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「子ども食堂」から広がる波紋(10)

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「子ども食堂」という言葉はすっかりメジャーになりましたが、その実態が知られているかというと、どうもそうではないようです。そのひとつは実際には子ども食堂には多様な機能があり、様々な役割を果たしているのに対して貧困対策のイメージばかりが先行しすぎたこと。もうひとつはボトムアップで自主的に立ち上がる子ども食堂には、そもそも決まった型があるわけではなく、それぞれに多様だからと言えそうです。
これまでつーる・ど・堺では、社会福祉協議会、市役所の子ども企画課、そして子ども食堂として「ともちゃんの子ども食堂」と「にしのこ☺まんぷく食堂」の2施設を取材してきました。これからの取材について堺社会福祉協議会に相談すると、もう一つの子ども食堂の取材をすすめられました。というのも、子ども食堂はそれぞれ違うといっても、使用している施設に注目してタイプ分けすると、大きく三つにわけることが出来るからです。
個人の店舗で始めたタイプ(「ともちゃんの子ども食堂」)、地区会館など公共性の高い施設を利用したタイプ(「にしのこ☺まんぷく食堂」)、そして第三のタイプは福祉施設で行われているタイプです。
この第三のタイプの「子ども食堂」の一例として、中区にある「デイサービスセンターつどい」で開催されている「つどい食堂」にお邪魔することにしました。
■福祉施設ならではの挑戦
「つどい食堂」の最寄り駅は、泉北高速鉄道「深井」駅です。
駅から徒歩で10分ほど。プラネタリウムでお馴染みの堺市教育文化センター「ソフィア堺」の脇を通り過ぎ、同じ通りの深井小学校も行き過ぎて少し先に目指す大きな建物がありました。この「デイサービスセンターつどい」で待っていてくれたのが、施設長の奥野守さんです。

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▲「デイサービスセンターつどい」の施設長奥野守さん。
さっそく、なぜ福祉施設で子ども食堂を開くことにしたのかを、奥野さんに尋ねてみました。
「実はこの施設で子ども向けの企画を行うのは初めてのことではありません。こちらの施設は19年前、1999年に建てられた施設で、高齢者向けのデイサービス施設です。ただ、この19年間の中で、地域の子育て支援のために場所をお貸して、子どもと親が遊べる企画を年に2回程度は続けてやってきていました」
そうした歴史はあったのですが、さらに一歩踏み込んで施設を使いたいという思いを抱くようになったのだそうです。
「デイサービスの性格上、夕方になると利用者がいなくなります。空っぽになったこの空間がもったいない。何か出来ることがないかと思っていたのです」
そんなことを考えていた頃、奥野さんは話題になりはじめたばかりの「子ども食堂」の存在を知ります。
「最初は夕方のニュースで知ったぐらいのレベルでした。ただ、私も自分の子どもが小学生で、共働きをしているので、子どもに寂しい思いをさせているなという気持ちがありました。だからみんなと晩御飯を一緒に食べようというところがスタートなのです。最初から貧困対策ということで入ると難しいでしょう。うちは貧困じゃないし、というご家庭もあるし。それよりは、『ご飯を1人じゃなくてみんなで食べよう』から始めたかった。その中で、きっと色んな子がいるだろう。みんなでご飯を食べたいという子、ご飯だけ食べられたらという子も」
そんな気持ちで始めたのが1年と3か月前のこと。1か月に1回の開催も、2018年の2月で15回目を数えるまでになっていました。当時はまだ「さかい子ども食堂ネットワーク」はありませんでしたので、公的な支援もなく独自に立ち上げねばなりませんでした。そんなこともあって、奥野さんはまず地域に支援を求めました。
「地域の自治会長に相談しに行きました。すると『うちも何かやるよ』と協力を約束してくれて、地域のボランティアの方が食事や給仕の手伝いをしてくださることになったのです。それで、この校区を構成する深井中町、深井清水町、深井北町の3つの町のボランティアさんに順番に来てもらえるようになりました」
こうして場所とスタッフも確保しました。次は肝心の子どもをどう集めるかです。

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▲奥野さんがDIYで作ったポスト。
「子ども食堂に来たい子はチラシに名前などを書いてポストに入れてもらうことにしました。まずホームセンターで郵便受けを買ってきて、ポストを作りました。小学校に許可をもらってポストとチラシを置かせてもらうことができました。1年生から3年生には、クラスでもチラシを配ってもらいました」
はたしてどれぐらいの子どもが来てくれるのだろうか。蓋を開けてみると結果オーライでした。
「定員が20人のところ、たしか最初は15人ぐらいだったと思います。今では毎回20人前後の子が来てくれています。ただ来る子が固定されがちなので、新しい子に来てほしいと思っていて、どんなアピールの仕方があるのかを考えているところです」
今ではすっかり安定した「つどい食堂」ですが、当初は想定していなかったことが次々と起きたそうです。
■やってみなくてはわからない
つどい食堂は、なにしろデイサービスの施設として、日々お年寄りを受け入れ、食事を出したりしています。厨房もあるし、食堂もある。奥野さんも、既存の施設を使えば大丈夫だろうと考えていたのですが、そうは問屋が卸しませんでした。
「いざ始めてみると、想定外の問題に突き当たりました。まずは椅子の高さが子どもに合わなかったのです。ごはんを食べようとすると机が高すぎた。分厚い座布団が必要だとか、食器が大きすぎてカレーが大盛りになりすぎるとか意外なところでご飯がうまく食べられない。また高齢者の施設なので、おトイレなどはオープン系です。カーテンはあるんだけれど、それだと子どもたちは恥ずかしくて使えない。スクリーンみたいなのを置いて目隠しをしたりしないといけなかった。これも子どもがトイレにいかないとわからなかったことです。あるものでいけるやんと思っていたけれど、意外と買い足すものや、改善しないといけないことが多々ありました」
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▲小さな子どもたちのためのクッションも用意されていました。
始めてみると食事の提供だけだと、時間を持て余すということもあって、勉強の時間も設けるようになりました。これもボランティアの協力を得ることができました。
「宿題の時間は、学校の宿題でもいいし、塾の宿題でもいいのです。勉強を教えるボランティアも、社会福祉協議会を通じて元学校の先生の方や、長期休暇の時だと大阪府立大学の学生も来てくれます。府大は福祉に力を入れているようで、ボランティアサークルもあるし、『つどい食堂』だけでなく他の子ども食堂にもボランティアでいかれているみたいですね」
さらに学習だけでなく、レクレーションのイベントも行うようにもなりました。
「単にご飯を食べて勉強するだけでも物足りなくなりました。やれる時はやる感じですが、ハロウィンの時に紐引きしたり、七夕の日は子どもたちに短冊に願い事を書いてもらったり、敬老の日にデイサービスのお年寄りにメッセージを書いてもらったりもしました。直接の触れあいはないけれど、間接的にお年寄りとの絡みを作ることにもなりますから」
子どもたちと関わることで、多くの人つなげる場として子ども食堂は機能する。それは「つどい食堂」でも同じようでした。
■子どもたちとの距離が近づく
これまでの取材でも子どもたちにとって、子どもたちと大人たち、子どもたちと地域の関係が大切だと指摘されてきました。
では中区という地域は、どんな特徴や課題がある地域といえるのでしょうか。福祉施設で働く奥野さんから見ると?
「中区は比較的安定している区だと思われます。堺市内の7区のうち高齢化率が低い地域です。いいバランスの人口比率になっているのではないでしょうか。新興住宅が建って、若い家族や子どもたちが増えると、そういう人たちをどうやって支えていくのかが課題ですが、それも中区には解決する、いいきっかけがあります」
それは堺市に広くあるものですが、中区は特に盛んな地域であることで知られています。
「中区はだんじりなどが盛んで、青年団があってお祭りや、地蔵盆があります。子どもってだんじりや布団太鼓をやりたがるでしょう。新しく入ってきた人も、子どもをきっかけにしてそうした地域の活動を通じて地域に溶け込みやすいということはあるように思います」
もちろん子ども食堂の活動を通じて、子どもたちと大人たちの距離も近くなっています。
「つどい食堂で顔見知りになって、私の出勤路と子どもたちの通学路が一緒なので、挨拶したりして。知っているから声をかけやすいということも実感しました」
そして奥野さんは、少しずつ子どもたちの内面をも知るようになっているようです。
「子どもの背景にどんな課題があるのかはわからないけれど、話しをしている時に家の問題に気づくこともあります。子どもたちの将来の夢なんかも面白いですよ。IT企業家やユーチューバ―。お年寄りにしたらなんのことかわからない。そんな世代差を見ていても面白いですね」
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▲デイサービスセンターつどい。
すでに設備の整った高齢者向けの施設の空き時間を有効利用したいと思い始めた「つどい食堂」。想定していなかった体の小さな子ども向けへのアレンジは必要でしたが、15回という回数を重ねたことからもわかるように、福祉施設と子ども食堂の相性はかなりいいようです。それは奥野さんのコンセプト、工夫があってこそという面もありました。後篇では、他の施設でも参考になるであろう奥野さんのアイディアと、実際にやってきた子どもたちの様子を紹介いたします。

つどい食堂
深井中町1888番地14 デイサービスセンターつどい (深井校区)
毎月第3水曜日 16:30~18:30
072‐278-0031
子ども無料 大人300円

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