ビッグニュースが飛び込んできました。
かつては灘や伏見と並ぶ銘酒の産地で100もの酒蔵を持ちながら、その全てが消え去った堺の町に44年ぶりに新しい酒蔵が出来るというのです。
「利休蔵」と名付けられた酒蔵が生んだ酒は、その名もずばり「千利休」。
10年越しの夢を実現させたのは、元酒造会社社長の蔵主・西條裕三さんです。「利休蔵」の蔵開きに、西條さんの軌跡を尋ねました。
■利休蔵 蔵開き
酒蔵の場所は、南海高野線「堺東」駅からもすぐの町中です。
テレビ局などのメディアを含め多くの人が集まった蔵開きの日、酒蔵復活のために活動したメンバーの一人である藤井伸一さんは、取材陣に答えていました。
「堺の酒造りの脈は一回切れていますが、もう一回頑張ろうと夢を持った専門家たちが集まったんです。灘の酒蔵の免許や、様々な免許をお願いして堺に持ってきて、昨年に設備を作り、今年の1月から仕込みを開始。三ヶ月かかって最初のお酒が出来上がりました。(少年漫画)『ワンピース』みたいに仲間たちが次々集まって、グランドラインに出た所。味わいはあれどまだまだ一年生のお酒。冒険はこれからです」
人気漫画にたとえて、これまでの道のりを振り返り、これからの決意を語ったのでした。
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▲「千利休」で乾杯! 向かって左から上田さん、西條さん、竹山市長。 |
酒蔵を会場にして蔵開きのセレモニーが始まります。
「ルフィーはちょっと年をとってますけど」
と藤井さんが言う主人公の西條裕三さんは72才。その左右には若い代表取締役・上田賢佳さんと、駆け付けた竹山修身市長の姿もありました。
万感の想いがこもった西條さんの挨拶は短いものでした。
「44年分のお酒が出来ました。ぜひ皆さんに飲んでもらいたいです。胸いっぱいでしゃべることも出来ません」
次いで、竹山市長は西條さんの苦労を讃え、酒蔵の復活を喜びました。
「44年ぶりの酒蔵ということで、ものづくりの町堺として本当に嬉しく思っています。明治時代には100の蔵があったのに、ひとつひとつと減っていき、いつしかなくなってしまいました。5年前にお会いした時に『堺に酒蔵を復活させたい』と熱く語っていた西條さんの想いが、上田さんや泉さんというパートナーを得て実り、しかもその名前が千利休。千利休は私たちの誇り。同じく誇りの晶子さんの名を冠した利晶の杜が出来るタイミングだったのも何かの縁でしょう」
パートナーと紹介された上田さんは、
「堺は、昨日までは酒蔵の無い町でしたが、今日からは酒蔵のある町になりました」
と、未来を拓く言葉で挨拶。
酒杯に「千利休」が注いで回され、乾杯です。
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▲堺東駅前商店街代表理事の矢本憲久さんと、紙カフェ店主のツーショット。まちづくりに取り組む2人にとっても「利休蔵」蔵開きは大歓迎です。 |
さて、酒蔵復活を知って駆け付けた「酔客」の皆さんの感想はどうでしょうか?
お酒大好きの「紙カフェ」店主と堺東駅前商店街代表理事・矢本憲久さんの姿が並んでいます。店主はTVの取材に応えて曰く、
「フレッシュな味わいが美味しいです。いくらでも飲めそう。堺万歳!!」
と早くも上機嫌のご様子。
「すっきりしていて美味しいですね」
とおっしゃる矢本さんには、地元としての期待も尋ねました。
「酒蔵が出来たことはありがたいです。『利休蔵』は観光名所になっていくと思います」
店主もうなずきます。
「堺東のまちあるきのどっぷりコースになりますよね。蔵めぐりと試飲は、まちあるきの鉄板ですから!」
それは自分が行きたいだけでは……。
■味は深まっていく
お客様の中には、「お酒のプロ」の姿もありました。
堺のバー文化はこの人からはじまったと言われる西尾圭司さん。中百舌鳥のクラフトビールのお店「enibru」や「The 2nd Vine」には、全国からファンが駆け付けるほど。
「千利休」を傾けつつ、
「美味しいですね。テクニックのある方がされている美味しいお酒です。しかし、仕込みは技でなく蔵についてくるものです。だから何回も仕込まれて蔵の勘がついてきたら、変わって来るでしょうね」
「千利休」や「利休蔵」の進化はこれからということでしょうか。
「こんな都会の中で良くやらはったと思います」
と、経営者だからこその実感がこもった言葉も。
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▲「喜色満面堂」の西尾圭司さん。さすがの一家言、傾聴させていただきました。 |
西尾さんから「テクニックのある方」と称されたのは、「利休蔵」の代表取締役の1人で、杜氏さんである泉勇之介さん。
灘で長年酒造りに関わってこられた泉さんは、西條さんたちから堺の酒蔵を復活させたいという話を聞き「面白いかと思って」メンバーに加わったそうです。
「何も言うことはありません。無事にできました」
都会にあり酒蔵としては小さな「利休蔵」では大きな機械を入れることはできず、お酒を絞るのも手作業になります。重しを入れてゆっくりと絞ることになるのですが、手作業の方が優しい味になる……そんな風に言われることもあるとか。
「西條さんが思われるお酒を目指した。はじめてのことですので、この状況でごく自然な形で出来たお酒です。味のあるお酒。飲み飽きないお酒ができたと思います」
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▲灘から来られた泉勇之介さん。自らを誇らない謙虚な職人らしい方でした。 |
■夢追いし十数年
ほろ酔い気分の会場の中心にいるのは、やはり主役の西條さん。カメラの前で朗らかに語っていますが、酒造会社の社長として銘酒作りで活躍している最中に病に倒れ、生死の境をさまよった過去があります。一命はとりとめたものの、リハビリには長い時間が必要でした。
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▲奇跡の復活を実現した西條裕三さん。 |
「そんな時、『西條さん、もういっぺんやったらどうや』と、堺の大小路界隈の友人たちに励まし助けてもらったこともありました。堺のお酒を復活させたいという夢も、はじめは『こんなん無理や』と思ったけど、堺市も、税務署もやれないことをやってみようと言ってくれました」
夢を抱き十数年の奔走が結実した甘露の味わいです。
「堺の酒はもともと甘いお酒なんです。甘いというのは美味しいという意味なんです。昔は堺の水は良かったから美味しいお酒を作ることが出来た。今回のお酒は実は水道水で作っています。堺の水道局の方から『この水道水で作ってもらえないか』と頼まれたんですが、ご存じの通り今の大阪の水道水は売り物になるぐらい美味しい。金剛山系の水と比較しても、なんにも悪くない。どうぞ『水道水で作っているお酒だ』と皆さんも言ってほしいですね」
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▲「利休蔵」の前で「千利休」と。 |
報道陣からは、販売エリアや入手方法についても質問が飛びます。
「そんなに沢山は作れません。今年は年間5000本を目指しますが、堺市内での限定販売になります。この蔵で直接か、堺市内の酒販店でお買い求めください」
全国の皆さんにも楽しんでほしい。しかし、それは次の世代の役目だと西條さんは考えているようです。
「次のものが繋いでくれるはず。これから堺のお酒としてどんどん美味しいものを作っていかないと」
純米吟醸「千利休」。これからも進化し続けるお酒です。堺へお越しの際は、この美酒を楽しんでください。
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