子どもたちの熱気を包み込むように舞台の幕が下りました。
2018年12月に公演されたジュニアミュージカル劇団Little★Starの公演『Gift』は、満員御礼でゲネプロ(最終リハーサル)公演の取材となりましたが、取材であることを忘れて楽しめる作品でした。
“ジュニアミュージカル”と銘打っているが、それは子どもたちが役者であるというだけで、間違いなく本格的なミュージカルだった”
そんな感想も抱きました。もちろん、小さな俳優たちの中には、未熟さを感じさせる部分もありましたが、それは大人の劇団であってもあること。むしろ印象的だったのは、作品全体として質の高いエンターテイメントを目指す志や完成度の高さでした。
こんなミュージカルが一朝一夕に出来るはずがありません。一体、公演の裏側でどんな練習が行われているのでしょうか。今回の取材では、劇団Little★Starの裏側を覗いてみました。一体ミュージカルってどうやって作られているのでしょうか?
■本番と同じホールで舞台稽古
堺市立西文化会館ウェスティで活躍する劇団Little★Starには2チームが所属しています。2018年12月に『Gift』を公演したのは「teamEarth」。そして今回取材で伺ったのは、もうひとつの「teamSpica」で、2019年3月に『銀河鉄道の夜』の公演を予定しています。
『銀河鉄道の夜』とは、宮沢賢治の未完の代表作で、アニメや漫画にも数多の舞台にもなっている作品です。しかし、テーマとして”死”や”自己犠牲”を扱い、暗喩に満ちた幻想的な物語でもあり、どう演出するのか、どう演じるのか、難しい作品でもあります。
劇団Little★Star版の『銀河鉄道の夜』はどんな作品になるのか。この作品を料理するのは、脚本・演出の遠坂百合子さん。「teamSpica」は遠坂さんが率いるチームなのです。
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▲teamSpicaを率いるのは脚本・演出の遠坂百合子先生。 |
2019年2月22日、「teamSpica」の練習が行われたのは本公演が行われる予定のウェスティホールでした。舞台装置の大道具まで設えてある本番で使う舞台と同じ場所で練習できる貴重な機会でしょう。
練習開始を前に30人ほどの子どもたちが集まって遠坂さんの話を聞いていました。子どもたちの姿を見ると、年齢層は小学校低学年から中学生、高校生までと幅広いようです。丁度、年ごとに成長する時期の子どもたちです。肉体面でも精神面でも理解力でも大きなばらつきのある子どもたちを同時に指導するのは大変そうですが、どんな練習になるのでしょう。
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▲ダンス指導はSHINOBU先生。客席から全体を俯瞰して見ながらの指導。色んな位置から、細かくチェックされていました。 |
最初の練習はダンス。担当するのはSHINOBU先生。
「ダンスの練習は30分です」
割り当て時間を無駄にしないためにも、早速練習が始まりました。
今回のミュージカルの中でも見応えのあるシーンになるのでしょう「サギのダンス」と呼ばれるシーンです。
ダンスの群舞としての動きは複雑で、美しいだけでなく全体でメッセージを表現している物語の中でも重要なシーンであることがうかがえます。
舞台の上で子どもたちは、これまで教わったポジションで位置取りをします。が、実際に踊ってみると、大道具とぶつかったりして思うように踊れなかったりします。SHINOBU先生は、様子を見ながら細かく位置取りの変更を指示します。前回公演で指導していることもあって、SHINOBU先生は、すでに子どもたちの顔と名前が一致しているため、素早い指示が飛び交います。
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▲実際の舞台で踊ってみると、今後の練習でもイメージが掴みやすいでしょうね。 |
30分が過ぎ、パフォーマンスの練習時間に移りました。
講師は今回の公演から指導にあたられるKOTARO先生。
KOTARO先生が指導するシーンには、一抱えほどある立方体を多数使われます。この立方体は、シーンによっては椅子になったり、組み合わせて他のものになったりします。この立方体について、KOTARO先生は尋ねます。
「みんなはこれのことをなんと呼んでいる?」
「イス?」
短いやりとりでしたが、KOTARO先生が丁寧に子どもたちとの関係を構築していこうとする様子がうかがえました。
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▲パフォーマンスの指導はKOTARO先生。その場その場で臨機応変に演出アイディアが出てくるのは流石でした。 |
指導は、KOTARO先生が舞台にあがり、子どもたちの動きを脇で誘導したり、何度もやり直したりしながら続きます。
今回の舞台では、役者自身が自分の体と演技によって舞台装置を表現する所が多く、変幻自在の舞台表現も見所の一つでしょう。しかし、それだけに演技への要求は高いものになります。体の向き、動き、歩き方……KOTARO先生の指導を経て、表現したいものがクリアになってきたように見えました。
こうした指導前後での違いは、ほんの細かな変化かもしれませんが、この小さなこだわりの積み重ねが作品のクオリティの大きな差となって現われるのでしょう。
■未来を見据えての指導
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▲演技指導する遠坂先生。よく見るとteamSpicaのTシャツを着ていました。後ろでは他の子どもたちが何やら形作っています。 |
時間は押し気味で遠坂先生にバトンタッチ。
今度はセリフのあるシーンで、遠坂先生がセリフを読んで演技の指導を行い、その間に舞台装置を担当する子どもたちが自主的に練習を続けたりしています。
人数が多いため、先生が全員同時に指導できない状況になることは良くあります。興味深く思えたのは、この劇団の子どもたちは、そんな時に指示待ちにならないことでした。
たとえば、この日練習をお休みしている子どもが登場するシーンでは、配役の所に別の子どもが自ら名乗り出て代役で入る。何か問題を感じるところがあると、すぐに指摘したり、代案を出したりする。それは、プロフェッショナルな劇団となんら変わらない様子でした。
出る杭は打たれる、正解はひとつしかない日本的な学校教育と社会環境で育つと消極的な人格が形成されがちですが、劇団Little★Starの子どもたちの姿は、そうしたステレオタイプとは随分かけ離れて見えました。
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▲SHINOBU先生と何やら相談中のプロデューサーの古賀和恵さん。 |
練習終了後、プロデューサーの古賀和恵さんに、話を伺いました。
――子どもたちが活発に発言したり、進んで代役を務めたりする姿が目立ちました。
古賀「そうなるのに時間はかかりましたね。前の公演の経験があってようやくですね。自分の意見を言っている子を見て他の子も発言するようになる。大人の役者の中に、子どもを一人いれると大きく育つことがあります。そんな感じです」
――ジュニアミュージカルは子どもが成長する環境ということですね。
古賀「大人になる子、ついていく子がいますね。本番があるという環境が、一番子どもが育つ環境だといえます」
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▲練習の合間にもKOTARO先生に相談の列が出来ています。 |
KOTARO先生には、指導について尋ねてみました。
――子どもたちを尊重しながら指導されているように見えました。
KOTARO「僕が心がけているのは、大人と子どもをわけて考えないスタイルです。もちろん人によって理解の仕方に差はありますから、何かに置き換えて言ったり、イメージで言ったり、言い方を工夫はします。でも、舞台の上に立った時に、大人であろうが、子どもであろうが、同じです。教えすぎると成長を止めてしまう。教えすぎない」
――KOTARO先生もですが、遠坂先生の教え方も、自分で考えることを促しているように見えました。
KOTARO「はい。遠坂先生の方針もあります。教えすぎると研究する力を失う。個性を失う可能性もありますからね」
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▲新しく出来た資料の配付も子どもたちが自分たちの仕切りでやっていました。 |
遠坂先生へのインタビューです。
――今日の練習でも、シーンで表現したいことやイメージなどを伝えて、具体的な演技は子どもたちに考えさせている場面も多かったですね。
遠坂「自分たちで考えなさい、と言ってます。皆がんばっているなと感じます。思っている以上に子どもたちに能力がある。私は子どもたちの潜在能力を信じています。ある程度強めに怒る時もありますが、それには信頼関係がいりますし、理不尽なことを言うと反発もするでしょう。私は、何をすべきかを根気よく伝えるようにしています。作品を作るという大義のもとで(笑)」
――遠坂先生が特に大切にしていることは?
遠坂「子どもたちの先々のことを考えると今は大事な時期です。3年、5年、10年先のことを考えてやりたいと思っています」
3時間の舞台稽古は非常に興味深いものでした。ジュニアミュージカル劇団Little★Starで子どもたちが成長しているのも、長い目で先のことを考えている先生たちが、子どもたちを信頼し、自主的な創造性を促すような指導をしているからでしょう。
一方で、お芝居としてはようやく形になりはじめたばかりという所にも見えます。本番までにどのように仕上がっていくのか。少し時間をおいて次の練習も訪ねてみることにしました。
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