SKP50 第一弾 “狂言 ✖「本読みの時間」”(1)
つーる・ど・堺でも何度も取り上げてきた日本でも珍しい個人所有の能楽堂、堺能楽会館もいよいよ来年2019年には50才になります。それを記念する「堺能楽会館開場50周年プロジェクト」、略してSKP50(S=堺能楽会館 K=開場50周年記念 P=プロジェクト)が大和座狂言事務所の狂言師安東元さんのプロデュースによって2か月に一度のペースで行われることになりました。
その第一弾として2018年3月3日に開催された『狂言 ✖「本読みの時間」』の様子をレポートします。
■本読み狂言~「神鳴」~
本読み狂言「神鳴」は、狂言師安東元さんと、プロの語り手である甲斐祐子さんが主宰する「本読みの時間」によるコラボレーションの演目です。安東さんから事前記事で「本読み狂言」について伺っていましたが、実際に見るのは初めてです。さて、どんな舞台を見せてもらえるのでしょうか。
▲左からスンダランドの等々力政彦さん、三上賢治さん。「本読みの時間」の竹房敦司さん、甲斐祐子さん。 |
まず能舞台に登場したのは2人の音楽家と2人の語り手でした。民族楽器を演奏するユニット「スンダランド」の2人と「本読みの時間」の2人です。
オーストラリアの先住民アボリジナル・ピープルの楽器ディジュリドゥやシベリアの先住民トゥバの楽器の囁くような旋律が奏でられ、甲斐さんのナレーションが始まります。
ナレーションは物語の発端を語ります。
1人の医者がおりましたが、腕の良くない藪医者のため都では患者がよりつきません。田舎にいけば医者も少なくて患者がいるだろうと、東国へ下ることにしました。
この医者を演じるのが、ナレーター竹房敦司さん。
▲竹房さんのナレーションは数々のテレビ番組などでもお馴染みです。 |
竹房さんは、体を使う演技ではなく、あくまで台本を読んで声だけの演技で医者を演じます。しかも古典の狂言の舞台なのに、竹房さん演じる医者が現代語の関西弁です。
どこかユーモラスな医者の道中、突然その前に現れたのが「神鳴」でした。演じるのは「武悪」の仮面をつけた安東さんです。この「神鳴」つまりはカミナリ様はどこかおっちょこちょいで、雲から足を踏み外して落ちてしまったのです。
「お前は誰だ?」
と、神鳴に問われた医者は、
「医師です」
「イシ? 石がものを言うか?」
「ストーンの石ではなくて、医者のことです」
と、現代語関西弁ばかりか、今度は英語まで登場しました。「本読み狂言」は想像以上の自由さです。
神鳴は、雲から地面に落ちた時に腰を強く打ったので治して欲しいと医者に頼みます。普通の医者ならそのまま治療にかかれば良いのでしょうが、残念ながらこの医者は藪医者です。しくじって神鳴を怒らすわけにもいかないし、なんとか依頼を避けようとします。
「人間と違う神鳴さまに治療するのは、医事法・薬事法的にも問題が」
古典を逆手にとったメタ的なギャグも飛び出します。しかし、神鳴には通じず、結局治療するはめに。
ここから物語は、医者の反撃のターンとなります。太鼓のバチほどの太い鍼を打つというと、今度は神鳴が恐れだします。医者は、ここぞと挑発します。
「人間でも受ける鍼を神鳴ともあろうものが受けることが出来ないのか?」
引き下がれない神鳴。観念して治療を受ける神鳴に、医者の必殺技がさく裂します。
「あたたたたたたたたぁ! 医療神拳、お前はもう治っている!」
竹房さんの迫真の声の演技、それを受けて安東さんの神鳴がゴロゴロと舞台を転がります。
▲実際に体を使って演技をしているのは安東さん1人なのに、竹房さんの演技もあって、医者がそこにいないことが不自然ではありません。 |
さて、医療神拳に効き目はあったのか? 神鳴さまの腰はちゃんと治ったのか? そして物語の結末はどうなったのか? ぜひ実際に「本読み狂言」を体験して確認してくださいね。
■スンダランド ライブ演奏
「神鳴」に続いての演目は、音楽を担当したスンダランドによるライブ演奏です。
スンダランドは、ディジュリドゥの三上賢治さんと、シベリアの楽器や喉歌フーメイの等々力政彦さんのデュオ。
ディジュリドゥの出す音の響きは重低音で文字に起こせばボォォォォっとでもなるでしょうか。三上さんのディジュリドゥは演奏するというよりは歌うようで、歌うというよりももっと言えば語るようでした。何か不思議な言語のようにも、言葉を覚える前の幼児の呟きのようにも聞こえます。
一曲終えて、三上さんはディジュリドゥについて解説します。
ディジュリドゥをどうやって作るのかというと、「先住民(アボリジナル・ピープル)がシロアリが住んでいた木を探してきて皮をはいで使う」のだそうです。ようするにシロアリが木を食べて出来た通路を管にして鳴らしている楽器だったのですね。
▲文字をもたない人たちの記憶力はすごい。先祖の系譜も全部覚えていると、三上さん。 |
二曲目、三曲目では等々力さんの口琴にディジュリドゥが絡み、更に等々力さんは小さな弦楽器と喉歌も披露しました。喉歌フーメイは、モンゴルのホーミーと同じものだそうです。シベリアの歌という先入観があるせいか、個人的には日本の南部牛追い歌のイメージが脳裏に浮かんだりする、なんとも雄大な歌と感じました。
▲等々力さんの使う楽器は、どれも見慣れないものばかりで、生まれて初めての”音”体験をさせてもらいました。 |
オーストラリアのシロアリが作った楽器と、シベリアの遊牧民族の楽器が日本の能舞台で奏でられる。こうして書くとミスマッチとしか思えないのですが、なぜかしっくりとくる不思議な音楽体験でした。
■「本読みの時間」~朗読「めぐりびな」重松清~
その次の演目は、「本読みの時間」による朗読。今回は作家・重松清さんの短編「めぐりびな」です。
丁度、この公演があった日は3月3日のひな祭りの日。そんな日にぴったりのひな祭りを題材にしたお話です。
物語は、「めぐりびな」をきっかけにして生まれる葛藤を題材にしています。悪意ではなく善意から生まれた葛藤でドラマのスイッチが入り、物語は過去の記憶へと旅立ちます。達者の筆は細かなディテール、心理描写で描かれており、それを声のプロが演じているのですから、なんとも贅沢な時間です。先ほどの「神鳴」では、滑稽な医者を演じた竹房さんが、ガラッと役柄の違う実直な心優しいサラリーマンの夫を見事に演じていたことにも感嘆します。プロなのだから、当然とおっしゃるかもしれませんが。
▲「本読みの時間」の朗読。よく見ると衣装もチェンジしてますね。 |
この日の公演はこれで終わりではありませんでした。前衛的な試みであるコラボレーションによる本読み狂言、エスニックな異国のライブに現代の朗読劇と続いて、最後にトリを務めるのは古典芸能です。
後篇では本狂言「清水」と、演者のインタビューをお届けします。
(後篇へつづく)
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