浅卯商店

【七道特集・ものづくり編】

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明治43年創業の昆布商、浅卯商店。100年以上も昆布作りに携わってきた昆布屋さんです。

堺港が商船でいっぱいだった100年前、埠頭にはたくさんの品物が溢れかえっていました。なかには日本各地で水揚げされた上質な昆布も含まれており、堺の昆布商は新鮮な昆布を独自の製法で加工し、日本全国へ卸すという商いをしていました。
ここ、浅卯商店もそんな昆布商のひとつ。

しかし、堺の港が広く埋め立てられ、都市化するにつれ多くの昆布商は暖簾を降ろしていきます。現代も続いている昆布商は、業態を広げ、機械化を推し進め、さらに事業を大きくするところが大半。
しかし浅卯は製法を変えません。今まで培ってきた職人たちの腕を埋もれさせることなく、地道で一本気な昆布作りを続けています。

昆布には水揚げされる港の名が付けられています。例えば北海道の羅臼昆布は羅臼港、日高昆布は日高港といった具合(利尻昆布は利尻島)。天然の昆布の95%は北海道で生産されるので、北海道の港名とは知らなくとも聞き覚えがありますよね。

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その中でも最上級は、なんといっても羅臼だねと3代目、浅田勇さん。
「港によってこんなに味わいや用途が違うなんて、一般的にはよく知られていないかもしれないけど、知るととても面白いよ。例えば日高昆布は煮込むと非常に柔らかくなるので、昆布巻きなどの佃煮に向いているし、羅臼はなんといっても出汁にいい。昆布そのものに力があるから、しがむだけで十分おやつになるんだよ。」
「機会があったら欠片を食べてみるといい」と教えてくれました。おお、なんだか得した気分。

各地で水揚げされた昆布たちは長さ、重量、幅等により規格化され等級が決められます。これらはかなり細分化されていて、我々素人ではなかなか覚え切れません。一番分かり易かったのは「天然」と「養殖(促成)」くらい…。

浅卯の店頭で並ぶ商品は正真正銘、天然昆布のみ。箱に入った天然昆布を見せてもらいました。

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上質の天然昆布は当然ながら形も不揃いで、所どころに穴が開いています。
この穴、何の穴か分かります?なんと、ウニが食べた跡なんですって。ウニは美味しい昆布しか食べないグルメな生き物。「美味しいものしか食べないからあんなに美味しいのよ」とは奥さま。

天然昆布は上に伸びていくので海流によってはとても歪に育ちます。まさに自然のかたちですね。
幅が広く、揃っているものが上質とされ、さらに近年は天然昆布の収穫量が減っていることから、値段が高騰するのも頷けます。
薫り高く、それでいて繊細。食の専門家が「やはり天然昆布しか考えられない」と語るのをよく耳にします。

対して養殖は、棒に吊り下げる形ですうっと降りていくように育つので、形もまっすぐ、キレイなんだそう。人の手によって大事に育てられるので、生育に2年かかる天然昆布と比べ、1年で水揚げできます。これらは大手昆布会社の最先端の工場で製品化されるため、私達は手頃な値段で購入できるというわけです。

こう見ると、昆布は我々日本人にはなくてはならない食材なのだなあと改めて実感。
それでも、後継者問題で昆布を扱う会社が年々減っていると浅田さん。

「この仕事はキツイし、その割りに大儲けできるような業種でもないしね。我々は特に手作りが売りですから、短時間で大量に作れる会社には敵わない。人の手が機械に太刀打ちできるわけがありませんから。」
それでもコツコツと手仕事にこだわるのは、明らかに「味が違う」から。

浅卯独自に歩み続けてきた昆布作り。そのお仕事ぶり、ほんの少し覗かせて頂きました。

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まずは仕入れたばかりの昆布の汚れを落とすため、タワシの付いた機械でゴシゴシ洗います。手馴れた様子で作業をされているのは奥さま。

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床下に深く掘られた漬前(つけまえ)場には、たっぷりと秘伝の酢水が張られています。この液の配合は企業秘密。何年も昆布を漬け続けることにより、間違いなく風味は増し続けています。ここから、浅卯だけの製法の始まりです。

昆布の束をどぼーんと漬けて約2分。プクプクと泡が無くなってきたら昆布全体に酢が回った証拠。床に揚げ、また2時間後に漬けて…昆布が柔らかくなるまで何度も繰り返します。

二階の作業場では、シャッ…シャッ…と規則正しい音が聞こえてきます。
柔らかくなった昆布を削(そ)いでいる音です。

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黙々と作業をされているのはこの道50年の職人中の職人、吉田さん。

簡単そうに見えていたこの作業、間近でみると随分力が必要だと分かります。
左足をタオルでしっかりと巻いています。この左足が、バランスの中枢になっているのでしょうか。

「簡単そうに見えているでしょ?でも初めての人は必ず失敗するよ。去年、サッカーの武田修宏さんも挑戦してくれたけれど苦戦してた。」
そんなに難しいのでしょうか?
「まず、こんなに力が必要なのかとびっくりされるね。そしてすぐに千切れちゃう。吉田さんのように、千切れる、穴が開く、その一歩手前まで均等に、薄く削げる職人はそうそういないよ。」
お話を聞いている間にも、黒い昆布がみるみる薄鶯色に…。

吉田さんの足元には、ふわりふわりとおぼろ昆布が出来上がっていきます。
「どうぞ、食べてごらんなさいよ。」と優しい笑顔の吉田さん。
絹糸よりもデリケートな、触っているのが分からないほどのふわふわ昆布を口に入れると…
「…美味しい!!」
さらりと口溶け、程よい酸味と上品な潮の香りが一気に口に広がり、日本人である幸せを感じる瞬間。

はしたないのを承知でついパクパクと口に運んでいると、「これ、お土産にお持ちなさい」と浅田さん。
あ、ありがとうございます~!

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これが削りたての「手作りおぼろ」。うふふふふ、嬉しすぎます。
上段ふたつは「黒白とろろ」と「白おぼろ」。兎の包装紙とシールが可愛い!
予算に合わせて詰め合わせの相談にも乗ってくれます。(おぼろ昆布・とろろ昆布¥500~、出汁昆布¥500~等)

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これは昆布を削る専用の刃。自分だけの刃を作り、メンテナンスをするのも職人たちのお仕事。
おぼろ昆布用刃には1ミクロンほどの「返し」を付けます。これを習得するまでに10年はかかるそう。とろろ昆布用刃には240もの小さく刻まれた「削刃」が付いています。

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刃に刻みを付ける専用の機械。手で回すと「コン、コン、コン…」と微かな音が。
なんとも健気に動いてくれます。年季の入ったこの機械も、今は製造されていないんですって。

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しっかりと分厚かった昆布(左写真)が、まるで羽衣のように薄くなりました(右写真)。隅々まで均等に削がれていて、本当に美しい。吉田さん、お見事!

この薄いうすい昆布、その後どうなるかご存知ですか?

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そう、バッテラ用、押し寿司用の昆布になるんです!
左写真はバッテラ用にキレイにサイズを揃えたもの。右写真の木型でサイズを合わせます。長さ、幅はそれぞれ、各店専用の木型があり、これはほんの一部。なかにはかなり大型のものもあって、それらは1枚単位で高級料亭やお寿司屋さんに卸されるのだそう。普段何気なく食べていたバッテラの昆布って、昆布の中心部分だったのですね。いや、恐れ入りました。

それぞれの部位の旨み、特徴を活かすことができるため、捨てるところは一切ない。
昆布由来の天然ミネラルが体にどれだけ良いのかは、皆さんの方がよくご存知だと思います。
昆布という昔ながらの加工食品が、こんなに理にかなったものだとは。あまりに身近にありすぎて、普段はついつい忘れがち。もっと見つめ直さなきゃ、と反省の一日でした。

浅卯の屋号は一代目浅田卯三郎氏の”浅”と”卯”をとったもの。そのせいか店内は兎の置物で溢れています。
ここ、浅卯商店はこれらの骨董を眺める楽しみもあるのです。

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左写真の兎たち、骨董好きの先代が収集されたものだそうですが、可愛いだけではない、なんとも気品のある兎ばかり。
そして右写真、謎のカメラ少年。店内に入ると一度はうわっ!?となります。
季節によって兎たちのメンバー入れ替えがあるので、昆布を買う傍ら、チェックをしてみるのも楽しいかも。

店頭で販売している昆布商品は、「種類こそ少ないものの、どれも美味しい商品ばかり」と自信満々の石橋さんは、浅田さんの娘さん。いつも明るい笑顔で出迎えてくれます。

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大手昆布会社の後継者も修行しに来るという浅卯。日本でも指折りの技術をもった職人が、今でも美味しい昆布を作り続けています。
兎の暖簾、兎の置物を目印に、是非、足を運んでみてください!

浅卯商店
大阪府堺市堺区柳之町東2-3-37
072-233-0637
定休日 土曜日・日曜日・祝日
営業時間  9:00 – 17:00
※作業場見学はご遠慮ください。

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