急がずバスを楽しんで~堺まち旅ループ~

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堺のまちを走る可愛いサイズの緑のバスを見たことがありますか? 2015年4月から休日のみ走り始めた観光路線バス『堺まち旅ループ』という名のループバスです。このバスを運転する乗務員さんの1人が、南海バスで唯一の女性運転手 吉村彰子さんです。
「バスの運転はやりがいがあるし、楽しいですよ」
とおっしゃる吉村さんに、その魅力を伺いました。
■南海バス唯一の女性運転手に
「まち旅ループを運転していると、隣を走っている車から『これはなんのバスー?』って聞かれたりするんですよ」
実は吉村さんがバス乗務員になったのは、『まち旅ループ』と同じ4月から。
「昨年主人が転職してバス乗務員になったんです。すると毎日毎日『楽しい、楽しい』って言うので、主人だけ楽しんでいるのが悔しくて。乗ったことはなかったんですけど大型の免許だけは持っていたんで、大型二種の免許を取って、主人を驚かせてやろうと、バス乗務員募集に申し込んだんです。そうしたら運良く受かってしまって!」
南海バスを選んだのは、女性も応募できるとあったからですが、蓋を開けてみると女性乗務員は自分一人でした。
「女性もいると思い込んでいたんで、いなくてびっくりしました。今は、パート勤務で週に二回。『まち旅ループ』と企業の送迎バスの運転をしています。大型二種の免許さえあれば誰でもできますし、南海バスでの教習もしっかりとしてくれて安心でした。普通のパートよりは時給はいいですから、主婦のパートとしてはとてもいいと思いますよ」
男性ばかりの職場ですが、吉村さんにはさばさばしていて居心地がいいとか。
「結局、自分一人で責任をもってする仕事ですしね。やりがいもあります」
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▲この日女性が面接を受けていたそうです。後輩乗務員誕生なるか!?
ただすべてが万全とはいきません。
「勤務時間が朝晩なので、子供がいる主婦には働きづらいんです。子供が学校にいっている平日日中の空いてる時間が使えるようになれば、主婦は働きやすくなりますよね」
吉村さんには9才のお子さんがいます。現在、土日祝日のみの勤務で、偏らないように土曜に勤務した次の週は日曜勤務といった配慮もしてもらっているそうです。
「無理すれば平日勤務もできるとは思うんです。でも、それが当たり前になってしまったら後の方が続かないでしょう」
女性乗務員が増えてくれば状況も変わってくるはず。
「女性グループが出来れば、会社も対応しやすくなると思います。女性に来てほしいと考えているようですし、実際二種免許を持っている人が少なくなっている今、二種免許を持っていて使う場が無かった人が来ると会社も助かるでしょう。そういう人がもっと働きやすくなる工夫をしていきたいですね」
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▲出勤して鍵と行程表を受け取り、乗務するバスの点検をして点呼。一日の勤務がスタートします。

 

■『まち旅ループ』はゆっくり交流も楽しんで
実際にバス乗務員になって、吉村さんはご主人が言っていた「バスは楽しい!」を実感することになります。
「何が楽しいって、お客さまとの交流ですね。寡黙なタイプの運転手さんもいますけど、私は話しかけられるのも好きですし、自分から話しかけることもあります。『まち旅ループ』が観光路線バスだということもあって、他の一般の路線バスとは違って堺に観光に来られる方がお客さまに多いので、『美味しいお店はどこですか?』と聞かれたりもします。実は私は堺市民ではないので、ガイドブックで勉強してコピーを持ち歩いてたりします(笑)」
『まち旅ループ』は主に旧市街区の南をカバーしています。『さかい利晶の杜』や『旧堺燈台』、『南宗寺』、『仁徳天皇陵古墳』といった観光スポットと、『堺東』駅、『堺』駅、『三国ケ丘』駅などを、一周56分(約一時間)で周遊しています。
「『女性運転手を見るのははじめて』ともよく言われますし、『頑張って』と励まされるとウルウルしちゃいます。小さい子が下車する時に手を振ってくれたりしてもウルウルしちゃいますね」
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▲観光名所を巡るバスなので、一度しか会わないお客さまかもしれない。その出会いを大切にしています。
一方でバス運転は、大きな責任も伴っています。
「教習の時にも指導されたのですが、歩行者の多くは『バスは止まってくれるもの』と思っているんです。これがトラックだと皆さん注意して慎重になるのに、バスだと止まることを前提に行動されるんです。だから、これもよく言われますが、横道から飛び出してくるかもしれないなど、『かもしれない運転』を心がけるようにしています」
また、堺ならではの傾向も感じるそうです。
「堺はやっぱり自転車の町ですよね。自転車の方が多いんですが、逆走や、バスに横付け並走、信号無視などもとても目につくんです。本当に危ないので、自転車の方もマナーや道交法を守って欲しいです。事故を起こしてしまえば、どちらにも辛いことになってしまいます」
バスの運転は何よりも安全第一です。
「特に『まち旅ループ』は観光を目的としたバスで、ゆっくりまちの景色を楽しんでもらおうということもあるのですが、急ぐと事故につながりますから何よりも慌てずに運転することを心がけています。教官からも『バスは遅れるものだ。気にすることはない』と強く言われていました。ただ遅れた時は『おまたせしましたと、一言お声掛けはするように』と。でも、やっぱり最初の頃は遅れることが気になって気になって。気にならなくなるまで時間はかかりました」
お客さま全員の安全を担うだけでなく、歩行者の安全も並以上に気づかわねばならないバスの運転だけに、一日の仕事を終えた時の充実感は格別です。
「バスを降りて鍵を抜いた瞬間、今日もやりきった、今日も笑顔で帰れると、すごい達成感があるんです。バスを見上げて『私はこんなにも大きなバスを運転して、人の命を乗せて最後まで運転しきったんだ』と思うと、してやった感が物凄いですね(笑) 実は私は乗用車の運転は好きじゃないんです。乗用車はつまらない。やっぱりバスが楽しいです(笑)」
そんなバスが大好きな吉村さんですが、実はご主人のバス運転手への転職には大反対でした。

 

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▲二種免許を取るためには、お客さまの安全のための講習を受けました。
■家族でバスフィーバー
「主人がバス運転手になりたいと言った時は大反対したんです。丁度、高速バスの事故が話題になったりもしていて、自分の命だけでなくお客様の命も預かる仕事なんでやめて欲しいと」
しかし、ついには折れ、結局は自分自身もバス乗務員になってしまった吉村さんです。
「男の人がやりたいと言った時には、口出しすべきじゃなかったなと、自分もやってみて申し訳なく思いました。やっぱりなんでもやってみないとわかりませんね。子供もさびしい気持ちもあるみたいですけど、二人がバス運転手になってすごく喜んでくれています。主人の前の仕事は内勤でしたので仕事内容が見えませんでしたけど、今は身近なバスの仕事ですから、何をしているかわかりますからね」
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▲吉村さんが「一番カッコいい」という夜行高速バス「サザンクロス」。その魅力を熱弁!!

 

こうして家族でバスが大好きになってしまった吉村一家。
現在は、週二回勤務の吉村さんですが、もっと大好きなバスに乗務したいという希望はあるのでしょうか?
「勤務体制のこともありますし、正直一般路線バスは教習の時以来なので怖いという気持ちもあります。でも、他の乗務員から『一般路線バスは一般路線バスで面白いよ』と聞くと、やってみたい!! という気持ちにもなりますね」
路線バスでも女性運転手さんの姿を見るようになる日がくれば、それだけ女性の社会進出が進んだという一つの指標になるのかもしれませんね。
もし、南海バスに乗って女性運転手さんだったら、一言声をかけてみてはどうでしょうか。交流好きで、ちょっと涙もろい運転手さんかもしれませんよ。

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