封筒には、封をするベロ(フラップ)の形が、三角形のものと四角形のものがあります。
「大事な手紙はどっちの封筒で送ればいいの?」
二つのベロの違い、あなたはご存じでしょうか?
今回は封筒の専門店、100年近い歴史を持つ『ハグルマ封筒株式会社』を訪問。レトロで新しい、個性的なステーショナリーの魅力に迫ります!
|
▲三角形と四角形のベロ。はたしてその違いは? |
■紙のコミュニケーションを豊かに
「なんとなく三角形の方が公式なのかと思いますよね。その通りで、三角形が伝統的なスタイルで、四角い紙の四辺を中心に向かって折りたたむと三角形の封になります。四角形の封の封筒は大量生産する必要が出てきた、産業革命以降のものなのです」
「実は紙の型を取る時にベロが四角形のものの方が、切り落とされる端紙の無駄が少なくて済むのですよ」
と、教えてくれたのは、企画広報部の炭谷真希さん。
「結婚式や社長交代のお知らせなどは、三角形の方を使います。事務的なお知らせには四角形の封といった使い分けをすればいいですね」
|
|
▲過去の手書き風の古いロゴマークは、初心を忘れないため、ユニフォームのワッペンに描かれています。 |
▲堺市に移転した本社の看板。こちらは現在使用されているロゴ。 |
「紙は人の手に渡るもの。紙を使って生活が豊かになっていくように、紙のコミュニケーションを豊かにしていきたいんです」
ハグルマ封筒のハグルマは、ギアを意味する歯車ではなく、羽根と列車の車輪のこと。気持ちを届け、手紙を運ぶ封筒を扱うことから選ばれたシンボルです。
「ヨーロッパにはよくある意匠なんですよ」
と炭谷さん。ネット全盛の時代にあっても、羽根と列車のシンボルはかえって新鮮に思えます。
法人さま向けステーショナリーメーカーのハグルマ封筒には、個人さま向けステーショナリーの『ウイングド・ウィール』、紙・印刷物のギャラリー『カルタビアンカ』があります。
|
▲『カルタビアンカ』で炭谷さんが担当し月に一回開かれる『うさぎの会』では、デザイナーや紙職人の方などを呼んでマニアックな講習会を開いています。
|
『カルタビアンカ』は直訳するとカルタ=紙、ビアンカ=白で、「白い紙」。イタリア語で「すべてをお任せします」という言い回しにもなるそうです。「白い紙」に思うままに描く。炭谷さんも担当者として独創的な展示会や勉強会などのイベントを開催してきました。
|
|
▲『マイステーショナリー展』で展示した引き出しの中身は様々。 |
▲同じ規格の封筒に好きな絵を描き、好きな切手を貼る『絵封筒展』。大人から子供まで参加できる絵封筒の展示。 |
「隣の人の机の引き出しの中って気になりますよね」
今年の4月に開催されたのは、愛用ステーショナリーを公開する『マイステーショナリー展』。ステーショナリーメーカー社員のお気に入りのステーショナリーですから、やはりこだわりのものが数々揃っていました。小学校の頃から使っていた文鎮、旅先のチェコの街角で集めた犬用のトイレ紙……。
集めているステーショナリーには、その人の個性が強く反映されますね。
ちなみに炭谷さんお気に入りのステーショナリーは、オリジナルのマイカードでした。
「欧米ではコレスポンデンスカードと呼ばれている私信用のカードなんです」
ビジネスシーンでも社用レターだけだと少し味気ない、そんな時に礼状やちょっとした私信にマイカードを使うそうです。
|
▲炭谷さんのコレスポンデンスカード。ロゴがイニシャルのMSになってます。 |
しかし、紙文化には試練の時が到来しています。
「目に見えて紙の需要は減っています」
インターネットや携帯の普及は紙文化に大きな影響を与えました。請求書や資料のやりとりなども、電子上で済ますことが多くなりました。
「だからこそ、ハグルマ封筒の役割も明確になってきたと思います。紙へのこだわりを持つ方が増えていますから」
紙を使ってやりとりすることの特別さが増してきたからこそ、個性や特別感を大切にしたいのです。
「『こういうデザインにしたい』というお客様のニーズに応えたいんです」
紙を扱うだけでなく、印刷分野にも力を注いでいるハグルマ封筒。箔押しやエンボス(浮き出し)といった特殊な印刷加工はもちろん、活版印刷や蝋引き紙といったあまり一般的でないレトロな技術やアイテムの使用も得意とするところ。
「アニバーサリーにはオリジナルペーパーを。ウェディングで両家の家紋を入れる等いろんな提案もさせていただいています」
新しい紙の可能性。それは世界へと目を向けている中でも気づかされたのです。
■レトロな中に新しさ
「ステーショナリーメーカーとして世界と勝負したいんです」
そのために用意したのは『コットンペーパー』。欧米では正式な場では木綿から作るコットンペーパーを使用します。
「本場、欧米のステーショナリーメーカーは、オリジナルのコットンペーパーを持っています」
オリジナルの紙を作るとなれば一度に何トンも作る必要があり簡単に作れるものではありません。しかし、ハグルマ封筒では2~3年をかけてオリジナルのコットンペーパーを作り上げたのです。
|
▲コットンペーパー。明るい白さと柔らかな手触りが独特です。その歴史は古く、1000年近くになります。 |
「『筆記適性』(文字の書きやすさ)にも随分こだわりました」
書き心地が良く、半永久的な寿命を誇るコットンペーパー。
世界へ乗り出す武器を得たハグルマ封筒は、ニューヨークのギフトフェアにも参加。初出展にもかかわらずデザインや品質は高い評価を得たのでした。
「ニューヨークでも切手を貼って郵送する手紙は減少傾向にあります。しかし、直接相手に手渡しするギフトカードやメッセージカードはむしろ見直され、根強い人気があったんです」
ニューヨークでも評価されたステーショナリーとは?
|
|
▲『No.700』。可愛い動物のイラストが特殊な技法で立体的に加工されています。 |
▲『野の花』。イラストレーターの片山浩之さんの墨一色のイラストを原画に使用しています。 |
「ウィングド・ウィールでは商品を作る時に共通して気をつけていることがあります」
ウィングド・ウィールの商品は、それぞれ個性的で様々な技術が駆使されてますが、共通するものとは?
「完成品を作らないことです。ステーショナリーは使う人がメッセージを書いてはじめて完成するものなので、それを邪魔しないようにしています」
■新時代のエコ、新しい価値観
新しい時代の紙文化を語る上で避けては通れないのがエコへの取り組みです。
ハグルマ封筒は、様々なエコアクションに取り組んでいます。たとえば、封筒を作る時に発生する端紙を『ゼロ円ペーパー』として無料で提供しています。これは『日経デザイン』でとりあげられ、「デザインで生まれ変わった世界のゴミ」と賞賛されました。
そんな中、エコ封筒『エコフレンドリーカラー』がついに出来上がりました。
40%以上の古紙配合率で、紙を漂白する際に塩素を使わない、地球環境だけでなく作り手にも優しいエコペーパーです。
|
▲デザイナーも自然界にある色にこだわって選んだエコフレンドリーカラーの四色。左からリーフグリーン、さくらピンク、ミストグレイ、アースブルー。 |
「紙の色を決めるのに、むっちゃ悩みました」
エコペーパーの多くは、いわゆるアースカラーと呼ばれる、くすんだ色やナチュラルで色のついていないものが多いのです。
「気持ちを届けるものだから優しい色、明るい色であって欲しいと思ったんです」
この色を出すのは技術的にも大変で、製紙メーカーさんと何度も打ち合わせとテストを重ねました。
こうしてエコであると同時に、使い手が心地よく使うことが出来る封筒ができあがったのです。これはエコ=アースカラーといったイメージを覆す、新しい価値観の提示なのかもしれません。
|
▲ハグルマ封筒で使用されているハイデルベルク社製の活版印刷機。 |
紙は大量生産の時代を経て、今や使う人の個性や健康・エコに価値を見いだす新しい時代を迎えています。
独特の味わいのある活版印刷のような数百年前の技術と、エコペーパーのような新しい技術が響き合い融合して、新しい価値観が生み出されているようです。
古さの中に新しさを見いだす、それは紙のルネサンス(古典復興)の到来を告げているようにも思えます。
|
▲「日本では印刷物を個人が作るという意識が少ないです。個人が気軽に印刷物を頼むのが日常になればいいですね」と、炭谷さん。エントランスの壁の色見本に添えられた数字は、社員一人一人のID番号になっています。 |
■所在地:大阪府堺市東区八下町3-50
■取材に関するお問い合わせ(ハグルマ封筒 ウイングド・ウィール):
広報 TEL 03-3255-2108