホールでは、平成26年度から一般公募によるコンサートを定期的に開催されていましたが、平成29年度で終了していました。堺市博物館でのコンサートが久しぶりに開かれるとあって、この日の「まちなかコンサート」には多くのファンが詰めかけました。開場するやいなや、あっという間に満員のフルハウス状態です。
一番乗りだった車椅子の方との二人連れの男性は、こんな話をしてくれました。
「(家族は)足が悪いものだから、なかなか出かける機会がなくて、堺市博物館コンサートは出かけるいい口実にもなって楽しみにしていたんです。それが無くなって残念だったのですが、今日はこのコンサートがあるというので、楽しみにしてきたのです」
これは音楽の偉大な力ですね。
客席には年輩の方が目立ちましたが、中には小学校低学年ほどのお子様の姿も数人見受けられます。
“トリオいろはに”の皆さんは、「いい音楽を子どもたちに聴かせたい」とインタビューでも言ってましたが、さて子どもたちはどんな反応を見せるでしょうか。
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▲まちなかコンサートは満員御礼。

開演時間になって、3人が姿を現しました。
藤原さんがチェロを構え、井阪さんがピアノの前に座り、中本さんはクラリネットはもたずに井阪さんの脇に控えます。まず1曲目は中本さんは楽譜をめくるサポートにまわるようでした。
客席は静まり、少しピアノとチェロの音合わせをして、一拍手が止まり、真空が生まれます。次いで静寂に、はじけるピアノと湧き出すチェロの音がなだれ込んできました。
1曲目は、ベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第2番より第1楽章」。チェロの響きは揺るぎなさがあって、そこにピアノが軽快に彩りを添えていくような印象を感じます。チェロがとうとうと流れる大河や泰然とした巨樹だとしたら、ピアノは水面に輝く光や梢を揺らす風のようです。騒がしく慌ただしい音楽になれた耳には、ただ2つの楽器のシンプルな音で豊穣な音楽表現があることに驚かされます。音の波に身を浸す、贅沢な時間が続きます。
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▲オープニングの1曲はベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第2番より第1楽章」。

10分を超える演奏時間もあっという間に終わり、ここで藤原さんがマイクをもってお客様に挨拶をします。
「山之口商店街にあるギャラリーいろはにさんで演奏したことをきっかけで、”トリオいろはに”と名付けました」
との言葉には、うなずくお客様もちらほら。地元の方が多いのでしょうね。次は、藤原さんと中本さんの、そして3人の想い出の曲である「街の歌」。
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▲依頼があってベートーヴェンがイヤイヤながら作った……素晴らしい曲(井阪さん談)、『街の歌』。
「街の歌」は、1曲目と比べると陽性の曲と感じます。賑やかさもある街の情景が見えるようです。1楽器加わることによって、2が3になったのではなく、数倍にもなった印象です。これが長い時間を共に過ごしたトリオの奏でる音楽の良さなのでしょう。
次いで、井阪さんのピアノソロです。ピアノソロなのに、井阪さんが選んだのはショパンの協奏曲です。
「協奏曲というのは、本来はソロの楽器1台、主役になる楽器がありまして、それとオーケストラが弾くのが協奏曲というんですね。今、ピアノ一台しかなく、チェロの藤原さんはどこかへ行ってしまい、中本さんが楽器を持たずにのんびりされています(笑) ここだけの話、(小声で)ショパンは、オーケストラの、曲を作るのが、めちゃくちゃ、○○○そやったんです(笑)」
井阪さんのひそひそ話に、お客様もクスクスと笑います。
「なので、オーケストラがなくてもソロの所をピアノ一台で演奏させていただいて、前奏や間奏の所も丁度ピアノが暇にしている所なので、一台でピアノもオーケストラもやらせていただきたいと思います。この曲はとっても甘美な曲で、この曲だけ取り出して『ロマンス』っていう風に名付けられています。本当にショパンらしーい曲ですので、私はショパン弾きなのでこの曲がすごく好きで色んな場所で演奏させていただいています。この曲をお聴きいただけたらと思います。それではよろしくお願いします」
少し笑いでほぐしながらも、井阪さんのピアノがはじまりました。『ロマンス』のタイトル通りに余韻と焦燥が入り交じるような響きで、心の中の情熱が時に高まり時に静まる様子を見事に描写されていきます。お客様は咳払いもなく、演奏に魅入られていたかのようでした。今度はピアノ一台が、オーケストラに匹敵する。そんな音楽の不思議を経験したのかもしれません。
■オトノハに向けて
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▲井阪さんのソロ。ショパンの『ロマンス』。「私たちが、いろはにの入り口になれれば」
井阪さんのソロのあとは、再びトリオで、今度はメンデルスゾーンの『春の歌』。これは耳にすれば誰もがあの曲かとわかる一曲でした。中本さんが言うように、楽器それぞれの音の響きを堪能させてもらいました。
そして映画やミュージカルでも人気のポピュラー『オーバー・ザ・レインボウ』。聞き慣れた調べが流れ出すと、頭の中で歌まで再生されるようです。
そしてアンコールでは、再び井阪さんのソロ。丁度このコンサートに来られている方がお誕生日ということもあって、プレゼントの意味もこめての一曲でした。
さて、終演後子どもたちにも話を聞いてみました。
演奏中に、微動だにせずにじっと集中していた様子が印象的だったのは小学校2年生のHくん。
「綺麗な曲で楽しかった」
と、笑顔で答えてくれました。普段は色んな曲を聴いているそうです。
「本当にいい音楽なら、子どもたちはおとなしく聴く」
という3人の言葉は本当でしたね。
1時間弱のコンサートは短いながらもバラエティに富んでいましたが、やはりあっという間で、まだまだもっと聴きたいのにと思わせる物足りなさもありました。なるほど、ここで食欲を喚起して、3月9日の「オトノハ」コンサートにつなげるという作戦だったのですね。
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▲チェロ奏者の藤原士郎さん。「自然や昔からあるものを感じてもらえたら」

では、最後に「オトノハ」について”トリオいろはに”の3人に尋ねてみましょう。
――オトノハに向けてメッセージを。
中本「さっきいったことと同じなのですけれど、色んな音色をまず聞き分ける楽しみのあるコンサートです。それと全体の調和、アンサンブルもどんなものかを体で感じてほしいですね」
藤原「何でオトノハにしたのかというと、これは自分の個人的な思いなんですけれど、長野の友達のところで、テラスでチェロを弾いていたら、鳥たちが出てきて、ここにいたいなぁとか、そういうのが聞こえるじゃないですか、音楽っていうのは本当はそういうところにあるんだろうなと、そういうのをなんでもいいから感じてくれたら。それとベートーヴェンの曲がどう結びつくのか、難しい話はいっぱいあるけれど、聴かれた方がどこか自然とか昔からあるものとかを感じてくれたらいいなと、思っていますよ」
――オトノハというのはカタカナですか?
藤原「カタカナですけれど、音の葉っぱですよ。いや、考えていただいたんですよ(土井さんに)」
土井「音の葉っぱとあと羽です。そういう自然の中でっていう意味で」
藤原「色々あるんですよ。ベートーヴェンがすっごい自然がすきだったとか、(現代音楽家の)武満(徹)さんは武満さんで、自然の中に音楽があるんで、自分はそれを切り取っているだけだって、言ってたり」
――この堺市博物館も自然に囲まれていますね。
藤原「もちろんホールの中で弾いているけれど、お客さんたちの想像はそこからずっと飛び出て、色んな広いところへ行ってほしいんですよ。だから小さい頃に虫が好きだったというのと同じなんですよ。そのことと結びついているんだ。俳優の香川(照之)さんみたいに、虫好きな人っているじゃん。そこにいるだけで楽しい。虫が居る世界が。昆虫採集したいじゃなくて、生き物たちがいる世界にいると幸せ。そういうところと同じ」
中本「私は川の水辺でせせらぎ」
藤原「それもいいなぁ。水辺と風とせせらぎとね」
井阪「私、星!」
藤原「天体観測してるよね」
――星のソムリエなんですよね。
藤原「すごい、すごい。いつからそんなことしてたの。知らない間に」
中本「オリオン座とか綺麗ですよね」
井阪「最初は興味なかったんですけれどね。友達に誘われて天体観測に行ったのがきっかけで。凝り性で猪突猛進なんです」
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▲クラリネット奏者の中本吉啓さん。「それぞれの音色を楽しんでください」

――星好きというのは、音楽の世界にも反映したりしているんですか?
井阪「あ、ありますよ! 星と音楽をコラボさせて音楽を演奏したりとか音楽会をしたりとか、星つながりの曲を集めたコンサートとか、星の詳しい人のお話とコラボレーションしたりとか」
藤原「自然のものとやったりね」
井阪「星は色んな曲があるので」
――確かに。
井阪「音楽もそうなんですけれど、私は本当にすごいスペシャリストっているじゃないですか、外国からわざわざ呼んでくるような、シンフォニーホールで高いお金を払っても行きたいというような。そういう所の入り口になるような所が私たちやったらいいなってすごい思います。オトノハでも比較的お求めやすいお値段で、行きやすいアクセスのいい所にちょっといこかいなと思って行って、音楽ってええやんと思ってもらえたら、次はじゃあちょっとシンフォニーホールに行ってみようかとか思うその入り口。だから私は星もそうで、星も暗いところに行って見なきゃ行けないというすごい敷居が高いと思うんですけれど、私も町中で普通に観望会をやってて、スーパーの屋上とかでやっている時に、そういうところにふらっときて覗いてもらって、こんな町中でも見えるんや、じゃあ今度は天ノ川見える所へ行ってみたいな。そういう入り口的な役割に自分がなれたらと、いつも音楽も思っているし、星空もそう思っているのです」
――なるほど、いろはにという名前だけに。
井阪「そういろはの、入り口になったらという感じですね。
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▲”トリオいろはに”の3人。
“トリオいろはに”のまちなかコンサートは、クラシックファンでなくとも気軽に聴きに来られるコンサートでした。井阪さんのおっしゃるように、いろはにの「い」、入り口の「い」から始めたい方にもおすすめです。
3月9日に予定されている藤原士郎さんのチェロリサイタルでも、井阪さん中本さんも出演されます。きっと自然の美しさを感じさせてくれるコンサートになることでしょう。
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音の葉、音の羽。自然と人と、人と音楽と。
第8回堺市新人演奏会の出演を経て、様々な音楽活動を展開しながら関西にて長く後進の指導に携わり、大阪府より教育功労賞を授与された経歴を持つ藤原士郎。チェロの音色で紡ぐ、自然と人をつなぐ音楽をお届けします。
また、ゲストに第47回堺市新人演奏会優秀賞を受賞した板橋亜胡さん(ソプラノ)をお迎えします。堺市新人演奏会に出演した音楽家同士、先輩・後輩の交流もお楽しみください。
日時:2019年3月9日(土) 17時開演 16:30開場

会場 :堺市東文化会館フラットホール

入場料:
一般 1,500円(当日 2,000円)
高校生以下 700円(当日 1,200円)
※全席自由席
※就学前のお子様の入場はご遠慮ください。

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