■ヒッピーたちのアクセサリー
港に夏を思わせる光が差し、停泊する船は白昼のまどろみの中。ここはかつて南蛮貿易や遣明貿易にも使われた堺旧港。
堤防に隣接するコミュニティーカフェ『パンゲア』で催された『イシズピエスモンテ SAKAI作品展』を訪ねました。
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▲アンティークの腕輪にコインを組み合わせた腕輪。 |
▲バッファローの牙を使ったアクセサリー。わざと古びた加工をしています。 |
「このバングル(腕輪)にはアンティークのコインが使われています。バングル自体もアンティークです」
イベントの主催者であるJohn(ジョン)さん、こと福岡岳人さんが作品を紹介してくれました。
「元は別々だったコインとバングルを違和感なく組み合わせたのがイシさんのセンスですよね」
イシさんとは、このイシズピエスモンテのデザイナーのこと。
「イシさんは1970年代からアメリカでアクセサリー造りを学んだんです」
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▲John (ジョン)の愛称で知られる福岡さん。作品展を主催しました。 |
▲ハリウッド映画で使われるアンティークのマーケットで取引されていた鞄をディスプレイに。 |
■感性を重ねて
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▲イシさん。『セントカフェ』のシェフでもあります。 |
この日はイシさんも在廊しお話を伺うことが出来ました。
「70年代のヒッピーたちが、まわりにあるものを拾い、アンティークのスプーンを曲げて指輪にして始めたんです。でも、こうした他のアクセサリーにしたのは僕のオリジナル」
イシさんのブランド名「イシズピエスモンテ」は料理用語から来ています。
「料理の世界では、ウェディングケーキのように山のように積み上げていくもののことを『ピエスモンテ』と言います。英語にすれば『ピース・オブ・マウンテン』でしょうか」
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▲ヒッピーたちはアンティークのスプーンやコインを曲げて指輪に。 |
異なるパーツを組み合わせるのがイシさんのアクセサリー。
「全てのものに意味がある。意味のあるものを積み重ねて意味あって生きていると思うんです。僕は捨てられるものを再生して、すべての材料を欠片まで使い切るんです」
ネイティブアメリカンとの交流があったイシさんは、どこか哲学的な印象があります。
「ひっつけるのは誰でも出来るけれど、ものには相性があります。それがセンス、感性です。僕には僕の感性がある。僕にしか出来ないものを作っているんです」
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▲ネイティブアメリカンが大切にするターコイズを組み合わせて。 |
▲フォークなどの柄もキーホルダーに。 |
2年前日本に帰国したイシさんが見たのは、アメリカ人のような感受性の高さを持たないように見える日本人でした。
「アメリカ人はすぐに驚きカルチャーショックを感じます。物が多いせいか今の日本人は驚かない。僕が60年代~70年代アメリカに行った時はショックでした」
■グリーンカード
40年前渡米したイシさんは、日本食のコックとして働きました。
「グリーンカード(アメリカ永住権)が欲しかったんです。日本人は日本食以外のコックだとグリーンカードをもらえなかった」
有名なキング牧師の演説が行われた1963年から何年もたっていない時代。しかし、イシさんは欲したグリーンカードを申請しませんでした。
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▲「ほとんど知られていませんが学生も沢山死んだ。徴兵されて脱走兵も沢山出た」 |
「理由は戦争です。ヒッピーはベトナム戦争に反対していた。もしグリーンカードを申請したら、すぐに徴兵されてしまったでしょう」
ジョン・レノンが『イマジン』を歌ったのが1971年。泥沼の戦争と反戦運動の時代です。
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▲貴重なレースやチェインなど、日本で入手困難なものも。 |
戦争が終わって後、イシさんはグリーンカードを得ました。アメリカ生活は40年を数えましたが、2年前グリーンカードを返上して帰国。
「91才になる親の面倒を見るために帰ってきたんです。親とのつながりは大切だからね」
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▲堺では新しい出会いも。チェインに見入っているのは堺のミュージシャン グチコさん。 |
そうして
兄の平治さんと大阪の都島にカフェ『セントカフェ』をオープン。
しかし、大阪市内は思ったより元気がない印象だといいます。それよりも京都や堺は面白い。
「京都で出展したら、京都は大学が多いからか若い人が多くて反応がよかったですね。今回初めて堺で出展したんですがびっくりしました。京都のような若い人は少ないけれど、堺は個性的な人が多くて、アクセサリーを見てすぐに気に入ったかどうかを判断して購入されたりする」
Johnさんもその1人で、『イシズピエスモンテ』に出会ってすぐに惹きつけられました。
今回の『パンゲア』での作品展をきっかけに堺でも『イシズピエスモンテ』を広げていきたいとのこと。
海を渡って来たアクセサリー。海外の文物を受け入れてきた堺、古い物の価値を知る堺にはぴったりかもしれません。
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▲向かって左からイシさん、Johnん、平治さん。 |