インタビュー

ちえこ・ひらめき株式会社 野里千惠子

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野里千惠子
profile
1973年 南海電鉄観光課を退職後、野里紙工所に従事する。
2003年 夫、野里健治氏死去に伴い、同事業所代表取締役に就任する。
2008年 製品開発部門 ちえこ・ひらめき株式会社を設立し現在に至る。
微生物。肉眼では判別できない、顕微鏡を使ってはじめてその姿がわかる、とても小さな生物たちを微生物と呼びます。
その微生物の働きを利用したエコロジーグッズを発案・発売している女性がいます。全国でも珍しい段ボール会社の女社長で、近頃新鮮野菜の日曜市場を始めたという彼女は一体どんな人物なのでしょうか? まずは日曜市場を訪ねてみました。
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▲日曜市場を訪ねたのは朝10時頃。好評につき早々に品薄・売り切れになる商品もありますので、お早めに。
■日曜市場は環境儲け
日曜の朝。
とある家庭のガレージに艶やかな野菜がどっさりと並んでいます。トマトや青菜類は朝とれたての瑞々しさ、大きなげんこつ並のジャガイモ、抱えるほど束ねられたタマネギ……ケージの中には二羽のニワトリと卵まで。
するとく一人の小柄な女性が、大ぶりのバナナを勧めてくれました。
「食べてみてください。エクアドルでアダチさんという方が日本人の口に合うように作られたバナナなんですよ、フィリピン産に比べてムチっとして食べごたえがあるでしょう」
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▲エクアドル産のバナナ。普段食べているフィリピン産とは違った味わいがあります。 ▲ゴミ減量化に協力してくれた方には、割引販売を行う予定です。
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▲子供に大人気!? ニワトリも二羽応援にかけつけています。 ▲金剛山付近の土地を地下56メートルも掘って出てきた湧き水で育てたお米や野菜。
彼女は『野里紙工所』、『ちえこ・ひらめき株式会社』代表・野里千惠子さんです。
「お説教よりも腹ごしらえ」
7年間環境問題やエコロジーに取り組んできた末、出た言葉でした。
「頭ごなしに環境がどうのエコロジーがどうのと言っても『またお説教か』と思われるだけ、それより日曜市場に足を運んで頂き、本物の野菜・美味しい野菜を食べて、エコロジーや環境問題に興味をもってもらえたらと思っています」
話の合間にも、次々とお客様がやってこられます。

 

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▲和泉市で無農薬農業を行っている辻林さん(左)。 野里さんのエコ活動に関心をもたれて、この日取材に同行されました。
この市場に野里さんの発案の微生物で生ごみを堆肥に変えるエコロジーグッズ『生ごみぱっくん』の姿が見あたりません。販売はしていないのでしょうか?
「ええ、商品を作って販売はしているんですが、大した金額にもなりませんので、すっぱりとエコの分野でお金儲けはやめました」
でも、植木鉢や土嚢でも堆肥造りは可能で、希望者に身近なものを使った堆肥造りをレクチャーし、
「私は大きな環境儲けをさせてもらっているんです」
環境に貢献することを野里さんは『環境儲け』といい、その輪を広げようと2012年の春から日曜市場を開いたのです。
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▲家にあまっている小さな植木鉢で堆肥づくりは可能。 ▲欠けた鉢でも大丈夫。むしろ通気性が確保されるので都合がいいぐらいだとか。
「作った堆肥の使い道がない人には100円で袋を購入して戴き、堆肥を入れて持参されると100円で買い取ります」とアピール。
昔のトイレットペーパーをちり紙交換でもらえたのがヒントだとか。
これなら、誰も損はしません。
「皆さんに作ってもらった堆肥できれいな花を育て、日曜市場に来られたお年寄り、そして老人ホームや幼稚園などの施設に花をプレゼントしたいんです」
自分で育てた花に触れて、環境への関心のきっかけになれば『環境儲け』になる……そんなリサイクルの輪を野里さんは目指しています。
■罪悪感と無関心
野里さんが畑違いのエコロジー分野での活動をはじめたのは、いくつかのきっかけがありました。
元バスガイドだった野里さんは、名所旧跡の紹介などは人に素晴らしいものを伝える仕事として胸をはってやっていました。
しかし、段ボール会社の仕事には違和感がつきまといました。
「パルプでご飯を食べているのは、ありがたいがどこかで申し訳ない。自然や環境を破壊している罪の意識を感じていたんです」
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▲『野里紙工所』。増築を重ねて内部はまるで巨大な秘密基地のよう!?
亡くなったご主人の跡を継いで『日本でただ一人(?)の段ボール会社の女社長』になると、
「女社長だからといい気になっていると、今にえらい目にあうぞ」
と、きつい言葉を投げつけられました。
「ただ女だからというだけで、なぜこんなことを言われなくてはいけないのか」
野里さんはその時「極地に追い込まれた」と感じました。しかし「今にみておれ」とバネにしたそうです。
そしてエコロジーに関心を持ち廃棄ゴミの回収などの活動をはじめると、今度は、
「そんなことは宗教家や政治家に任しておけばいいんだ。ハコ屋はハコ(段ボール箱)だけをつくっておけばいいのだ」
またも「極地」だと思った野里さんは、むしろ環境問題について、より深く考えるようになりました。
野里さんの活動は、廃棄ゴミの回収から、身近で多くの人が関わりをもち、生活に密着したものを目指すようになりました。
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▲組み立て式の正座椅子。カバーは手提げにもなっていて持ち運ぶこともできます。 ▲カバーは好みやTPOに合わせて色々。老人会のプレゼントなどに喜ばれたそうです。
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▲簡単に組み立てられる持ち運び椅子『早イッス』。子どもたちが落書きをして楽しむ学習教材として人気。被災地でも活躍しました。 ▲『早イッス』の丈夫さと携帯性を確保するために、何度使っても割れないように工夫を重ねた折り目。
そして、段ボールへのこだわりも強くなりました。
「段ボールは丈夫でシンプルでどこか暖かみがあります」
段ボールは、一晩水につけて自然に分解させることもでき、耐久性に優れ40~50年も使い続けることもできるエコロジカルなものです。
野里さんが作った正座椅子は丈夫で過重試験した所、700kg~800kgも耐性をしめしました。
「よく段ボールは脇役として扱われますけど、私は段ボールこそ主人公だと思っています」
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▲市場を手伝にいらした『免震工房』の古田健治さん(右)。堆肥造りは独自の工夫も重ね、今では「僕の方が上手いよ」とおっしゃるほどの腕前だとか。 ▲特別に設置させてもらった看板。幹線道路からよく見えます。
野里さんの活動を支えてくれる人も現れました。
「このガレージは無償で貸していただいているし、お向かいの地主さんも特別に日曜市場の看板は出させてくれました。近くのコンビニの店長さんも、駐車場を使わせてくださって」
日曜市場でも人のつながりが増えました。
「『ぶれたらあかんよ』と励ましてくれる人もいます」
■世界で一番小さな働き者
こうなると野里さんの段ボールとエコへの情熱と知識が創り出した『生ごみぱっくん』の実物が見たい!
『野里紙工所』へと移動し、いくつかのグッズを拝見しました。
「微生物は『世界で一番小さな働き者』といわれ生ごみを分解して、元気な時にはたった一日で跡形もなく土に変えてくれます」
微生物も生物なので、呼吸もすればご飯も必要です。
「微生物には家庭から出る生ごみが一番のごちそうです。使用済みの油や魚の内臓など微生物は大好物です」
油にまみれた換気扇の羽根やグリル、鍋の蓋など、土に埋めれば一晩でピカピカになると言います。
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▲『生ごみぱっくん』のパーツ状態。組み立てられるとどんな風になるのでしょうか!?
「又、微生物は呼吸もします。その点、段ボールや陶器の植木鉢は通気性に優れているといえます」
野里さんは『生ごみぱっくん』を組み立ててくれました。
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▲軽くて丈夫な段ボールなので組み立ては力のない女性やお年寄りでも楽々。工具なども一切使いません。 ▲通気性を確保するために二重底になっています。
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▲メッシュ素材のシートを敷きます。 ▲蓋にもメッシュ素材を使用しています。細やかな工夫があって、初心者でも出来そうな安心感があります。
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▲蓋のイラストのお陰もあって思いのほか可愛らしい印象です。
『生ごみぱっくん』にガーデニングに使う培養土をいれれば完成。微生物自体は、空気中に漂っていますから、特別に仕入れたりしなくていいのです。自然に『生ごみぱっくん』の中へと群がってきます。
微生物が元気に活動すると41~42度の熱が発生、湯気がたち手をかざすと丁度お風呂ぐらいの体感で、鼻を近づけても匂いはないそうです。
「『増えない、減らない、匂わない』のが生ごみ減量です」
厳密に言えば堆肥は少しずつ増えるのですが、大量に増えることはありません。
■裸足で自然を感じる
集合住宅に住む方には、庭がなくて堆肥造りをはじめるには、低くないハードルがあります。
野里さんに賛同して堆肥造りをされている方は現在10人程度おられますが、そのほとんどの方が一戸建てにお住まいです。
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▲ベランダでも出来るでしょうか? マンションのベランダに『生ごみぱっくん』を設置してみました。
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▲培養土をいれます。なるべく安い培養土の方が堆肥造りにはむいているそうです。 ▲植木鉢で堆肥造りをする場合は、蓋はメッシュ素材『麻王』がオススメ。
「生ごみ処理をはじめたものの、うまく分解が進まずにあきらめてしまう人も少なくありません」
堺市の行政もゴミ減量化の試みとして、堆肥造りのレクチャーをしていますが、うまくいかなかった方のフォローまで手が回っていないそうです。
「日曜市場では、トラブルが発生しないためのアドバイス、うまくいかなかった時のフォローをセットでやっています」
野里さんは『生ごみぱっくん』の改良にも取り組んでいます。
「通気性を高める為にメッシュ部分に化繊でを使用していたのですが、『麻王』という天然素材で作ることになって、自然に分解でき、防虫効果もあり不満も解消されました」
自然のものは自然に帰すべきだというこだわりが野里さんの根底にあります。
自然を身近に感じることが難しい集合住宅にお住まいの方にこそ、生ごみから野菜や花が生まれるリサイクルは必要なものなのかもしれません。
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▲堆肥のリサイクルの他に、ベランダでできる「緑のカーテン」や「栽培したミニトマトを日曜市場で販売」といった取り組みも。 ▲『花のリサイクル』でプレゼントする花の苗。

 

「私は毎日朝4時に起きて、裸足で主人のゲタをはいて庭に出て歩くのが好きなんです。自然っていいなって思えてくるんですね」
寒い日も暑い日も、裸足だから自然を直に感じることができる、便利な生活もいいけど、少しは昔の生活に戻ろうじゃないか。
そんな事を思う野里さんは、今日も小さな身体に元気をみなぎらせて「ハコ屋」の仕事に、エコグッズの開発に、野菜の仕入れや販売に、微生物たちの活動のお手伝いにと頑張っていることでしょう。
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▲「どうです? 金魚みたいでしょ」と野里さん。

 

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