2012年5月にオープンした「紙cafe produced by TOUR DE SAKAI」ですが、2018年4月、ついに2号店がオープンしました。店舗はつーる・ど・堺の親会社でもあるホウユウ株式会社の一階スペースを増築したもの。一号店に比べれば小さな店舗でカフェスペースはありませんが、店名は紙【cafe】です。一体、どうして2号店を作ったのか、1号店とは何が違うのか?
出来たばかりの新店舗で、ホウユウ株式会社専務の田中幸恵さんと、紙cafeVol.2の窓口担当の竹﨑匡子さんにお話しを伺いました。
■印刷の窓口としての2号店
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▲ホウユウ株式会社1階の紙cafeVol.2。コンセプトは紙と堺、というのは1号店と共通しています。 |
南海本線の高架沿いの道路に面した店舗に入ると、まだ開店祝いの花の香りが強く漂っています。
まずは、2号店を作った経緯から、田中さんにお聞きしました。
田中「1号店の運営を店主の松永(友美)が1人でやるようになり、カフェやイベント、雑貨販売だけでも手一杯になってしまったんですね。それでお客様とじっくり向き合って打ち合わせしないといけない印刷仕事までは手が回らなくなってきたんです。だったら、こちらに2号店をというのが一つ目の理由です。もうひとつは、以前からここ(ホウユウ株式会社)が何をやっている所なのかよくわからないと、ご近所によく言われていたので」
たしかに以前のホウユウの社屋は、一階が大きな駐車スペースになっているため、普段はぽっかり口をあけたがらんどうで、何をしている所かよくわかりませんでした。
田中「それで1階の印刷室を綺麗にして外から見えるようにしようとしたのですが、奥まりすぎて外からはやっぱりよく見えなかったり、屋上に大きな看板をつけたら、高架からは良く見えるのですが、高すぎて下からは良く見えなかったりと、なんだかやることなすことがちょっと残念な結果になっていました。それもあって、(通りに面した)2号店を作ったのです」
この2号店にはカフェスペースはありませんから、1号店ではカフェ、2号店では印刷の受付という役割分担なのでしょうか?
田中「いえ、1号店でも引き続き印刷の窓口はやります。向こうが休みの時もあるので、その時でも2号店に来ていただくことが出来るようになりました」
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▲紙雑貨に囲まれた店内で、田中幸恵さん(左)と、竹﨑匡子さん(右)からお話を伺いました。 |
2号店は思惑通りに行っているのでしょうか。プレオープンから担当として実際に窓口に座っている竹﨑さんにもお話をうかがってみましょう。
竹﨑「まだオープン間もなくお客様の認知も低いので、お客様が来られるのもぽつぽつというところです。私自身印刷のことは勉強中ですが、やらないと慣れないですからね。実際にお客様とお話すると、ひとつも同じ内容のお仕事がないことに驚きました。同じお客様ばかりではないし、名刺であってもテイストの違うものがある。なかなか難しいですね」
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▲竹﨑さんは、ホウユウ株式会社で事務業務をする前は、接客業についていたので、その経験が活かされているそうです。 |
これまでは校正などを担当していた竹﨑さんですが、実際に受注の窓口になることで印刷物の多様さに気づいたのでした。
竹﨑「1号店が窓口になっていた頃に比べると、お客様と1対1で直接お話できるのは、やりやすい部分もありますね。前は疑問点があっても、松永店主を挟んでいたので、お客様に直接お聞きしていいものかどうか悩んだりもしました。今はお客様のご都合もわかるし、ニュアンス的なこともわかりますから、手間のかからない道筋ができて、それはお客様にとってもいいことなのではないかなと思っています」
始動して間もない紙cafeVol2.ですがすでに良い効果は出始めているようですね。
こうして新しい窓口を作るということは、ホウユウ株式会社の積極的な姿勢の表れのように思えます。一方で、印刷業界自体は、紙からネットへの移行、印刷物の廉価化などもあって、あまり景気のいい話は聞きません。ホウユウはどういう戦略をもってこの苦境に立ち向かおうとしているのでしょうか。
■捨てられない印刷物を作ろう
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▲「たたき上げの企画屋さんとは違った、うちならではの発想で印刷物を作る」と田中さん。 |
近年印刷業界は苦境を脱したのでしょうか? その問いに田中さんは答えます。
田中「印刷業界全体の仕事が、この30年で半減しました。印刷屋は利益率は悪くないのです。それでも、ここ10年ぐらいで印刷会社がバタバタ潰れました。これは景気不況では無く、社会の変化によって起きる構造不況だからです。もうチラシを何十万枚も折り込んだり、雑誌や新聞に広告を出す時代ではなくなってきました」
では、その状況に対してどういう方針で挑もうとしているのでしょうか。
田中「無くならない、捨てられない印刷物を作りたいと思っています。印刷屋でしか出来ない価値のあるものをやりたいのです。ネット上のプリントショップでは一般のお客様が、様々な種類の紙や特殊な印刷技術を、ネットを通じて選ぶのは難しいでしょう?それに対して印刷屋さんにしか作ることが出来ないものを提供していきます」
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▲紙の手触りにまでこだわって印刷物を作ることが出来るのも印刷会社だからこそ。 |
その実例のひとつとして、田中さんは箱入りされた物体を持ってきました
田中「これはあるベアリング会社の80周年の記念品です。一昨年はこの仕事にかかりっきりでしたね。企業防災にも力を入れておられる会社で、今は和泉市に移られたのですが、もともとは堺市の会社だったので、防災グッズで地域色のあるものを記念品として作ることになりました」
その結果生まれたものは、堺市役所のレストラン「森のキッチン」を運営する社会福祉法人コスモスの作った「さかい物語 みんなのクッキー」の保存缶、堺の伝統産業である「注染の手ぬぐい」、ナップザック。そして東日本大震災を経験し、堺市でも避難生活を送られてきた「避難ママのお茶べり会」の知恵が詰まった「家族の防災チェック読本」、緊急用呼子笛の「家族を守る防災セット」でした。
田中「箱詰めもコスモスさんの作業所でやってもらっています。この一箱には地域の知恵と伝統技術が詰まっています。堺の力、うちならではのネットワークを最大限に使いました。こんな風に相談に来てもらったら、出来ることって沢山あるのです」
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▲80周年の記念品にはホウユウ株式会社のネットワークで、堺の知恵と技術を凝縮させた。 |
確かにこの記念品は、一般にイメージされる印刷会社の仕事の範疇を越えているように思います。
田中「印刷って面白いんだ。印刷屋さんってもっと面白い技術があるって事を知って欲しいですね。多くの方は印刷屋さんの仕事を新聞、雑誌の印刷だけだと思っています。でも、そんなことは無いのです。シール印刷や、挨拶状の印刷、テープの印刷だってやります」
最近人気があるのは、オリジナルのリボンやテープの印刷だそうです。
田中「マスキングテープだと、どうしても沢山作らないといけない上に単価が高くつきますが、このリボンやテープだと1本から作れるため、安くすみます。リボン・テープ本体の色とインクの色が選べるのでオリジナルの品物が作れます」
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▲1本から作れるオリジナルのリボンとテープがヒット中。 |
しかし、一般の方にとっては個人で印刷を頼むのは敷居が高いように感じます。どれぐらいお金がかかるのか、最低どれだけの数を頼まないといけないのか、ということも。
田中「うちはむしろ小ロットの印刷物が得意です。究極のところでいけば、1枚からでも受注可能なものもあります。たとえば、オリジナルのクリアファイルです。これはスマホや携帯で撮った写真をそのままクリアファイルに印刷できます。家族の写真やペットの写真など、お気に入りの写真でクリアファイルが作れるのです。みなさん1枚作ってから「どうせならご家族やお友達ももう1枚」とか、そんな風に気軽に頼んでいただいています」
こうしてみると、捨てられない価値のある印刷物、そして小ロットから可能な受注というのがホウユウ株式会社の目指す方向性、持っている強みといえそうです。
田中「はい。今生き残っている印刷屋さんは、どこも地力のある印刷屋さんばかりです。そんな中で、いかに自分たちの特徴を出してアピールしていくのかが課題です」
そうした状況を踏まえると、紙cafeVol.2の役割もはっきりとしてきます。
■2号店はショールームでカフェ
小ロットのお客様をターゲットにするとなると、敷居の低い窓口として2号店の役割は小さくないように思えます。
田中「2号店はショールームであるというのを意識はしています。こちらで実際に手に取って、うちで扱っている印刷物を見てもらいたい。まだまだ足を踏み入れにくいかもしれませんが、(2018年の)5月頭までは
ネット上でクーポン券を出しているので、それを使ってお試しをしてみてください」
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▲「もずふるサブレ」のプレミアム版は、現在紙cafeVol.2でしか手に入りません! |
竹﨑さんによれば、道行くご近所の方も興味津々なのだとか。
竹﨑「通る人が2度見してみたり、カフェとあるから「ここモーニングあるんか?」って、なぜかおじいちゃんおばあちゃんが必ず聞きにこられるのです(笑)。「すいません。モーニングはやってません」って言わないといけないのですけれど」
田中「カフェというのは、人が集まる場所という意味で”カフェ”という言葉を使っています。6月の第2週にはまたペーパーフリーマーケットを予定していますので、その時にも2号店は活躍すると思います」
近隣のお店と協力してスタンプラリーなども楽しんでもらっているペーパーフリーマーケットですが、ホウユウ株式会社自体がお店を持っていると、お店を知ってもらうという効果がホウユウ自体にも発生することになります。ご近所の方にとっても、地域にお店が増えることはまちの活性化にもつながることでしょう。
竹﨑「今まではこのご近所はお隣のORCAさんだけでしたけれど、もう少しお店が増えたらいいですね。メインストリートじゃないけれど、人が行き交う通りになればいいなと思います」
田中「そうね。ご近所の南島地区みたいな感じで、ゆるく人が集まる場所になればなと思います」
紙cafeVol.2は、誰でも気軽に出来るアクセスできる印刷の窓口として誕生し活動しはじめました。ぜひ一度足を運んでみてください。
紙cafeVol.2
住所:堺市堺区海山町1丁8-4
電話:072-227-4619