だんじりFestival! 前田暁彦木彫展レポート! 前篇
2019年3月24日。快晴の大仙公園は朝から随分な人出です。普段は休日でもどちらかというとのどかな緑あふれるゆったりとした公園ですが、この日はちょっと変わったイベントがありました。
それは「前田暁彦木彫展 Spirits Of Japan ~さかい春の陣~」が開催されていたからです。つーる・ど・堺では、このイベント開催に先立って,イベントを企画したomoroiさかいの藤岡雅人さんの案内で、毛穴町と長承寺のだんじりを取材しました。今日はついにあのだんじりたちが、金網を外して披露される晴れの舞台なのです。
■オープニング
大仙公園にあるいこいの広場には、ドッグのような大きな屋根付きの足場が組まれ、そこに三台のだんじりが収まっています。10時のイベント開始そうそう、大きな人だかりが出来ており、見学のために長い列になっています。
ドッグの後ろのスペースでは、ステージも組まれ、開会式が行われています。MCは芸人の山田スタジアムさん。今日の主役である木彫職人の前田暁彦さんが登場します。
堺市西区の鳳地区出身の前田さんは、だんじり木彫の世界に身を投じ、独立して今年で10年目になります。ダイナミックでクリエイティブな前田さんの木彫は、これまでにない斬新なもので、前回の取材でも驚かされました。
前田「みなさんのおかげで10周年を迎えることができました。こんな立派なイベントをひらいていただいて、さっきから泣きそうになっているのをこらえています」
山田「そうですか、だんじりがこうやって並ぶことも非常に珍しいんですよね?」
前田「無いです。(この3台は)地区も違いますから。夢が叶いました」
山田「こうやって並んでいるのも、各町の皆さんのご協力があってのことですね」
前田「それが一番です。普通貸していただけないんで。まさか快く貸していただけるなんて、本当に嬉しいです」
前田さんの挨拶に続いて、3町の関係者が舞台にあがります。鳳地区の長承寺、八田荘地区の毛穴町、津久野地区の大東。
これから円熟期に入ってますます良い作品をと、前田さんへの賛辞。各町自慢のだんじりを止まったままでじっくり見て欲しいと、誰もが誇らしげです。
■3台のだんじり
メインとなる3台のだんじりのうち、2台は前田さんによって新調されただんじりです。以前の記事で詳しく解説しています。取材でお会いした奥さんや、須藤さんも今日は法被姿です。
このドッグには収められただんじりの枡合のまわりを歩けるように高く足場がくまれています。階段の下にもスタッフがいて、安全に配慮して登る人数を調整しているようです。
●長承寺のだんじり
前田暁彦さんが独立してはじめて手がけただんじり。長承寺でも新調するのがはじめてとあって、フレッシュな魅力があるようです。『太平記』がテーマとなっており、楠木正成や新田義貞、堺で非業の死を遂げた若きプリンス・北畠顕家などきら星の英雄たちが彫られています。その中で、地元長承寺に伝わっていたとされる『雷井戸』の伝説が最大のスペースをとって彫られています。これは前田さん自らが発掘し、なにもない所からデザインを起こして彫り上げ、周囲を驚愕させたという作品です。
●毛穴町のだんじり
新調される他の町に負けてられないと、作り上げた規格外の大きさのだんじりです。大きなだんじりであるため、彫刻スペースも広くとれるため、前田さんの創造力が爆発し、のびのびと彫りまくっている様子がうかがえます。テーマは『戦国三英傑』で、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、それぞれの名場面が彫られ、堺と関連するエピソードももりこまれています。
●大東のだんじり
はじめて見るだんじりです。新調ではなく大修理ということですが、枡合を新調し、胴回りにも手を入れたということで、かなり前田成分が高めですね。
胴回り正面の土呂幕の彫物を見ると、武田信玄と上杉謙信の『川中島の戦い』や、『平家物語』から『宇治川の先陣争い』など、日本の歴史上の名場面の数々が彫られているようですね。枡合の『神武東征』などに金色があしらわれているのも目を引きます。
●さわってみよう/だんじり館
「とまっているだんじりを間近で見る」に加えて、木彫にさわったり、だんじりを体験することが出来るのもこのイベントの面白いところでした。
▼大工方体験
▼さわってみよう
■お祭り会場に堺の伝統産業が集結
いこいの広場にはいくつものブースが並んでいます。「Spirits of Japan」と複数形がサブタイトルについているように、様々な堺の伝統技術も紹介されているのです。
●あなごの松井泉さん
かつて穴子通りと呼ばれる通りがあったほど、堺の伝統グルメといえば、あなご。身の柔らかいあなごを裁くには高い技術が必要です。
いつも元気な松井社長が今日もあなご販売の店頭に立っていました。
●注染
石津川流域では、晒(さらし)に染め物の注染(ちゅうせん)が盛んで、堺の伝統産業でした。会場ではてぬぐいフェス実行委員会による注染実演が行われていました。
●堺打刃物
関西の食文化を支えた堺の刃物も今や世界中に知れ渡るようになりました。ブースは堺打刃物職人集団「小鍛冶会」さんのもの。打刃物の実演も準備されていました。
この他にも、公園内の茶室「伸庵」では、宝泉菓子補さんの和菓子と、松倉茶舗さんの抹茶でお茶席もあったそうで、堺の様々な伝統文化・産業が体験できる一日になっていたようです。
さて、会場には長年住吉大社の御渡の復活にも尽力されている堺区のMさんの姿がありました。お祭りとは縁のある方です。何か面白いコメントをもらえるのでは、とマイクを向けてみました。
M「(このフェスティバルは)だんじりとまっているのをみたことありますか、というのがキャッチコピーやねんけど、とまっていることもそうやけど、金網外して,中二階からじっくりみれるのは、曳いている人以外では見たことないんちゃうかな。堺のだんじりは中身もちゃんとしているし、台数も岸和田より多いのに、だんじりといえば岸和田というの(イメージになっていること)が残念な思いでいたので、今日は本当に嬉しいなと思っています」
――Mさんの出身地の堺区は布団太鼓が多いですよね。比べてどうですか?
M「だんじり早いんですよね。車ついてるからね。その危険と隣り合わせでやっているというのが、布団太鼓を普段やっているものからしたら、すごいなと思いますね。あと5月に今度は布団太鼓が集まるというような話もあるんです」
――それはびっくり。面白い話ですね。
M「堺で祭から発信するという。これ世代も越えて、みんなでやるということがすごくいいことやなと思います」
Mさんは、やはりお祭り大好きな方でした。
しかし、だんじりや布団太鼓だけでなく、様々な系統の伝統のお祭りが数数えきれずに存在する堺市ですから、その魅力をもっともっとアピールしていきたいですね。
さて、いこいの広場から少し離れた日本庭園には、だんじり以外の主に個人から頼まれた前田さんの木彫が展示されています。後篇では、日本庭園の木彫展示会へと向かいます。そこでは前田暁彦さんご本人と、そしてあの大スターとも遭遇することになります!!
(後篇へ続く)