ミュージアム

“さかい利晶の杜”徹底探訪記!!

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ちんちん電車の「宿院」電停を降りてすぐに目当ての建物がありました。
全面ガラスの外壁を持つ、その建物は完成したばかりの堺市の文化観光施設「さかい利晶の杜」です。
3月20日の午前中には250名を集めた式典が行われ、正午の一般公開に向けて、入り口前には開門を待つ長い列が出来ていました。
オープンを告げるファンファーレを鳴り響かせたのは、堺区にある賢明学院中学高等学校の吹奏楽部。大ヒットした「アナと雪の女王」や「星条旗よ永遠なれ」などの演奏が響く中、最初のお客様の入館が始まりました。
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▲賢明学院の吹奏楽部は大阪府のコンクールで金賞を受賞した実力のあるクラブです。

 

■これまでにないサイトミュージアム
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▲黄色いジャンパーの観光ボランティアの皆さんもエントランスでお出迎え。
広いエントランスの真正面で目をひくのが大きなジオラマです。ちんちん電車の走る古い堺の街並みがリアルに再現されています。
「みんなに『ほぅ』と思ってもらえる展示を目指しました」
と、スタッフの方が胸を張る出来。
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▲巨大ジオラマでは、さかい利晶の杜がある宿院近辺の戦前のまちの姿が再現されています

 

お客様をお迎えするスタッフや関係者の中に、以前堺市博物館を案内してくださった赤澤副理事の姿もありました。
「運営面は民間で、常設展示と企画展に関しては、博物館の学芸課職員が手がけます。堺環濠都市遺跡の真っただ中にあって、その出土物も展示しており、中近世から近代の堺に特化したサイトミュージアムともいえるでしょうね」
赤澤さんには、館内をご案内していただけることに!
チケット窓口はジオラマ展示の向こうにあり、チケットを購入すれば1階の「千利休茶の湯館」と2階の「与謝野晶子記念館」の有料展示スペース、あるいは「茶の湯体験施設」へと行くことが出来ます。
まずは1階の「利休茶の湯館」へと足を運びましょう。
■利休から中世「堺」が蘇る
「すごい!」
と思わず声が出たのは、展示室に入ってすぐの帆船模型。洋式帆船の精巧な復元模型です。
「1600年にどうやら漂流して大分、そして堺にやってきた『リーフデ号』のミニチュアです」
船籍はオランダ。当時の国際情勢の趨勢が、いわゆる「南蛮人」=ポルトガルから、「紅毛人」=オランダへと移っていたことがうかがえます。
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▲大航海時代。ユーラシア大陸の西の端から大海を渡りやってきた帆船の大迫力。

 

模型船を取り囲む壁面展示も興味深いものでした。
「千利休を取り巻く人たち」として、堺の茶人豪商や戦国武将たちが紹介されており、タッチパネルで人物を選択するとキャラクターが語り掛けてきます。
「千利休の声は、堺区出身で歌舞伎役者の片岡愛之助さんが担当しているんです」
もともと人気のある歌舞伎役者さんでしたが、ドラマで大ブレイクを果たした片岡愛之助さんは、堺親善大使でもあり、今やすっかり堺の顔ですね。
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▲戦国時代の堺を彩った歴史的人物たちが音声で自己紹介。
別の壁面には全面に古い堺の街の様子が描かれています。これは「住吉祭礼図屏風」を拡大したもので、良く見ると描かれた人物たちが動いているではありませんか。これも全面タッチパネルでデジタル化されていいます。触れると関連する項目の詳しい解説ウィンドウが開きます。
「子供さんでも楽しんでもらえるようにと、臨場感のある、触って楽しめる展示を目指しています」
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▲当時の日本人や南蛮人の姿がえがかれています。
この他にも出土した茶器の数々や、利休が若い頃に作った茶室と晩年の茶室の比較展示など、アカデミックな展示も多くあります。茶の湯、海外との交易、そして戦国時代を生き抜いた堺と、ぎっしり要素の詰まった空間でした。

 

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▲独特の進化を遂げていく利休の茶室。若い頃のもの(左)から晩年のもの(右)へ、床の間はより狭く。掛け軸も中国のものから当時の日本の作家のものへ。権威を脱し、前衛精神が研ぎ澄まされていきます。
■晶子の創作から時代の空気に触れる
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▲「黒」を愛した利休の世界から、与謝野晶子の「言葉」の世界へ。

 

2階の「与謝野晶子記念館」は、がらりと雰囲気が代わります。柔らかくカーブした白地の壁面で構成された上品な回廊風のエントランスで、晶子の写真や、デジタル画像と晶子の歌をコラボレートした「詩歌の森」がお出迎え。
回廊を抜けた展示室の真正面には、晶子の出版物が特製の書架にずらり展示され、装幀の美しさが堪能できます。これは本好き、デザイン・アート好きの人間にはたまらないでしょう。
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▲晶子の世界観に心が奪われる装幀。
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▲晶子の言葉を抜き出した展示もシンプルなだけに晶子の精神に肉薄できるもの。今の時代にあっても燦然と輝く言葉の数々。

 

壁面にも晶子の生涯や愛用の品、テーマを絞った展示がありますが、大きく目を引くのは、晶子の生家である駿河屋の帳場を原寸大で再現してあるもの。
「晶子の父はハイカラな人で多くの西洋の作家の蔵書なども揃えていました。晶子はこの帳場でトルストイなんかを読んでいたみたいですよ」
晶子を育んだ帳場の展示。今後は、読み聞かせのワークショップなどにも使いたいとか。

 

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▲晶子が文学に目覚めた生家「駿河屋」の帳場。ワークショップをきっかけに、子供たちが文学や芸術に目覚めてほしいですね。
「さかい利晶の杜」にも専門の学芸員さんがいます。丁度お会いできた森下明穂さんは、「与謝野晶子記念館」担当の学芸員さんでした。
「『詩歌の森』で遊んでもらえたり、装丁の美しさを感じてもらえたり、体感できるよう心がけました。晶子さんのことを好きな人だけでなく、幅広い方に楽しんでいただける施設を目指しています」
その森下さんに、さっそく短歌がご趣味だという年輩の男性が質問を投げかけていました。晶子の歌に出て来る「コクリコ」についてのことだとか。専門家の森下さんと、突っ込んだお話を楽しまれていました。
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▲無料ゾーンには図書室や講習室もあり、市民の文化活動へのサポートも期待。

 

■気軽に一服から、お茶体験も
「さかい利晶の杜」のもう一つの目玉は、お茶体験が出来ること。
国宝茶室「待庵」の祖形を再現した「さかい待庵」の他にも、三つの茶室で三千家のお点前体験が出来たり、立礼席で気軽に喫茶を楽しむことができます。
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▲立礼席でも目前でお点前を見ることができます。
公開日は先着100名でのお茶体験が行われ、南宗寺の田島老師や、裏千家の千玄室さんもお見えになりました。噂によると、ハプニング的に、玄室さんのお点前披露もあったとか……。公開の翌日からはさっそく通常のお茶体験も開始。わずかワンコインで「茶の湯」の世界に触れることが出来るのはお得ですね。
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▲観光ボランティアの川口さん。なんでも千利休が切腹したのには九つの理由があるそうですが、川上さんには「10個目の理由」という鉄板ネタがあるそうです。

 

施設の外にも、実はもうひとつ見所があります。
それは「千利休屋敷跡」。千坪はあったという広大な敷地の中の一部が屋敷跡として整備され、石碑と井戸が公開されていました。以前は空き地が金網で囲まれていただけの場所だったので驚きです。
「皆さん、ここがこんな風になったのかとびっくりされます」
というのは観光ボランティアの川口さん。
「堺のこのあたりの水は名水で有名で、堺では酒造も盛んに行われていました。大きなお屋敷の中にはおそらく井戸があったであろう、そして千利休さんが産湯をつかったであろうと。この井戸の水脈は、大安寺の向こうにあるミノルタ工場のあたりからの水脈なんです。カメラの工場にも綺麗な水が必要ですよね。この井戸の水はその水です」
400年の歴史を越えて、千利休の息吹が蘇る場所。
そして与謝野晶子の精神が表現されている場所。
「さかい利晶の杜」で感じることが出来たのは、2人は当時の因襲を打ち破り、新しい価値観を世に問うた人であったこと。その2人を博物館に陳列して終わるのではなく、精神を受け継ぎ、現代のわたしたちが新しい価値観を創造していかなければいけないのではないか? そんな事も思わされた「さかい利晶の杜」でした。

 

さかい利晶の杜
堺区宿院町西2丁1番1号
TEL:072-260-4386

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