祖先祭祀で知るアジアの文化とつながり
▲ペー族の家型厨子(写真提供:横山廣子) |
日本の暑い夏。8月といえば、お盆のシーズン。
亡くなった祖先を祀るだけでなく、原爆や終戦といった先の戦争に関する記念日もあり、「生」の盛りでありながら、死者を悼み「死」を想うのも日本の8月です。
では、他のアジアの諸国は祖先をどうお祀りしているの? ……という疑問にお答えする企画が堺市博物館で開催されることになりました。題して「生と死、祖先と子孫を結ぶ儀礼-アジア諸国の葬儀と祖先祭祀」。
無形文化遺産普及の担当職員徐素娟(じょ・そけん)さんと学芸員の橘泉さんにお話を伺うことができました。
■古墳からアジアの祭祀へ
学芸員の橘さんは、同時期に開催される「シークレット・オブ・KOFUN」展を担当しています。古墳とは、もちろん古代の大王や有力者のお墓。実は、「シークレット・オブ・KOFUN」展と、「アジア諸国の葬儀と祖先祭祀」展は、別企画ですが響きあう展覧会として企画されたものでもあるのです。
「お墓をどうするか、とか。日本人もお墓に対する関心は高いですよね。先祖とつながる季節に、歴史というわけではなく、広くアジアの文化を比べてみようという企画です」
と言う徐さんは、中国でも北の出身です。
「中国で北の方は春の清明節にお墓詣りが多くて、南の少数民族の中では旧暦7月15日にあの世の行事をやる習慣がありますね。韓国だと旧暦8月15日の秋夕(チュソク)。各地域ごとにスタイルがどうなっているのかを見てください」
展覧会はコーナー展示・セミナー・ワークショップの三つの切り口で、アジアの祖先祭祀を知ることができるようになっています。
▲宗廟祭礼時の祭器。 |
「コーナー展示は、スペースとしては大きくはありませんし、展示品も小さいものが多いのですが、中国・韓国・インドネシア・日本のものが展示されます。面白いのは、中国の紙銭なんかですね」
紙銭とは、亡くなった人があの世で使えるようにと、墓前に供物として捧げたり燃やしたりする紙製のお金のことです。中国では非常にポピュラーで、台湾、韓国、ベトナムに日本では沖縄などでも使われるようです。国によっては、実際のお札よりもど派手なものや、とんでもない金額のものがあったりして地域による文化の違いが垣間見えます。
「セミナーは、国立民族学博物館の横山廣子教授による中国雲南省大理盆地に住む少数民族ペー族の報告です」
遠く離れた中国の奥地に住むペー族ですが、日本のお盆によく似た行事を行うのだそうです。ペー族は家の前で火を焚いて祖先を迎え、祭祀の後に祖先をあの世に送り返す風習があります。
お盆の起源がペー族にある……のかは良くわからないのですが、歴史上ペー族と日本人は何度か接触しています。
唐(618年~917年)の時代には、日本の使節とペー族(南詔)の使節が唐の宮廷で出会った記録があり、元(1271年~1368年)の末期には日本人僧が大理を訪れ、そこで生涯を終えました。大理には今も日本人僧のために建てられた「日本四僧塔」が残っています。
現在では漢族以上に仏教が日常に生活に浸透しているペー族の祖先祭祀を踏まえて、中国・韓国・日本の祖先祭祀について、横山教授が映像を交えてお話するとのこと。
ワークショップでは、展示解説と記録映画の鑑賞を行います。
「セミナーと同日にワークショップもあるのですが、セミナーに出る方はぜひこちらにも参加して欲しいんです。無形文化遺産の場合は、展示だけだとどうしても限界があるので、こうした映像でも知ってほしいのです」
展示としては小規模ですが工夫を凝らした企画で、「シークレット・オブ・KOFUN」と合わせて見ることで、多角的にアジアの死生観を知ることができそうです。
■無形文化遺産展示に力をいれる
▲紙銭を燃やして先祖に届ける。(写真提供:潘宏立) |
堺市博物館で無形文化遺産の展示をするのはこれが初めてではありません。
「以前、つーる・ど・堺で、緞通(だんつう=じゅうたん)の展示を取り上げていただきましたが、今回の展示はあれと同じ枠なんです」
堺の伝統産業で、一時は海外にも輸出された緞通(絨毯)の手織り技術を伝えるものは、現在ではごくわずかです。技術を知る者は名人の弟子から直接教わった主婦と、そして大阪府刑務所の受刑者だけとなっています。この緞通の展示でも、多角的な見せ方が試みられていました。
「エスノロジー(民族学)では、今現在の状態、文化の研究が多いのです。通史的、通文化的両方の視点から見ていく必要があります。また無形文化遺産の見せ方としては、ストーリー的な見せ方がむいています。無形文化遺産の伝統芸能を見せる時も、パフォーマンス、セミナー、ワークショップとセットの方が理解しやすい」
▲宗廟祭礼の様子。 |
堺市博物館では、有形文化遺産と無形文化遺産の両方に力を入れた展覧会が企画されているのは、ただ展示品が飾られているだけでなく工夫があって、観覧者としても楽しみなことです。
実は、堺市博物館の施設内に、もう一つ組織が設置されています。その組織とは、ユネスコが賛助するアジア太平洋無形文化財遺産研究センター。
「このセンターはユネスコのカテゴリー2センターという非常にレベルが高い組織なんです。他に中国には研修センター、韓国に情報ネットワークセンターがあって、どちらも固有のビルがあるぐらいなんですが、日本ではスペースも予算も限られていて大変なんです。それでも、せっかくなので協力できる所は協力してやっていきたいと思っているんです」
無形文化遺産に関して国際的にもグレードの高い研究組織と連携できることは、堺市博物館の大きなアドバンテージでしょう。
今回の「アジア諸国の葬儀と祖先祭祀」だけでなく、今後も有形・無形両方の展示や活動に期待したいですね。