円卓に集いしものたち~さかい子ども食堂ネットワーク~(1)
子どもたちの貧困が問題となっている現代の日本。
TV番組などのメディアで取り上げられたこともあり、子ども食堂が注目を集めるようになりました。
つーる・ど・堺でも、2017年から2018年にかけて堺市の「さかい子ども食堂ネットワーク」を通じて、3つの子ども食堂を行いました。あれから1年。堺市の子ども食堂を巡る状況はどうなっているのでしょうか。
今回は、子ども食堂を運営する人たちと、子ども食堂に関心を持つ人たちが集まる「円卓会議」にお邪魔することにしました。
■全区に広がった子ども食堂ネットワーク
円卓会議の会場は、予定よりも多くの参加者で満員になっていました。
それもそのはずです。会議冒頭の報告によると、「さかい子ども食堂ネットワーク」に登録されている子ども食堂の数は昨年のうちにぐっと増えて42にもなり、堺市全区に子ども食堂が存在するようになりました。この調子なら、約100校区ある堺市の全小学校校区に子ども食堂が存在するという日も遠くなさそうです。
また、フードドライブも堺区と西区で実施、企業や生協や個人、そして出雲大社などからも様々な寄附が寄せられたとか。
そして、昨年にはなかった大きなトピックスが、大学生の本格的な参加です。
この日は、大阪府立大学の学生グループと、大阪健康福祉短期大学の学生グループの二組の学生グループが、すでに行っている取り組みについて発表するために会議に出席していました。学生たちがどんな取り組みをしていたのか、紹介しましょう。
■「しらさぎおうちごはん」と大阪府立大学学生グループ
東区の子ども食堂「しらさぎおうちごはん」は、中百舌鳥から白鷺へ移転した『おうちcafeモモ』で毎月第1・3月曜に開催されています。
まずカフェのオーナーである横尾さんが、子ども食堂を始めたきっかけについて話しました。
「中百舌鳥から白鷺へと移転した時に、白鷺でも前と同じように居場所作りをやっていこうと思っていましたのですが、子育てもあって自分だけでは難しく、近くにある大阪府立大学のボランティア・市民活動センターに相談に行きました」
するとそこで横尾さんが知ったのは、学生ボランティアが長続きしない理由のひとつは、学生が活動に主体的に関われないからだということでした。
だったら、居場所作りを学生に任せればどうだろうか、というのが横尾さんのアイディアでした。
これに学生たちが応えます。
「私はもともと子ども食堂を含めてボランティア活動をしていました。その中で、子どもたちには家でも学校でもない居場所作りが必要だと感じていました」
と言う、子ども食堂でボランティア経験のある府大生の田島さんらによって、子ども食堂『しらさぎおうちごはん』が始まりました。
田島さんたちは、プロジェクターで資料を映しながら、これまでの活動を解説します。
「しらさぎおうちごはん」は、丁度会議の前日に行われたものを含めて、これまで5回開催されています。4回までで、子どもが33人、大人が49人参加。食材はフードバンクや、スーパーからの寄附。メンバーが他の子ども食堂へボランティアに行って、その際に寄附してもらうことも。
「参加者に大人が多いのが特徴で、地域の人が通りすがりに参加するケースもありました。また、カンパ制に希望を見いだしています」
一方で課題も見えてきています。
「運営に関わっていくスタッフの確保が課題です。大学生は卒業していきますので。もうひとつの課題は、いかに地域に溶け込んでいくか。現状は大学も子ども食堂も地域の中に入っていない状態です」
次に両者を引き合わせた、大阪府立大学のボランティア・市民活動センターVstationの松居さんがマイクを握ります。
「大学生と子ども食堂の橋渡し役なのですが、まず今の学生は、昔と違って忙しい。授業にサークル、アルバイトがあり、長期休暇でもインターンシップに行っていて時間があまりない。なので時間を有効に使いたい、無駄な時間は使いたくないという思いがある。これは裏返すと、やりがいを求めているともいえます」
学生たちの話を聞く時は感激したり穏やかな表情を浮かべていた子ども食堂を運営する人たちでしたが、松居さんの報告には表情が真剣になっていました。学生ボランティアとどう関係を築くのかは切実な問題なのでしょう。自分たちの問題として、耳を傾けていたようです。
「ボランティアに行った学生に話を聞くと、子どもと接するのは楽しいけれど、子ども食堂と関わって何になるのかよく分からないと言います。子ども食堂側も学生とどうコミュニケーションをとっていいのかがわからない。そんな中でも学生たちがやりがいを感じているのは、うまく両者のコミュニケーションが取れているケースです。学生の話にも『○○さんに教えてもらえた』と実名が出てきます。ボランティアに対してどんな関係を作りたいか、コミュニケーションがキーワードだと思います。そして私たち大学のボランティア・市民活動センターとしては、それに加えて、学生たちに社会に出る役に立つことを学んで欲しいという願いがあります」
松居さんによるニーズの分析を、子ども食堂にかかわる人達はどう活かしていくでしょうか?
■「くすのき子ども食堂」と大阪健康福祉短期大学学生グループ
大阪健康福祉短期大学には、介護福祉学科と子ども福祉学科がある短期大学です。
子ども食堂とずばり重なる、子ども福祉学科は、将来、保育・幼児教育のスペシャリストを目指すだけあって、「子ども学」や「福祉支援論」といった授業の中で、学生たちに子ども食堂についてレクチャーすることができました。介護福祉学科ではそうもいかなかったので、お昼のランチョンセミナーに「さかい子ども食堂ネットワーク」の山本さんに来てもらい、子ども食堂について話してもらったのだそうです。
その結果10名の学生ボランティアが集まり、昨年2018年の7月から堺区の「くすのき子ども食堂」にボランティアへ行くことになりました。
大阪健康福祉短期大学学生グループの報告は、1人1人の体験談のような形でなされました。
「僕はボランティアでどこへでも行きたいという人間なのですが、子ども食堂に対しては子ども福祉学科として、遊びの提案ができると思いました」
と福祉大生の飽田さんは語ります。
実際に「くすのき子ども食堂」では、子どもたちに何をしたいのかを尋ねて室内遊び・外遊びを行ったそうです。
けん玉やコマ遊びは、学生ボランティアがお手本を示してやってみせると、小学生でもすぐに出来るようになり、中学生は難しい技にも挑戦するようになったとか。
「最初はコマの巻き方もわからない子もいたのですが、子どもはすぐに覚えてしまいます」
「一方で、外遊びをするときにバスケットボールをしたいというリクエストがあったのですが、バスケのゴールが無かったんです。僕たちがどうしようかと困っていると、子どもたちがすぐにゴールエリアを決めて、ボールを持ってゴールエリアに入ったら得点というルールを作ったんです。子どもたちのすごさを知りました」
大阪健康福祉短期大学の学生グループは、それぞれ学んだことや得意なことで子ども食堂に貢献している。それだけでなく、子どもたちからも教わり、学んでいることようですね。
学生ボランティアを受け入れた「くすのき子ども食堂」の田所さんは言います。
「学生ボランティアには、自分の好きなことをするのではなく、聞く耳を持ってくださいといいました。自制心を持ってくださいと。それは子どもたちにも言っていることです。それ以外は自由に走り回ってくれていいのです」
この田所さんの話には、先のボランティア・市民活動センターの松居さんの話と同様、子ども食堂に関わる上での大切なヒントが含まれているのではないでしょうか。
さらに田所さんは言います。
「学生ボランティアに一緒に遊んで欲しいという子が多いです。特に今の子どもたちは、お父さんと遊ぶ機会が無いんです。だからお母さん以外の大人と遊びたいという気持ちが強いのです」
こちらの話からも、長い労働時間や母親だけに育児の負担がかかりがちな現代日本の社会問題がすけて見えてきます。子ども食堂は、こうした困難な問題に対して向き合う最前線の1つなのでしょう。
2つの学生グループの報告が終わり、今度は全員参加で語り合う時間となりました。この時間は、会議の運営方法も工夫を凝らしたもので、語られた内容と共に興味深いものでした。その報告は後篇にて。
堺市社会福祉協議会
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