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「子ども食堂」から広がる波紋(7)

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堺市に25団体ある子ども食堂を歴訪するシリーズの2団体目は、堺区の大仙西校区にある「にしのこ☺まんぷく食堂」さんを取り上げています。(前篇
1団体目の西区「ともちゃんの子ども食堂」が個人の店舗を利用していたのに比べると、団地に囲まれた施設「ふれあいサロン」を利用して、月一回開催される「にしのこ☺まんぷく食堂」は、何十人もの子どもたちが利用する大規模な「子ども食堂」でした。
お腹を満たした子どもたちは、前庭で走り回ったり、スタッフの大人たちにも親戚とでも接するような親密な様子を見せています。
驚くことに、この「にしのこ☺まんぷく食堂」の利用料は無料です。ひと月に一度とはいえ、何十人の子どもたちのお腹を一杯にする食事を用意するのは資金的にも大変なはず。
後篇では、「にしのこ☺まんぷく食堂」がどのように運営されているのか。そんなところからお話を伺いました。


■地域からの支援とフードバンク
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▲「にしのこ☺まんぷく食堂」に集まってくる子どもたちは小学生から中学生まで年齢層は幅広い。もう食べてきたからと、ただ友達と一緒にいる子どももいました。
「子ども食堂を立ちあげる時は、部落解放同盟から援助してもらいました。その後の運営資金は地域の方からのカンパとふーどばんくOSAKAで賄っています。カンパはお金でもらうこともあれば、直接食材をいただくこともあります。地域に根付いてきたと感じますし、地域の力はすごいなと実感します」
「にしのこ☺まんぷく食堂」の代表・谷岡裕喜さんも、この地域で生まれ育ちました。この地域は、同和地区として行われてきた隣保事業などによって地域内外の交流も活発だったのですが、解放会館の建て替えや運動場の工事によって交流の場が失われ、また居住者の流入出が激しいこともあって、いつしか地域の結びつきは希薄になっていました。それが、子ども食堂を開くことによって、地域のつながりが可視化され、再生されはじめたのです。

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▲「フードバンク大阪」の井上博幹さん(左)と、「にしのこまんぷく食堂」の谷岡裕喜さん(右)。 
地域の力と並んで子ども食堂を支えているふーどばんくOSAKAについて伺おうとしたところ、丁度1人の男性が姿を現しました。その男性こそ、ふーどばんくOSAKAに勤めている井上博幹さん。偶然にも、谷岡さんとは同級生で子供のころからの知り合いなのだそうです。
「ふーどばんくOSAKAでここの担当が彼だと聞いて驚きました」
では、ふーどばんくOSAKAとは一体どんな活動をされている組織なのかを、井上さんに説明していただきましょう。
「ふーどばんくは全国にある組織では、大阪府全体を担当するふーどばんくOSAKAは堺市に事務所があります。内容は、たとえば企業さんが災害に備えて蓄えている備蓄品の中で、消費期限の2か月前とか3か月前のものをまとめて引き取ります。スーパーから余分な野菜を提供してもらうこともありますし、大型量販店からはパンを頂いています。そうした食材をただ配るのではなく、マッチングを考えて必要な団体に配っているのです。子ども食堂も大阪府下にある80団体ほどを支援しています」
堺市では昨年19団体も子ども食堂が増えましたが、急速な増加に支援が追いつかないということはないのでしょうか?
「支援は困っていないのです。ふーどばんくのことはテレビなどで周知されたこともあって、企業は結構見てくださっているのです。支援は困っていないのですが、支援を受け入れ采配する対応が追いついていないのに困っています」
民間企業からの支援が安定しているのに対して手が足りないという現状は意外なものでした。子ども食堂のスタッフも地域のボランティアがスタッフを務めていますし、貧困対策という面ではやはり行政が民間に頼りすぎている部分が大きすぎるのではないか。その疑問がここでも浮かんできます。
「ともちゃんの子ども食堂」の芝辻友一さんい続いて、「にしのこ☺まんぷく食堂」の谷岡さんにもこの問いをぶつけてみました。

■貧困対策の肩代わりなのか?
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▲「にしのこ☺まんぷく食堂」を利用する子どもは数十人にもなります。この日は雨だったので、いつもより随分少なかったそうです。

本来は行政がすべき貧困対策を子ども食堂が肩代わりしているのではないだろうか? その問いに谷岡さんは、
「堺市は子ども食堂の新規立ち上げの助成金を出しています。市はお金を出して、やるのはあなたたちと社会福祉協議会に降ろしてくる。それはそうなのか!? とも思います。しかし、行政だからできないことをうちの所にもとめているのかなとも思います。行政だと市民が近寄りがたいところ、そこにお金をつけているのだと思います。一方で、私たちに出来ないことを行政ができるはずです。たとえばそれは情報の共有です。子ども食堂同士のつながりをもっと持てればいいと思う事があります。それが今の「さかい子ども食堂ネットワーク」の意味だとは思いますが」
「貧困」という社会問題は、行政、それも基礎自治体だけでなく、もっと上のレベルからの働きかけが無いと塞ぎようのない大きな穴です。
「ネットやテレビ、何を見ても、「子ども食堂」は貧困の子どもたちのためにという伝えられ方をしている。そのためだけではないのに、マイナスなイメージだけがつけられていることには怒りを感じます。私は講演で話をするとき、「子ども食堂」について知っておられるか尋ねるのですが、知らない人が1/3、知っているけど詳しくは知らない人が1/3、そしてネガティブなイメージを持っている」
やはり、これまでの話を総合すると、貧困対策として「子ども食堂」の果たす役割は重要であっても、限定的なもので対処療法的なものでしかないように思えます。そんな水際のセーフティネットとして機能しつつ、行政が出来ない部分をカヴァーするのが「子ども食堂」の立ち位置なのでしょう。

■特別な体験が出来る場
これまで見てきたように「にしのこまんぷく食堂」は、特定の子どもたちだけでなく、あらゆる子どもたちに門戸がひらかれています。また、提供しているのは食事だけではありません。
「夏休みなど長期休暇の時には、一緒に宿題をしようと誘っています。宿題だけだと、やりたくなくなってくるので、違うこともしています。子どもたちには何か特別な体験をしてもらおうと、こないだはプラ板作りをしたり、夏休みには流しソーメンをしました」
と、その時、近くにいた子どもから「俺流しソーメンやってない!」とクレームがつきました。谷岡さんは、「次は一緒にやろうな」と応えます。

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▲まちなかで遊ぶ所が減ってしまい、子ども食堂の前庭で遊ぶのは子どもたちにとって貴重な時間。
こうしたシーンは、「子ども食堂」の中だけのことでもなくなったそうです。
「スタッフから嬉しい一言がありました。近頃はまちで知らない人に話しかけてはいけないということで、子どもから大人に話しかけることもなかったし、大人も遠慮して子どもに声をかけなくなりました。しかし、子ども食堂を開いてから、顔見知りになった子どもの方から大人に声をかけてくるようになったのです。子ども食堂のおっちゃん、おばちゃんやと。子ども食堂は、大人から子どもに与える場だけでなく、大人側も子どもたちからもらえるものがあるのです」
たしかに「にしのこ☺まんぷく食堂」の様子を見ていると、子どもと大人が互いに呼び捨てにするほど、その距離は近いものです。
「このフランクさはこの地域ならではの良さだと思います。私も子どもの頃は大人を呼び捨てにしていました。ただ、子どもたちには、ここにきたら「ありがとう・いただきます・ごちそうさま」の挨拶だけは絶対にしようなと言っています。今日は始まる前にみんなの前でいったせいでしょうか、みんなちゃんと挨拶をしてくれましたね」
そういえば、食事を終えた子どもの1人が、何か外国人に対する差別的な言葉を言った時に、近くにいたスタッフが即座に反応して「そんなことを言うもんじゃない」と言って聞かせていました。
「そうですね。騒ぎ過ぎて過剰な暴れになった時などでも、真正面から叱ります。そのおかげなのか、中学入学が近付いてきたせいかわかりませんが、最近は6年生の子どもたちも随分落ち着いてきました」
その6年生たちが中学生になる頃には、前身である「大仙西校区子ども食堂」から数えると、この地域での子ども食堂の活動は2年の月日を数えることになります。最後に今後の課題やヴィジョンについてお聞きすることにしましょう。

■新しい子ども食堂の動き
「実は今日もスタッフとして参加してくれていたご近所の病院でも、子ども食堂をオープンしたいという動きがあるのです。病院にはカフェが併設されていてそれをなんとか活用したいし、すぐ前が広い公園になっていて、子どもたちも行きやすい。私たちとしても、いろんな地域で子ども食堂が増えていけばいいと思います。曜日がかぶらなければ、子どもたちがあちこち生けるようになります。大人も刺激をもらえるし、子どもにとっては行き場所ができる」
西区の「ともちゃんの子ども食堂」でも、その活動に参加されていた方が刺激を受けて、すぐ近くに「桜の庭子ども食堂」がオープンしました。同じような現象が堺区の大仙西校区でも起きている。まるで細胞分裂のような子ども食堂の増加現象は望ましいことですが、一方で簡単なことでもないようです。
「やってみたいという声は多くありますが、やってはみたものの1年ももたなかったということもあります。広がっているとはいえ、どう根付かせていくか、継続していくかが課題だと思います。うちもスタッフ意識の統一が難しいなと思っていますが、互いの子ども食堂がお互いのいいところを見習えばいいんだと思います。たとえば、堺市の助成金はいい制度です。よその都道府県も見習って取り入れればいいんです。お互いええとこばっかり盗んでいって、地域なりのやり方をしていって、いろんなところが良くなればいいんです」
子ども食堂のニーズはまだまだ満たされていない。そんな中で子ども食堂の意義を実感している谷岡さんならではの力強い言葉でした。
一方で、今回の取材でも、子どもたちの貧困という大きな社会問題、その巨大な穴の周辺をぐるぐるまわっているような居心地の悪さは消え去らないままでした。

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▲取材を終えた後も、まだ残っている子どもの姿もありました。
お話を聞いていたうちに食堂内もテーブルや椅子がしまわれ、すっかり店じまいの様子です。それでもまだ数人の子どもたちが残っていました。この時間になっても家に帰ることが出来ない子どもがいるのです。
外に出て振り返ると、団地に囲まれた空間の中、「にしのこ☺まんぷく食堂」にはまだ灯がともり、子どもたちのシルエットが浮かんでいました。
にしのこまんぷく食堂
協和町1-1-23(大仙西校区) ふれあいサロン 
毎月第3水曜日17:30~
072-245-2531

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