イベント情報

「bio-morph/吉田重信展」主水書房観覧

タイトル

重い赤は、血のような赤色。
天井の高さから、壁一面を覆い、畳の二間一杯に広がったタペストリー状の作品のほとんどは赤黒く塗りつぶされています。
「これは福島県会津の漆(うるし)で、昔ながらの漆の木に傷をつける方法で採っている漆を使っているそうで、作者の吉田重信(よしだ しげのぶ)さんは、漆にかぶれながら描いたそうです」
主水書房の主・花道みささぎ流家元片桐功敦(かたぎり あつのぶ)さんは、そう語ります。主水書房の二間を占有するほどの大きな作品ですが、これでも元々の大きさの1/3ほどなのだとか。
分水1
▲光の作品を作る現代美術家・吉田重信さんの指示で、部屋の照明も外されただ一灯の光と外光のみに照らし出される。
2018年8月25日から主水書房で開催されている「bio-morph/吉田重信展」の吉田さんは、福島県いわき市生まれの現代美術家で、2011年の東日本大震災で自身も被災した経験を持ちます。福島県南相馬市に移り住んで野の花を活け続けた片桐功敦さんとの出会いは、必然的なものだったのかもしれません。
水葵
▲東日本大震災後、突如海岸線で繁殖しはじめた水葵。この水葵が片桐さんと吉田さんの縁を繋いだ。
作品は光のインスタレーション(空間展示)で、太陽光を取り込んだもの。片桐さんによると、夕方の17時から17時半ごろがベストとのこと。
この日、その時間を目指して向かったのですが、あいにくの曇り空。
案の定、主水書房の玄関をくぐると、片桐さんから「申し訳ない。今日は作品の一部が見れません」との謝罪の言葉。
しかし、その光のインスタレーションと対になるのが、冒頭から紹介している漆で赤を描いた作品でした。展示された部屋に入るなり、その存在感に圧倒されました。
仄暗い室内に塗りこめられたような赤。わずかな陰影が刻まれた炎のようにも見えます。
「これは本当に飛び散る血をイメージしたそうですよ。この作品のタイトルは『分水霊』普通は分水嶺と書きますよね。水を分ける分水嶺。でも吉田さんにとって、あの3.11で何かが真っ二つに分かれてしまった」
飛び散った血
▲漆が飛び散った血のようにも見える。震災以前から吉田さんの作品は一貫している。吉田さんは変わらず、ただ周囲が変化した。
大きな揺れを経験した日から、吉田さん自身も揺さぶられてしまった。
避難所暮らしは難しく、いわき市を一端離れて車で神社などパワースポット巡りをし、彷徨いました。和歌山の熊野古道や那智の滝も巡り、実は堺にも来てスーパーで食料品を買い込み、2週間ほどでいわき市へ帰ったそうです。
百万塔
▲奈良時代に作られお経が収められた百万塔と同じデザインのオブジェがいわき市の砂の上に立っている。激しさと静謐さが同居する作品。
その後、吉田さんがこの作品を作ったきっかけは2012年の会津地方での漆をテーマにした芸術祭でした。
福島県は関西に住んでいると想像しにくいほど大きな県です。地震と津波、原発事故の被害に直面したいわき市など海岸沿いの地域と、はるか離れた山深い会津地方では、2012年当時は意識の隔たりも感じられたそうです。
そんな中、一種の躁状態が続いていた吉田さんが生み出したのが、この『分水霊』でした。
庭の装置
▲燈台や望遠鏡のようにも見えるが、吉田さんが作った太陽光を追いかける装置。ここで取り込まれた光が光ファイバーを通じて作品として照射される。曇り空のためこの日は太陽光の作品を見ることができなかった。ただ、人間の目で見ることが出来ないだけで、作品は存在しそれを感じようとすることは大切なことかもしれない。
片桐さんは言います。
「吉田さんって、お酒も好きで、付き合いも長くて一緒にいると時に作家であることを忘れてしまうような人ですが、今回個展をさせてもらって、吉田さんのかっこいい所を見せてもらって、どんな作家なのか自分なりにわかったような気がします」
それは、個展の初日でした。吉田さんや、原発の現場に潜入した写真集で知られる写真家の小原一真さんもいて、福島に縁の深い作家が3人のギャラリートークもあり、30人もの人が集まっていたそうです。隙間がないほど人が詰めかけた中、しだいに陽が陰りはじめ、それにつれ、吉田さんの光のインスタレーションも変化しはじめたのです。
見つめる人々
▲主水書房で片桐さん(右端)の言葉を静かに聞きながら作品を感じる。
「いつの間にか集まった30人誰もが口を開かなくなっていました。しだいに変化していく吉田さんの作品を30人が黙ったまま30分間見続けたのです。そして光が不意に消え失せた瞬間、皆が一斉に息を飲んだのです」
それは美しい作品によって生み出された、美しい時間でした。
「どんな絵でも30分黙ってみることは難しいでしょう。30人の人間を30分間黙らせる作品を作り出した吉田さんは、すごい作家でした」
この日は、30人を黙らせた太陽光を取り込んだ作品を見ることは出来ませんでしたが、対になる巨大な赤い漆の作品も見飽きない見ごたえのあるものでした。裂け目から噴き出したマグマを浴びたかのよう。
分水霊が分かつものとは何だろうか。3.11以前と以後、理不尽な死、被災地と非被災地、引き裂かれた家族、帰れない故郷、やりきれない気持ち……東北から遠く暮らす私たちの、これまでこれからの人生にも分水霊はきっとある。
また機会があれば、光が変化していく中、対になっている2つの間で、ずっと佇み時間を過ごしたいと思いました。
主水書房
住所:堺市堺区陵西通2−15
お問い合わせ:072-227-7980 
info@mondebooks.net

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堺区陵西通で、刺激的なアートを展開するギャラリー主水書房での個展です。
福島から現代美術家吉田重信さんを招き「光」のインスタレーション(空間展示)が楽しめます。
25日は、18時よりオープニングレセプションとギャラリートークがあります。

日時:2018年8月25日(土)~27日(月) 
9月1日(土)~3日(月) 12:00~19:00
会場:主水書房 
大阪府堺市堺区陵西通2-15
お問い合わせ:072-227-7980 
info@mondebooks.net

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