ミュージカルを作ろう!? (4) 銀河鉄道の夜 観劇レポート(後篇)

 

ジュニアミュージカル劇団Little★Star「teamSpica」の第2回公演「銀河鉄道の夜」の舞台も進み、お話も佳境に入ってきました。この舞台の脚本・演出は遠坂百合子さん。この遠坂版「銀河鉄道の夜」は、基本的には原作をなぞりながら、いくつかのオリジナルシーンが挿入されています。
前篇では、追加されたシーンが、「ほんとうのさいわいとは一体何だろう?」という大きな問いに対して、現代で生きる子どもたちのための答えになっている所を見ました。
ストーリーも佳境に入り、リハーサルでも熱心に指導されていた沈没船のシーンがはじまります。

 

■死者たちの旅

 

▲粗野な振る舞いをする鳥を獲る人(中央)に、ジョバンニは当初いい印象を抱いていなかったが……。

 

2人の主人公、ジョバンニとカムパネルラの銀河鉄道の旅に不思議な同行者が現われます。
それは姉弟とその家庭教師の3人連れで、乗っていた船が沈没したのだといいます。
これまでも、この銀河鉄道の旅が、天国へ向かう死者の旅であることは、しばしば暗示されていましたが、ここに来て読者(観客)は、はっきりとそうであることを知ります。

 

▲姉弟とその家庭教師の登場で、この度が死者の旅であることがはっきりと示される。

 

氷山にぶつかって沈没した船。それは1912年に北大西洋で氷山と衝突して沈没したタイタニック号をモチーフにしています。大ヒット映画の影響もあって、現代でもよく知られた事件ですが、宮澤賢治15才の時の世界的大事件でもあります。

一体、この3人に何があったのか。家庭教師によるナレーションの朗読も聞き応えがありましたが、「黒子」たちのパフォーマンスが白眉でした。
前篇で指摘しましたが、この舞台では、個別に役割のあるキャラクター以外のモブ(群衆)のキャラクターたちは、黒衣の「黒子」として登場します。氷山の激突と沈没のシーンでは、組み替え自由の灰色の立体……それは時に銀河鉄道の椅子にもなる……を組み替えることで氷山とし、またモブの「黒子」たちで巨大客船とその沈没の様子を活写したのです。

 

▲傾いていく豪華客船。そして死を迎える乗客たちを熱演。演出はKOTARO先生。

 

また、他の子どもたちが救われるために、脱出船の席を譲り、沈没船と運命を共にすることを選んだという3人の選択は、「自己犠牲」というテーマがあり、次の「サソリ座」の寓話のシーンへとつながります。

 

■カムパネルラとサソリ

 

▲赤いサソリをイタチが襲う。

 

銀河の旅は、赤い瞳のサソリ座へとさしかかります。
沈没船からやってきた女の子は、サソリ座の寓話を語り始めますが、この舞台ではそのお話は劇中劇としてダンスで表現されます。

寓話は以下のような話です。
荒野で生きるサソリが、ある日イタチに追いかけられ、逃げるうちに井戸に落ちて水死してしまう。その生と死の狭間にサソリは、沢山の虫の命を奪って生きてきた自分が無為に死んでしまうことを悔い、せめてイタチに食べられてやるべきだったと嘆きます。その刹那、サソリは天上の星座となって燃えている自らを発見したのです。

 

▲死者達との別れの場。停車駅サザンクロス。ジョバンニはカンパネルラとどこまでも行くことを望むが……。

 

この寓話を語ると、姉弟と家庭教師の3人連れは、停車駅サザンクロスで下車し、銀河鉄道にはジョバンニとカムパネルラの2人だけが残されます。2人はサソリの寓話から、「ほんとうのさいわい」について考えるようになります。
ジョバンニは、誰かのほんとうのさいわいのためだったら、サソリのように何万回だって焼かれてもいいと言います。カムパネルラと2人どこまでもどこまでも行こうと。
しかし、銀河鉄道は、サザンクロスの足下にある石炭袋(暗黒星雲)にたどり着いて、カムパネルラは姿を消し、ジョバンニの旅は終焉します。

 

▲おぼれたザネリを助けるために、カンパネルラは川に飛び込む。

 

丘で目覚めたジョバンニは町へ向かい、川のあたりで人が集まっていることに気づきます。川に落ちたいじめっ子ザネリを助けて、代わりにカムパネルラが流されてしまったのです。様子を見に来ていたカムパネルラの父から、ジョバンニはジョバンニの父が無事帰ってくるという消息を知ります。ジョバンニは親友の死と父の帰還という2つの知らせを携えて母の元へと帰ります。

そしてジョバンニのモノローグから、登場人物が総出演しての歌とダンスがあり、そのまま物語はフィナーレを迎えます。

 

■演者・スタッフインタビュー

 

公演を終えたロビーは人でごった返していました。
やり終えた満足感の笑み、記念撮影、おしゃべりが花開いています。そんな中で、演者とスタッフにインタビューしてみました。

 

SHINOBU先生(ダンス指導)

 

▲ダンス指導のSHINOBU先生。

 

――公演を終えた感想はいかがですか?
SHINOBU「まずは誰一人出演者が欠けることなく、この公演を迎えられたことにすごく感謝しています」
――当初と比べて子どもたちの成長はどうでしょうか?
SHINOBU「もう前回の第1回目よりすっごい成長していてて、私たちが思う以上に自分のことは自分でやったりしていて、この公演でぐっと伸びました」
――じゃあ、次も楽しみですね。すでにこうしてやろう、みたいな気持ちがあるのでは?
SHINOBU「そうですね。指の先から先まで揃えられるようなパワフルなダンスにしたいです」

 

遠坂百合子先生

 

▲脚本・演出の遠坂百合子先生。

 

遠坂「ほっとしました。ここまで来るまでみんな大変だったと思います。すごい負担をかけたなってずっと思っていて、とてもしんどかったと思うんです。みんなにかなりハイレベルなことを求めてきたので、色んな面で。でもみんな良くやってくれたなと思っていて、それが本当に良かったです。良くやってくれたなって、変な感じなんですけれど、ある時点から私の所を離れて自分たちで成長を始めた。そんな感じです。急に単細胞だったものが、分裂を始めて増殖をし始めたみたいな」
――もう世界が違うみたいな。
遠坂「急に自分たちで成長を始めたんですよ! 私が指示をしなくても自分たちで話をして、もっとこうした方がいいんじゃないとか」
――それはいつぐらいですか?
遠坂「それをはっきり感じたのは、約1年かけてやっていたんですけれど、段階があって、大体半年ぐらいの時、それから10ヶ月ぐらい立ってからとか、そういう風にある期間ごとにぐっぐっと、あれ寝返りできたとか、あれハイハイできたとか、あれ急に立ってる! とか」
――まるで本当に子どもの成長のようだったんですね。
遠坂「急に走り出した、とかね。」
――今回の作品は遠坂さんの目指す高いテーマ性があったかと思うのですが、そこはうまく表現できましたか?
遠坂「やはり子どもたちには人生があって、今まで生きてきた年月があって、多分ぴんとこないこともあったかと思うのです。が、それはそれで良かったんじゃないか。今の彼らが、彼らの体と心を通して出てきた言葉、それと私が書いた脚本とを合体させた感じです。それでテーマ性みたいなものが達せられたかどうかは私も良くわからないんですよ、実は。みんなも、良くわかってやっていたかどうかはわからないんですけれど、ただみんなが前向きにそれを探っていたことは確かです。だから本当に旅していた感じです」
――では旅は終わって、ひとまずお疲れ様でしたという感じですね。
遠坂「ありがとうございます。ひとつの終着駅にはつきました」
――でもまた次が待っているって感じなんですよね?
遠坂「そうなんですよね。妙な寂しさと、自立していくみんな、いつまでも一緒にはいられへん、そういうものが予感されてちょっと寂しくはあるんですけれど」
――そうですね。子どもたちの成長が見られたという意味でも、いいお芝居でしたね。
遠坂「はい。ありがとうございました」

 

古賀和恵学長

 

 

――まずは終えた感想を。
古賀「もうとにかく無事にたどり着いてよかったなと。途中ちょっとゴールが見えなくなったので、本当まさか子どもたちがここまで頑張ってくれるとは思わなくて、みんなの成長に感動ですね」
――1作目と比べても成長が著しい?
古賀「本当にすごいですね。1作目のことを思ったら、2作目はかなり天ぐらい伸びた、言い過ぎか(笑) 」
――一番伸びたのはどんな所ですか?
古賀「みんなが自分のセリフのない所の演技をちゃんとつなげるようになって、今回は黒子とかが多かったんですけれど、セリフがない所で表現が出来るようになった。すごいな。みんな伸びたなって感動しました」
――次回はまた?
古賀「次回は新たな課題ですね。今回がすごい静かな作品だったので、次回はブロードウェイミュージカルをします。堺だけどブロードウェイミュージカル。きらびやかな感じでバンバン踊って華やかな猫のお話をやります」
――楽しみですね。ありがとうございます!

 

ジョバンニ役 高橋惟さん

 

 

――終わってみた感想としては?
高橋「やりきった感があって、楽しかったです」
――自分なりの課題的なものはどうでしたか?
高橋「だせました」
――最後の演技が難しいとおっしゃっていましたが。
高橋「みんなが、お客様が感動したと言ってくれて、みんなの心を動かせた事を聞いて夢が叶えられたと思います」
――自分なりにどこが成長したと思いますか?
高橋「今まで演技で泣くこととかが、練習でやっていても難しかったのですが、本番で出せて成長したと思います」
――では次へ向けての意気込みをお願いします。
高橋「もっと大人の人とかと一緒にやると、とても勉強になるので、大人の人たちと一緒に出来る演劇のところにオーディションを受けたいと思います」
――そうですか。がんばってください!

 

カンパネルラ役 山下健吾さん

 

 

――まず感想はいかがですか?
山下「いままでやってきたことを全部出し切って満足です」
――今回はテーマ的にも難しいとおっしゃられていましたが、それも自分なりに?
山下「自分なりの思う限りを尽くしました」
――では満足?
山下「もう満足です。その2文字だけです」
――先生方に話をきくと、みんな成長したと言っていますが、自分での実感は?
山下「色々練習とかもしている中で、みんなも成長していって、自分もそれに追いつくために成長していったなっていうのは実感がありますね」
――どういう所が成長しましたか?
山下「心情を読み取るとか、その場面ではどういう顔をすればいいとか、そういうのをちゃんと考えて出来るようになったかなと思います」
――今後はどうしていきたいのですか? 何か目標とかは?
山下「これが中学校で最後なので、次回出るかはわからないのですが、でもミュージカルは続けていきたいです。だから別のミュージカルに出た時に、今学んだことを活かしていきたいです」

 

練習から見させてもらったジュニアミュージカル劇団Little★Star「teamSpica」の第2回公演「銀河鉄道の夜」。公演は終わりましたが、高橋さんも山下さんも、さらに深く演劇の世界へ関わっていく道を選ぶようです。堺市立西文化会館ウェスティが目指す「20年後に堺を芸術のまちに」という大きな夢、子どもたちの背中を押すという役割も果たせているようです。
子どもたちの夢が実現し、素晴らしい演劇文化がこのまちに根付いていくこと、今後も期待したいですね。

 

 

※ジュニアミュージカル Little★Starの次回公演。

 

 


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