挑戦!! 堺ブレイザーズ・トライアウト(2)

 

スカウトの目に留まらなかった埋もれた人材を発掘する機会になるトライアウト。このトライアウトを開催している堺ブレイザーズは、バレーボールVリーグ男子のトップチームです(前篇)。

長い歴史を持つ堺ブレイザーズがクラブチーム化した時に、クラブチームらしい事が出来ないかとトライアウトをすることにしたからだそうです。
このようにトライアウトは、社会的な使命を果たすためのものでもありますが、もちろん戦力発掘にもつながっています。たとえば現役選手の中では、リベロとして活躍する今富稜介選手がトライアウトをくぐり抜けてVリーガーとなった選手です。

2018年7月に開催されたトライアウトには、4人の若きバレーボーラ―が挑戦しました。まずは体力測定に挑み、「埋もれた人材はいるもの」とスタッフをうならせるような好成績を残したトライアウト生たちですが、次の技術審査では堺ブレイザーズの選手たちの練習に参加することになります。はたして、Vリーガーの中でも実力を発揮し、トライアウトをくぐり抜けることが出来るのでしょうか? 前篇に引き続き後篇でも、トライアウト生の奮闘をお届けします。

 

■堺ブレイザーズの練習

 

 

白板を使って練習メニューを説明する上杉コーチの周囲に堺ブレイザーズの選手とトライアウト生たちが集まりました。堺ブレイザーズは、日本代表に選出された髙野直哉選手、出耒田敬選手、千々木駿介選手以外の選手が顔を揃えているようです。Vリーガーとして鍛えられたこの面々に混ざると、トライアウト生は体格的にまだまだ細い印象です。

練習は、1人練習から。
1人1球ずつボールを持ち、ボールコントロールの練習です。まずは落とさないように右手と左手でボールをコントロールします。さすがにこれは簡単でしょう。ですが、次は頭が加わります。右手、頭、左手でボールをコントロールします。これはちょっと難しい。さらに、そこに肩も! 右手、右肩、頭、左肩、左手。端まで行ったら、逆順で一周できるでしょうか? これは容易ではありません。トライアウト生ばかりか、堺ブレイザーズの選手も、ボールコントロールをしそこないあらぬ方向へ転がるボールを追いかけててんやわんやです。選手たちは、悔しそうで、ちょっと楽しそう。
「一周できた人は?」
と上杉コーチが尋ねると、手をあげたのはわずか3人でした。なかなかの難易度です。

 

 

上杉コーチのメニューは、簡単な課題からはじまって、徐々に難易度をあげていくスタイルのようです。
次の一列に並んで順にネットをくぐりながらトスをあげる練習も、最初はオーバーハンドでトスを上げながら前へ進むだけだったのが、アンダーハンドになったり、体を一回転させたりと、条件が厳しくなっていきます。難易度があがるほど選手たちが嬉しそうにしているように見えます。これも、挑戦するハードルが高くなるほど、立ち向かいたくなるスポーツマン気質なのでしょうか。

また、この練習では、途中で失敗すると列の後ろに並び直さなければなりません。課題が厳しくなってくると堺ブレイザーズの選手でも一回でクリアすることは難しく、トライアウト生では何度もやり直すことになり、どうしても列にはトライアウト生が最後まで残ってしまいます。そんな状態で目に付いたのは、どうにかクリアしてきたトライアウト生を堺ブレイザーズの選手たちが、そっと手を差し出してタッチと声で迎え入れていたこと。トライアウト生相手だからというのではなく、ミスしたり苦闘している仲間は励ますもの、というバレーボール選手としての自然な振舞いから出た態度のように見えました。

 

 

続いて練習はペアの練習、3人組の練習に移りました。トライアウト生はトライアウト生同士ではなく、堺ブレイザーズの選手と組んでやっています。そうでなければ技術審査がしづらいということもあるでしょう。が、トライアウト生はVリーガーのプレーを直接体験できるのですから、これだけでも貴重な体験になったことでしょう。

3人組練習の次は、アタックの練習になりました。サイドからミドルからボールを打って行きます。あるいは打ち込まれるボールをレシーブする練習もしています。

 

 

ここまで練習の様子を見ていると、全て上杉コーチが指示を出して、スタッフがそれをサポートし、監督は様子を見守ることに徹している様子です。そんな中で、特別な動きをしているのが、マルキーニョスコーチで、練習中の選手から1人をピックアップして声をかけ、何か特別なアドバイスをしているようでした。

スタッフの方に、コーチ陣が用意する練習メニューのことなども尋ねてみました。
「上杉コーチが考える練習メニューは毎回違っているので、選手も飽きることがありません。マルキーニョスコーチは、技術的に何が不足しているかだけでなく、なぜそうなるのかフィジカル面で足りない部分まで指摘されるのです。さすがですよね。選手たちはみんなコーチを胴上げして恩返ししたいと思っているはずですよ」
そんな練習もいよいよ終盤、最後のメニューは試合形式の実戦練習です。

 

■実戦練習

 

 

2チームに分かれての3セットマッチが行われることになりました。
佐川翔選手がセッターのチーム、山口頌平選手がセッターのチームにそれぞれ2人ずつトライアウト生が配されました。

第1セット。
お手並み拝見なのか、トライアウト生によくボールがあがります。練習の最初の頃はぎこちなかったトライアウト生も、声を出し手を叩きチームを鼓舞するような姿を見せていました。試合の方は、山口チームの方が優勢で、25-20とやや差がついてセットをとります。

すると第2セットには、コーチ陣から指示が入ります。第1セットは佐川チームだったゼッケン5番のトライアウト生が山口チームに入り、トライアウト生が3人になります。代わって佐川チームにはウィングスパイカーの選手が入ります。佐川チームのウィングスパイカーはトライアウト生だけだったので、バランスをとったのかもしれません。
しかし、この入れ替わった5番の選手はサーブでエースを決めるなど、なかなかの活躍を見せます。勝負は一進一退で進行しますが、セット終盤になって佐川チームのブレイクが続き今度は20-25で佐川チームがセットをとります。

 

 

セットカウントは1:1。チームメンバーは5番のトライアウト生が佐川チームに戻って最初と同じに。最終セットは15点マッチです。

試合形式の練習を見ていると、バレーボールは積み重ねのスポーツだという印象を受けました。トライアウト生であっても得点を決めたり、Vリーガーのスパイクをレシーブすることもできる。個人のスーパープレーもあるけれど、しかしちょっとずつの差が蓄積され、チームとしての積み重ねで点差が開いていく。上杉コーチの個人練習メニューで技術の精度を少しでもあげていくことが、薄皮を積み上げるようにして最後には勝敗の決め手になるように思えました。

この最終セットは、やはり練習試合でも負けたくないという気持ちが垣間見えたりもしましたが、12-15で佐川チームがセットを制し、セットカウントも1:2で佐川チームの勝利となったのでした。

これでトライアウトは全て終了しました。トライアウト生にとって、そして堺ブレイザーズにとって手ごたえはどのようなものだったのでしょうか。

 

■トライアウトを終えて

 

 

トライアウト生の中からは、5番のゼッケンの方にインタビューすることが出来ました。
――まず堺ブレイザーズのトライアウトに参加してみた感想はどうですか?
「やはりVリーガーはひとつのボールに対するこだわりが違うと感じました。ボールが落ちるまでのプレーであったり。当たり前のことを当たり前にやっている。練習は最初緊張しましたけれど、選手の皆さんが声を掛けてくれたりして、やりやすかったです」
――今回、どうしてトライアウトを受けようと考えられたのですか?
「身長的にも高くないので、これから先はバレーボールをやらないつもりだったのですが、やはり小さい頃からの夢だったし、自分の力をためしてみたいと思ったのです。それで色々探したら堺ブレイザーズのトライアウトを知って、チャレンジ出来たらいいなと思い受けることにしたのです」
――試合形式では活躍するシーンもありましたが、手ごたえはありましたか?
「いい形じゃないとスパイクが決められなかったですね。活躍したというよりは、活躍させてもらったのだと思います。まだまだだと思いました」

 

 

2015年のトライアウトを受けた今富選手にも話を聞いていました。
――ご自身もトライアウトからVリーガーになられましたが、今日のトライアウト生の様子はどうご覧になりましたか?
「力を出し切れたのだったら良かったと思います。自分も小さい頃からプロを目指していて、チャンスがあればとトライアウトを受けました。皆さんもそうだと思います。自分もその気持ちを忘れずに、トライアウトからトップリーグで活躍できるようになったのでがんばりたいと思います」
――今ではチームからも頼られる存在になりましたね。
「もう若いとも言ってられない年齢ですから、チームを引っ張っていかないと。自分はトライアウトからで、皆とはスタートラインは違いましたけれど、今は同じ土俵でやっています。これからもやっていけたらと思います」

 

最後にスタッフはどう見ているのでしょうか。
――どうでしょうか? 最初におっしゃっていた光る人材はいましたか?
「そうですね。チームに対して声を出したり、コートの上でなかなかの雰囲気を出しているトライアウト生もいました。少し慣れてくれば(Vリーガーとして)やっていけるかもしれません」

さて、2018年に実施された堺ブレイザーズのトライアウトレポートはいかがだったでしょうか。
取材して、まずは堺ブレイザーズがクラブチームとして何をすべきかを自問自答してこのトライアウトを始めたというきっかけが素晴らしいと感じました。きっと日本には埋もれたままの原石がもっと沢山いるはずです。堺ブレイザーズのトライアウトがもっと知られて、多くのバレーボール選手が挑戦するようになってほしいですし、他のチームもトライアウトに門戸を開くようになればと思います。
また、トライアウトに挑戦した4人にはその挑戦に賛辞を贈りたいです。どうか夢を叶えて、バレーボールのコートで活躍する姿を見せてほしいものです。

 

そして、2019年も堺ブレイザーズはトライアウトを実施します。

トライアウト情報は、こちら

日本製鉄堺体育館
堺市堺区築港八幡町1番地(日本製鉄堺体育館内)
電話:072-233-2264
FAX:072-233-2248

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