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20年後西区を芸術のまちに~堺市立西文化会館ウェスティ(2)

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堺市立西文化会館『ウェスティ』は、プロのアーティストが指導する子ども向けのミュージカル劇団「ジュニアミュージカル劇団Little★Star」を、地域の子ども習い事スクール『FSアカデミー』と協力して立ち上げました。2017年6月に告知を開始し、開催したオーディションの結果、堺市内を中心に85名の子どもたちが8ヶ月のレッスンの末舞台を踏んだのでした。
公共の施設が、なぜそこまで踏み込んだ企画を行っているのか、館長の益田利彦さんに伺った所、それは地域の文化振興のため何十年後もの未来を見据えて子どもたちに文化芸術に触れてもらうためというしっかりした理念があったからでした。(←前篇
ウェスティはどうしてこんなにもバックボーンのしっかりした運営が行われているのでしょうか? 実はウェスティの運営を行っているのが『大阪ガスビジネスクリエイト』という民間企業なのですが、この『大阪ガスビジネスクリエイト』は文化芸術施設の運営に関しては、知る人ぞ知る存在だったのです。
■扇町ミュージアムスクエアの血脈
『大阪ガスビジネスクリエイト』はその名の通り、大阪ガスを親会社とする会社です。業務内容は多岐にわたっており、システム開発もあれば、事務業務のアウトソーシングもあり、事業部が違えばほとんど別会社のようにも見えます。その中でも、施設の管理運営を行っている事業部があり、クライアント別にみると大きくは2つに分類できます。
益田「ひとつは、大阪ガス ガス科学館やhug+MUSEUM(ハグミュージアム)、DILIPA(ディリパ)といったショールーム的な広報施設を運営しているチーム。もうひとつがウェスティのような公共施設を運営しているチームです」
このチームは関西の演劇ファンならだれもが知る「扇町ミュージアムスクエア」を運営していた㈱プラネットワークの血脈を持つ人材が活躍する組織です。(グループ会社の統合で社名が現在の大阪ガスビジネスクリエイトになっています)
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▲益田利彦館長。長く付き合いのあるウェスティホールの技術スタッフは信頼できるプロフェッショナルがそろっています。

 

「扇町ミュージアムスクエア」内の小劇場「フォーラム」は、関西では近鉄小劇場と双璧をなす小劇場で、劇団☆新感線など人気の劇団が活躍していました。小劇場以外にもミニシアターやギャラリー、雑貨店などもあり、「扇町ミュージアムスクエア」は文化の発信基地だったのですが、ビルの老朽化により2003年に「扇町ミュージアムスクエア」は閉館し、ビルも解体されたのでした。
奇しくも同年2003年地方自治法の一部改正により指定管理者制度が生まれ、公の施設の管理運営を営利企業やNPO法人などの団体に代行させることができるようになりました。
『大阪ガスビジネスクリエイト』は、いち早く指定管理者制度に参加し、現在では関西を中心に13施設の指定管理者になっています。
――益田館長は、もともとこのお仕事に携わっていたのですか?
益田「いえ、新卒で入社した際に配属された部署は全く違う分野の事業部でしたが、8年前に異動でこちらに配属されました。それから公募された公共施設を獲得するための開発部門や『咲くやこの花館』や『なにわの海の時空館(2013年閉館)』にも勤め、色んな分野の経験をしました。開発部門もクライアントというお客様と接するわけですが、こうして現場でより近くお客様と接する方が自分は面白いですね」
――扇町ミュージアムスクエア時代から携わっている方は、ウェスティにいらっしゃるのですか?
益田「当時、扇町ミュージアムスクエアで実際に業務をしていたメンバーは他の組織で活躍をしています。しかし、この施設運営の組織にいる者はすべからくその諸先輩方の指導を受けている者ばかりです。
ウェスティの職員は音楽に詳しい者、ダンスイベント等が得意な企画経験者、他公共施設の館長経験者、歴史好きの学芸員など様々です。tただ、ウェスティのような公共の文化施設の場合、2つの視点が必要だと思います。ひとつは文化芸術に対する専門的な知識。そしてもう一つは、地域の人が興味を持って使っていただけるように、住民目線で事業を考えることです」
――なるほど。いい芸術作品だから、プログラムに入れるというわけにはいかないのですね。
益田「たとえば、専門的な知識を持つ職員が企画した事業は、プロのアーティストやその道に造詣の深い方には評価が高いかもしれませんが、必ずしも地域住民が参加しやすい、興味を持ちやすい事業とはならない場合があります。
以前、弊社が運営していた『神戸アートビレッジセンター』は設置当初から先駆的なものを扱う施設と位置付けられていたので、コンテンポラリー(現代的な)作品を扱い、そういうアーティストの支援を行えばいいでしょう。でも、市民文化の創造及び振興、広く市民の利用に供することを目的としたウェスティはそうではありません」
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▲築20年を超えるウェスティホールですが、これまで丁寧にメンテナンスされており、指定管理者となった時に状態の良さに驚いたそうです。
ウェスティがこのような方針で運営されているのは、地域の文化振興を目的とした施設だからですが、それは実は堺市だからこそでもあったのです。
■文化振興条例が生きている
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▲西区役所などとも同居しているウェスティ。

 

益田「実は堺市がウェスティの指定管理者を公募した際、応募の提案書を作ったのは私です。当時(現在もそうかもしれませんが)、指定管理者を公募している自治体のなかには、財源確保が難しく、施設の管理者に対して事業予算をつけることができない事例が多数ありました。また、施設で開催する事業内容よりも応募者が提案する価格が重要視され、施設で開催する事業は、二の次だったりする場合もあります。

しかし、設置した公共施設の目的を達成させるためには、その施設を活用した取り組みをどのように展開していくかということが重要だと思います。
 私は自治体が施設の設置目的を達成させることを指定管理者任せにするのではなく、財源確保も含め、一緒に取り組んでくれるような自治体と一緒に仕事がしたいと考えていました。堺市は堺市マスタープラン、第2次堺市文化芸術推進プラン(現在は、自由都市堺文化芸術まちづくり条例、自由都市堺文化芸術推進計画)が策定されており、その推進のための財源も予算化されていました。施設の指定管理者公募条件にも文化会館が実施する事業のための費用を予算化することの制限を感じる条件はなく、この自治体の公共施設で文化芸術の振興を一緒にしてみたい!と思ったのを今も覚えています」
――自己採算となると、どうしても採算がとれるであろう有名コンテンツを呼びがちになって、ウェスティでやっているような挑戦的な試みは難しくなりますね。
益田「そうですね。採算がとれる有名コンテンツは、市民に上質な鑑賞機会を提供するという点では、良い事業だと思いますが、単発で終わりがちです。市民文化の創造、市民の文化活動につなげるという視点では市民参加型事業、各段階に応じた育成・支援事業、裾野を拡大するような事業等が更に重要になってくると思います。また、文化会館は今後更に社会包摂的な視点での取り組みが重要になってくるでしょう。ウェスティの事業プロデューサー、ディレクターはそういった視点で事業を企画し、地域住民、地域団体、アーティストを巻き込んだ事業を実施しています」
――なるほど、堺市は根拠となる条例や文化芸術振興に係る推進プランがしっかりと考えられているからこそ、ウェスティでもそのような事業にチャレンジできるのですね。
益田「堺市は文化芸術の振興に関する条例が生きていると感じます。市の計画において、次代を担う子どもたちへの取り組みは重要視されています。ちなみに指定管理者に応募する際に西区の状況を調べたのですが、西区は堺市の中でも年少人口の比率がトップでした。弊社が持つ文化芸術振興の考え方においても、子どもたちへの長期的な視点での取り組みがとても重要だと思っていたこともあり、とても親近感を覚えました」
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▲ミュージカル『GIFT』の一場面。※画像提供:堺市立西文化会館。

 

――堺市の中で西区が一番子どもの比率が高いのですか。それは知らなかった。
益田「芸術・文化の振興を図るには、時間はかかるかもしれませんが子どものころからたくさんの芸術や文化に触れる環境を作り続けることが一番の近道だと思っています。子どもたちのなかには、ウェスティは自分には関係ないと思っている子もいると思います。そういう思考のバリアも取り除いていけるよう様々な取り組みを展開していきたいです。先ほども触れましたが、子どもの頃の出会いは人生の選択に大きな影響を与えます。なのに自分の力ではどうすることもできないこと(居住するエリア、家庭の状況等)によって出会いに差が出るのはどうにかしたいですね」
――「ジュニアミュージカル劇団Little★Star」も子どもが芸術に触れる環境作りの一つですね。
益田「はい。サイクルとして、まず芸術に触れるきっかけがあって、活動がはじまって、定着して、広がっていく。だから長期的な視点で取り組まないといけません。指定管理者は5年更新なのですが、5年間で達成できることってほとんどない。20年間を考えた上での5年でなければならないと思っています」
そうした長い目で見て企画したプロジェクトが、実はウェスティにはまだあります。それは益田さん自身もメンバーの一員として参加している企画「第九コンサート」です。
■いつか子どもたちの演奏で第九を歌おう
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▲第九コンサートの練習風景。

 

1996年に開館した西文化会館は2016年に20周年となりました。
益田「その時に、20周年記念で今後も続いて発展していける事業をしていきませんかということで、第九コンサートが企画されたのです。プロのアーティストと、地域の住民と会館が一緒にやれる企画です。でも第九というと敷居が高い印象もありますよね。音楽に親しんできた人だけでなく、もともと体育会系の私のような素人でも出来る、一緒にやりましょうということで、私も参加してブログで『館長の第九練習日記』を掲載したりもしました」
――効果はありましたか(笑)
益田「そうですね。最初の年は50人、去年は69人の参加者がいました。毎年『冥土の土産じゃ』と冗談をおっしゃりながら継続的に参加してくださるご年配の方もいらっしゃいます。この第九コンサートでは、第一部でプロの音楽家の演奏があって第二部でプロと共演する市民の合唱があり、例年チケット完売するほど地域の方に愛されるコンサートになりました。これはコンサートが終わった後に参加された音楽家の方がおっしゃっていたのですが、最初はそんなにお客様は来ないだろうと思っていらしたのですって。ところが蓋をあけると満席で驚かれたと。とても喜んでいただけたらしくて、年明け早々に今年はいつやる予定なのか教えてほしい、スケジュール調整するから、といったご連絡までありました。十分なギャランティをお支払いできているとは思えないのですが、そう言っていただけてこちらも嬉しかったですし、今年も満席にしないとと気持ちを新たにしました」
――アーティストも参加したくなる企画なんですね。
益田「文化庁の文化審議会委員をされているような専門家からも、いいサイクルが出来ていると評価していただいています。実は音楽でも子ども向けの事業がありまして、子どもの弦楽合奏団を結成したんです。まだまだこれからですが」
――弦楽ですか?
益田「学校だと吹奏楽は多いですが、弦楽合奏はまずないでしょう。弦楽器を習っても1人で弾く事が多い。プロを目指すなら、子どもの頃から合奏の体験を積むことは大切だと思うのです。そして将来的には、その子どもたちにプロの演奏家になってもらって、ウェスティの第九コンサートで演奏してほしいなと思っています」
――本当に20年先を見据えた事業ですね!
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▲20年後に堺市は芸術のまちに。

 

益田さんにお話を伺って、ウェスティの指定管理者である『大阪ガスビジネスクリエイト』の運営や、協力するプロのアーティストの活動が素晴らしいものであることがわかりました。そして、その背後で堺市の堺市マスタープランを土台とした文化振興条例が大きな役割を果たしていたことも。
行政の後押しを受けて、会館と芸術家がいい公演や事業を展開し、市民がそれを享受したり、参加したりすることで文化が振興する。文化芸術を愛する市民が増えることで、行政も文化施策を重視するようになる。そんなサイクルが確立していけば、20年後に芸術のまちになるという益田さんの夢もきっとかなうのではないでしょうか。
堺市立西文化会館(ウェスティ)
住所:堺市西区鳳東町6丁600
電話:072-275-0120

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