インタビュー

堺輪音~世代を越え、受け継ぎ引き渡す~(前編)

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暗いステージから浮かび上がるオブジェ。奏でられるクラリネットの響き。
このコンサート『堺輪音』シリーズを企画し、また自らもクラリネット奏者として舞台に立った稲本渡さんは言います。
「堺輪音は、聴覚だけでなく五感で楽しむことが出来るコンサートです。アーティストの作品とコラボして視覚、堺の伝統産業である和菓子の味覚と触覚、お線香の臭覚など五感で楽しめる」
「堺輪音vol1」では、間宮吉彦さんの空間デザインで田辺小竹さんの竹工芸をコラボレーションした舞台で演奏しました。
「テーマは『祈り』。クラリネットは人の『想い』や『優しさ』、チェロは『悲しみ』を、そして二つが合わさって『怒り』を表します。『想い』があって『悲しい』から『怒り』が生まれるのですから。そしてピアノが『救い』」
クラリネットの奏者はもちろん稲本渡さん。チェロはデュオ『わたちゃんず』でコンビを組む同名の向井航さん。そしてピアノは兄の稲本響さんです。
「堺の物を知ってもらおうと物販も行いました。天神餅さんには堺輪音をテーマにした和菓子を、つぼ市さんには特別なお茶を、堺泉酒造さんにも普通は作らない甘酒を提供していただきました。売れ行きは想像以上に良くて。今回はホールだったので出来ませんでしたが、次回は妙国寺でお香をたき香りを演出します」
堺輪音は、堺の伝統建築や伝統産業や堺出身のクリエイターなど、堺の文化(魅力)を音楽で結んでいくイベントなのです。
堺輪音に続き様々な音楽イベントが企画されていますが、これらは稲本さんが代表取締役を務める株式会社『音屋組』によるものです。音楽家が会社を立ち上げて何を目指しているのか、事務所のあるs-cubeに稲本さんを訪ねました。
■新しい音楽のアプローチが求められている
中百舌鳥にあるS-cubeは起業家の育成や生涯教育のための施設。稲本さんが、S-cubeに『音屋組』の事務所を開いたのは、2015年の6月のことでした。
「『起業してやろう!』と思ったわけじゃないんです。音楽家というのは、どうしても音楽バカでビジネスは苦手。けれど、文化への支援は縮小されていき、音楽家がただ演奏していればいい時代でもない」
日本最高峰とも言われた「大阪市音楽団」の廃止が取り沙汰され、結局民間に移管されたのは記憶に新しいところです。
「音楽や芸術は国や市など公共に頼る部分が大きいのですが、『だってビジネス的には成功してないでしょ』と言われたら、反発を覚えつつも認めざるを得ない。だったら、後世に音楽を遺していくためには、音楽もビジネスとして考えていかなければならない」

 

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▲2015年10月10日にサンスクエア堺で公演された堺輪音vol1。「想い」と「悲しみ」が重なり「怒り」になる。
稲本さんが考えたのは、堺輪音で実現したような新しい音楽のアプローチでした。この地域密着を志向したアイディアが評価され、『おおさか地域創造ファンド』の採択を受けました。
「地域の資産を活かした堺輪音の活動を続けていき、ゆくゆくは堺から全国へと持っていきたいですね。その地方の地域資産でコンサートを開けば、全国で可能ですから」
妙国寺で開催される堺輪音vol2では、和菓子やお茶を味わいながら音楽を楽しめます。この内容で1500円というリーズナブルさも驚きです。
「ヨーロッパでは、オペラでも150円とか200円程度の立ち見席があって、お肉屋さんのおじさんとか、まちの人が気軽に楽しむことができます。そうした普通の町の人が『モーツァルトのオペラはこうじゃない。ああだ!』なんて語り合うんです」
高校卒業後、18才から26才までの8年間、オーストリア国立グラーツ音楽大学、大学院で学んだ稲本さんは、音楽が日常にあるヨーロッパ社会を肌で感じていました。
「市民の中に根付いているものを応援するのは公共の役割でした。ストリートミュージックもクラシックだったり、ヨーロッパの市民にとっては音楽があるのが当たり前の生活です」
まちの人が、日常の中で音楽を楽しめる社会。それは稲本さんだけでなく、気軽に音楽を楽しめる場所にと自宅を音楽ホール『堺テクネルーム』に改装した稲本さんの父、故・稲本耕一さんも理想として思い描いたまちの姿でした。
稲本さんが、地域の資産を活かし、まちの人への敷居が高くない堺輪音のような文化的に意義のある活動の背景にあるものは何か? 後篇では稲本さんのルーツから迫ります。
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▲英語もドイツ語も知らないままオーストリアの大学へ入学し、最優秀で卒業した稲本さん。世界を知る稲本さんが故郷堺を活動の拠点に選んだのは何故なのでしょうか? 後篇へ。

 

株式会社音屋組
堺市北区長曽根130-42
S-Cube106-D3
TEL:072-257-0120/FAX:072-257-0122

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