12月らしい音楽といえば、皆さんはどんな音楽を思い浮かべますか?
ショッピングモールやまちにあふれる定番のクリスマスソング。なつかしの”恋人はサンタクロース“、ジョン・レノンの” Happy Xmas (War Is Over)“などなど名曲の数々。
そんな中、“第九”も年末のイメージとかぶる定番音楽のひとつですね。

「第九」とは、言うまでもなくベートーヴェンが作曲した9番目の交響曲のことで、通称「第九」。日本では、今を遡ること100年前の1918年に、第一次世界大戦で捕虜になって徳島県の捕虜収容施設に収容されていたドイツ兵捕虜によって演奏されたのが初演とされているようです。

大阪では大阪城ホールで行われる「サントリー1万人の第九」が有名ですが、実は堺市でも「年末に第九」を楽しむことができます。以前紹介した、ウェスティの愛称で知られる堺市立西文化会館（ウェスティ）では、市民の合唱団「ウェスティ第九合唱団」が組織され、半年間にわたるレッスンを経てコンサートが開催されているのです。一体どんな様子なのか、今回もウェスティの益田利彦館長にお話を伺ってみました。

■プロも参加したくなるコンサート

▲堺市立西文化会館（ウェスティ）の益田館長もメンバーの一員として合唱団に参加。

ウェスティの運営理念には、「地域住民の継続的な芸術・文化活動に繋がるような事業が必要だと考えており、有名なプログラムをパッケージとして持ってくるだけではダメだという考え方がある」と益田館長はおっしゃいます。
この理念に基づき、生まれたもののひとつがつーる・ど・堺でも取材をした「ジュニアミュージカル劇団Little★Star」ですが、その1年前に開館20周年の記念事業として「ウェスティ第九合唱団」の企画は始まりました。
「プロのアーティストと、地域の住民と会館が一緒にやれる企画です。でも第九というと敷居の高い印象もありますよね。音楽に親しんできた人だけでなく、もともと体育会系の私のような素人でも出来る、一緒にやりましょうということで、私も参加してブログで『館長の第九練習日記』を掲載したりもしました」
音楽に対してまったくの素人だった益田さんが、自ら実験台・広告塔になって、誰もが芸術・文化に触れ楽しむことが出来ると示したのです。

▲毎年メンバーが増えています。

こうしてはじまった「ウェスティ第九合唱団」は、40代～80代の男女で、初年度で50人、2年目で69人の参加者となりました。益田さんのように合唱団初心者もいれば経験者の方もいて、益田さんたちが思い描いた合唱団が実現しているようです。
コンサートを観に来るお客様も、500人入るホールが満席になるほどの人気で、これには参加したプロの音楽家も驚かれたそうです。
「参加した音楽家の方から年明け早々に、『今年はいつやる予定なのか教えてほしい、スケジュール調整するから』と、連絡があった時は、驚きましたし、嬉しかったですね」
プロの音楽家が心を動かすほどの雰囲気をウェスティホールは醸し出していたのでしょう。

そして2018年の年末、「ウェスティ第九合唱団」は3度目のコンサートに挑みます。続いて練習の様子も覗かせていただきました。

■プロの指導

ウェスティホールのステージには、スタインウェイのグランドピアノと、その背後に椅子が並べられていました。椅子は合唱団のためのもの。手荷物やコートを客席において、団員はステージの座席に並んでいますが、男女比でいうと女性の比率が高いようです。
益田館長は最初後列にいましたが、他の団員に促されて前列へ移動し、お隣の方と談笑しています。
益田さんに後で聞くと、男性陣がもっと少なかった初年度から一緒に練習している方で、
「戦友のような間柄です」
とのこと。ひとつのグループで同じ目的に向かって励むことで、地域との交流が実際に深まっていくのですね。

合唱団を指導するのは、岸美香先生。
「どのパートをやりたいですか？」
と先生が尋ねると、女性が多いこともあって上のパートに手をあげる人が多いようでした。
「では、私も下のパートに入ります」
どうやら、参加者の希望を大切にしてくれているようです。

一方で、指導の中身はというと、脇腹のストレッチからはじまって、声帯の構造について解説、イメージを大切にした発声など、想像していた以上に本格的です。岸先生が、時折合唱させたまま観客席におりて、音を確認している様子も印象的でした。
「皆さん、去年に比べると本当に成長しました」
と褒めると、褒められて嬉しくないはずはなく、合唱団の皆の顔がほころびます。すると、すかさず「だったら次はこういうことを意識して」と、次のステップの課題が与えられる。岸先生はなかなかのモチベーターです。

この練習の成果が披露されるのは、2018年12月23日。クリスマスイブイブです。
一体どんなコンサートになったのかは、後篇でお伝えします。