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堺能楽会館50周年~現代狂言と巡る旅~(2)

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2019年2月には開館50周年を迎える堺能楽会館。その記念すべき年を迎えるにあたって、大和座狂言事務所の安東元さんが中心になって、古くなった設備をリニューアルするためのクラウドファンディングや、2か月に一度の特別な公演が計画されています。
前篇では、このリフォームがただ古くなった設備を一新するためだけでなく、堺能楽会館を海外の富裕層を観光客として迎え、堺や大阪の観光の目玉にするというプロジェクトの第一歩であることをお聞きしました。
後篇では、安東さんが企画している一連の公演の詳細に迫ります。
■体感しないとわからない本読み狂言
2018年3月3日に予定されている公演では耳慣れない不思議なプログラムが組まれています。
「『神鳴』という演目を本読み狂言と名付けているスタイルで行います。本読み狂言はプロの語り手とのコラボレーションで、甲斐祐子さん主宰の「本読みの時間」と演じます。「本読みの時間」は、物語と出会う瞬間を大切にしていて暗譜をしません。毎回必ずその物語を描いた文章を読みますので、本読み狂言でも台本を読まれます。一方で狂言は口伝です。台本もあるといえばあるのですが、本来口伝で伝えていくものです。だから文字に起こして読むという行為も狂言にとっては現代的で、それだけでもコラボレーションになるのです」
語り手の中には役者として舞台に立つ人間もいますが、本読み狂言ではあくまで声と語りのコラボレーションになります。
「『神鳴』には、神鳴とお医者さんが登場します。医者役はナレーターの竹房敦司さんで、読売テレビ『グッと!地球便』のナレーションなどをなさっている方ですが、医者は舞台に居らず本を読むだけです。それに甲斐さんのナレーションが入ります。ナレーション入りの狂言で、僕1人がお客様に向かって演技をするのです。1対100で演技をしているような感じなのですが、次第にあたかもお客様が相手役であるかのようになります。この感覚は舞台を見にに来てもらわないとなかなか伝わらないものですが」
それはテレビゲームや4Dシアターのような、体感型のエンターテイメントと言えるかもしれません。映画の俳優がスクリーンを突き破って客席に飛び込んでくるようなことよりも、もっと次元の違う革命のようにも思えます。
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▲『武悪』の面で神鳴を演じる。(写真提供:大和座狂言事務所)
「本読み狂言だけではなくて、狂言で『清水』という演目もやります。この『清水』と『神鳴』には同じ『武悪』という面(おもて)を使うし、同じように暴れまわって、人を脅かすしぐさをします。しかし、こんなにも違うというところを見てほしくて、この演目をあえて選んだのです。何もないところでこんなにできる。狂言の所作の凡庸性の高さを見てほしいのです」
同じ面、同じ所作でもまったく違う演目を演じることが出来るのは狂言の完成度が無駄1つないほどに洗練されているからでしょう。この狂言と能、併せて能楽を600年も昔に作り上げたのが世阿弥です。この600年前に世阿弥がやったことと、現代で安東さんがやろうとしていることは、どうやら似たようなところがあるようです。
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▲堺能楽会館で開催した親子狂言教室で「附子(ぶす)」を演じた安東元さん。


■環太平洋の総合芸術
世阿弥がやったことも、当時としては革命的なことでした。
「謡と語り(セリフ)、まったく違う二つのものを舞を入れることで移行させていく。語りがいきなり謡になったら違和感を感じるでしょう。でもその間をうまく繋げるのが舞。所作にはそんな役目がある。世阿弥はうまいこと考えはったんですね。それまでばらばらにやっていた語る人、舞う人、寸劇を一つにした」
世阿弥は庶民が楽しんでいた様々な芸能を束ねあげ、当時権力を握っていた武家社会に受ける総合芸術として能楽を創造しました。いうなれば世阿弥は総合プロデューサーでした。
時代が変わり世相もニーズも変わった今、本読み狂言などで安東さんがやろうとしていることも、過去に世阿弥がやったのと同じ、新しい時代に対して新しい芸術を創造する総合プロデューサーの仕事といえるのではないでしょうか。
「世阿弥さんがやっていたのと同じところで思考していると思います。世阿弥さんと比べたら高尚とそうでないものの違いはありますけれど、このままじゃあかん、こういうものを集めて新しいものを作りたい。そういう所は同じだと思います」
世阿弥は武家社会に向けて能楽を作りましたが、安東さんは誰に向けてプロデュースしているのでしょうか。
「今、たとえばコミケは何十万人ものファンを集めますよね。いかにサブカルチャー好きの人たちにこの面白さを気づいてもらえるかを考えています。あの熱量をこっちにも向けてもらいたい。それと今の子どもたちに向けて本質を問いたいです。今はうわべの上手さや綺麗さは求めなくなっているんじゃないでしょうか。どちらかというとみんな本質の部分に飢えている。子どもたちは強い刺激には慣れているかもしれないけれど、中からこみあげてくる幸福感や充足感を味わったことがあまりないように思います。脳内麻薬が出てくる感覚とかね」
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▲「スンダランド」との共演。右端の円筒形の楽器がディジュリドゥです。(写真提供:大和座狂言事務所)

安東さんが仕掛ける3月の公演には、本読み狂言以外にも脳内麻薬がどっと出る演目があります。
それが民族音楽のグループ「スンダランド」の演目です。「スンダランド」は、もともとは大和座狂言旅団として活動していましたが、現在は独立して活動しているグループです。
「世界最古の金管楽器といわれているディジュリドゥも登場します。これはオーストラリアの先住民族アボリジニの楽器で、体格のいい欧米人で力に任せて吹いて演奏される方もいるのですが、アボリジニの人たちはこの楽器で本当は語りをしているのです。ディジュリドゥは神事に使うものなのです。だから魂を揺さぶるような音楽になる。なんでも低周波が出るので細胞単位で落ち着くのだと言われています」
スンダランドという不思議な響きのグループ名の謎も解けました。スンダランドとは、今より100m近く海面が低かった氷河期に、東南アジアのマレー半島からインドシナ半島に広がっていた広大な大地のことです。この大地を通ってアボリジニたちはオーストラリアへと移住したとされています。その幻の大地にちなんで名づけられたのが民族楽器を演奏する「スンダランド」なのです。現在では誤りとされていますが、スンダランドをモンゴロイドの起源とする説が唱えられていたこともありました。
「他にも南シベリア・トゥバのフーメイ……これはモンゴルではホーミーとして知られている喉歌(のどうた)と同じものです……と、イギルと呼ばれる二弦の弦楽器が登場します。オーストラリア、シベリア、日本と、丁度TPPの範囲と同じ環太平洋です。環太平洋のモンゴロイドたちが手を取って立ち上がれば芸術の面ですごいものになる。欧米に負けないぐらいの文化圏が作れると思います」
こんな安東さんのグローバルな想いが込められたこともあって、今後も2か月に一度開催される公演は、毎回テーマが設けられたコンセプチュアルな公演になります。
「5月は日本の舞というテーマで日本舞踊を、7月は日本の語りで薩摩琵琶や講談といった語り芸を、9月はバリ舞踏はどうだろう、11月にはインディアンフルートなんかも考えています。堺能楽会館に来たら世界中を旅できる。そういうシリーズにしていきたいと思っています」
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▲安東元さんは、堺をどうプロデュースしていくでしょうか。
そのためにも、堺能楽会館の設備をリニューアルすることは必須です。
「クラウドファンディングで協力をしてもらうことができないか。企業の文化活動として応援してもらえないか。そんなことも考えています。いずれにせよ、今のままでは、せっかくの堺能楽会館を使いきれない。僕1人でも難しいので、実行委員会を組織して、人もいれてやっていきたいですね。50周年が終わった後も、このシリーズは続けていくつもりです」
50周年の記念事業として企画された公演ですが、堺能楽会館だけに収まらない、堺から環太平洋、そして世界へと広がるプロジェクトでした。海外と前衛、いかにも堺に相応しい多文化なプロジェクトといえるでしょう。ぜひ多くの堺市民に応援してもらいたいですね。そして世界の人々に、堺能楽会館とそこで演じられる世界と融合した芸術を楽しんでもらいましょう。
堺能楽会館
住所 大阪府堺市堺区大浜北町3-4-7-100
最寄り駅 南海本線:堺駅
電話 0722-35-0305
大和座狂言事務所
住所 吹田市千里山東2丁目3-3
Tel:06-6384-5016,Fax:06-6384-0870,090-3990-1122(事務局)
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