未来の植物工場を覗いてみよう

■完全人工光栽培とは!?
青い光、赤い光、そして紫の光がレタスの葉を照らしています。
ガラス越しの密閉された一室で、金属製の棚に野菜たちは整然と収まっています。棚の数は15段。1日光を浴びて生育すると自動的に1段下におり、一番上では小さかった株が、15日光をあびた一番下の段では十分に生育して出荷可能になるのです。
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▲ロボットによって全自動で野菜が栽培される閉鎖系の部屋。
ここは大阪府立大学の植物工場研究センター。
「レタスか何かを工場で作っている所」なんてイメージを持たれている方もいるでしょう。
府立大学の広い敷地の奥深く。二つある建物のうち、テスト実証を行うB棟でレタスがすくすくと育っていました。
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▲B棟(C21)は、テスト実証を行います。
「光の波長で生育をコントロールしているんです。下にいくほど青い波長より赤い波長が強くなっているのは、赤い波長の方が光合成しやすいからです。本来は出荷まで30日かかるのですが、ここでは15日で出荷できます」
脇の数列だけが赤紫の光になっているのは?
「紫の光はLEDです。LEDでの発育を実験しています。LEDの方が電気代が3割~4割安くなりますから」
光を当てるのは電気代が安い夜間ですが、昼夜逆転で昼と夜のリズムは作っています。
「水耕栽培の植物工場にも太陽光を利用したものと、完全人工光の2種類があって、府大の植物工場は日本でも大学では数少ない完全人工光の工場なんです」
意外な事に太陽光での栽培は安定して供給することが難しく、特に夏場は暑くなりすぎて野菜が夏枯れを起こしてしまうこともあるのだとか。
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▲15日で育ったレタスは出荷をまたんばかり。

 

■究極の安心・安全の野菜づくり
植物工場の野菜は、農薬不使用はもちろん、そもそも菌の侵入を可能な限り防いだ「低ウィルス」状況で野菜作りが行われています。
この施設には、レタス生育室のように全ての作業をロボットが行う閉鎖系の部屋と、作業服を装備しクリーンルームを通った上で人間が作業する部屋の2種類があります。どちらの部屋でも水・空気もフィルターを通すなど浄化処理がほどこされています。
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▲人間が入って作業する部屋。 ▲部屋の模型。左端の仕切られた小部屋でエアシャワーを浴び、右の作業室へと入ります。

 

「水耕栽培では水に注入した栄養分の90%が植物に吸収されるので、栄養分の調整も可能です。地域による味の好みの差にも対応できますし、病気の方のために特別な野菜を作ることもできます。たとえば透析をされている方はカリウムの摂取を控えなければなりませんので、低カリウム野菜は喜ばれるでしょうね」
データを見ると露地栽培の野菜よりも様々な栄養価で上回っています。
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▲施設を案内してくださった浅野さん。 ▲繊維質は少な目ですが、アクが少なくなるため、野菜嫌いのお子様向けにはオススメです。

 

葉物野菜が目につきますが、その他の野菜の栽培はどうなのでしょうか?
「理論的には全ての野菜で可能ですが、一番向いているのが葉物野菜ですので。ゆくゆくは技術的にクリアされていくでしょうけれど」
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▲珍しい所ではハーブや薬草などの栽培も研究しています。「インドのアーユルヴェータで使用する薬草を栽培しています。『専ら医療品』と呼ばれる範疇に入るので一般のマーケットでは売れないのですが」
■遺伝子レベルで生育を
研究開発を行うA棟へ移ります。
当然、遺伝子的な研究もしているのではと思っていましたが、想像以上に即効性のあるものでした。
「動物に体内時計があるのは知られていますが、植物にも同じように体内時計があるんです。遺伝子の活性化状態を調べることで、その株が将来発育するのか発育しないのかがわかるんです」
発育しない株はピッキングされて肥料になります。これまでお百姓さんが経験などで判断していた間引きを、科学の力で行えるようになったのです。
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▲A棟(C20)では研究開発。

 

この植物工場にエントリーしている研究者は45名ほど。(大学の先生として教務が忙しい方も多いので、そのうち実働は1/3ほどだそうです)
そもそも植物工場研究センター自体が、経産省と農林水産省の両者の支援事業として設立されていることからもわかる通り、農業や生物分野のみならず、工学分野や医療福祉の分野まで様々な分野の関係者が携わっているのが特徴的です。
また大学のみならず民間の企業も参入しており、産学共同のプロジェクトでもあるのです。
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▲若手のホープもプロジェクトに参加しています。水溶液の研究をしている和田光生さん。 ▲植物の体内時計を研究している福田弘和さん。
■産学共同のコンソーシアム事業
空調プロジェクトや葉菜関連プロジェクトなど、産学が連携するプロジェクトは数多くあります。それらを共に行うコンソーシアムメンバーに登録しているのは90社ほどになります。
誰もが知る大企業もあれば中小企業も、機械系もあれば医療福祉など多分野に及んでいます。
「障がい者や高齢者でも働けるように、車椅子に乗ったままで作業が出来ないかといった実験をしています。将来的にはビルの中に植物工場があるといった都市型の農業を考えています」
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▲車いすに乗ったまま作業が行えるよう研究しています。
「土でする農業を全て植物工場に変換するようなことは無理だし、考えていません」
と、浅野さん。新しいベンチャー企業が参入してくることを想定し、栽培技術者の育成支援研修などを行っています。
堺市にも高い技術をもった中小企業が多くあります。地元の企業との連携も一層進めるべく堺市との協議もはじまっています。
そしてコンソーシアム事業の目玉になりそうなのが、2014年春に竣工予定の第三番目のC棟。これまでと違い野菜の大量生産が可能な大規模施設です。
「C棟では1日5000株の出荷が可能になります。これほど大規模な植物工場となると大学の手には負えません。ベンチャー会社を立ち上げて運営することになりました」
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運営企業の名は『グリーンクロックス』。
「時計遺伝子の特性を活用して作物栽培を効率化する」という研究成果の活用など、世界でも最も先進的な植物工場となることでしょう。
「使用するのはすべてLEDになります」
「大学は研究機関として夢を見せる必要があります。こういうものが出来ると実験し、こういうものが成立するんだと実証するのです」
都市型農業だけではありません。高緯度地域などこれまで農業に不向きだった厳しい環境でも植物工場なら建てることができます。
「福島県の川内村でも府大の企業コンソーシアムメンバーが植物工場を作りました。昨年5月に」
川内村は福島第一原発から30km圏内。苛酷な状況で1/3しか住民は帰還していません。
「植物工場なら新たな雇用の創出にもなるはずです」
現状では植物工場だからといって全ての問題がクリアできるわけではない。
「空気の浄化は大丈夫だと思いますが、まだまだ多くの困難が予想されます」
フロンティアを切り開くのが大学の使命であるとはいえ、途方もないことではないかと思わずにはいられません。
■海の向こうからもご近所からも
これだけの施設ですから、日本全国のみならず、外国からも見学者が多数訪れています。
年間5000名。2年間で1万人以上。韓国や台湾、中国をはじめ世界中の様々な国からもです。
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▲上海万博に出展し、全自動で栽培する機械を展示しました。
地元の人たちが植物工場を身近に感じることもできます。オープンキャンパスのイベントでは野菜ソムリエを招いたり、サラダバーを作ったりしてアピール。

 

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▲野菜をお安く販売しています。
さらには裏技的な利用法も。
「近所の方はよくご存じだったりするんですけれど」
実はこの植物工場に直接来れば野菜をゲットできるのです。店員がいるわけでもありません。
野菜の入った冷蔵庫と、その上には小さな箱が。
なんと、地方の畑脇にでもあるような無人販売所方式で販売されているのです。
「今年は葉物野菜が高いんですけれど、植物工場は影響を受けませんからお安いんですよ。私も母から買ってきてって頼まれることもしょっちゅうなんです」
最先端の科学を結集した植物工場にある、のどかな無人販売所。かけ離れているように思える二つが共存しているのが、なんとも微笑ましく感じられた植物工場でした。
大阪府立大学 植物工場研究センター
堺市中区学園町1-1

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