インタビュー

「学校ムリ」な子どもたちへ~お昼間の塾わなどぅ~(1)

 

夏休みが終わりに近づいて、学校には行きたくない。どこにも行く場所がない。苦しい思いがいっぱいになってしまったことってないでしょうか。
そんな子供たちが安全に過ごせる場所を作ろうとしている大人たちがいます。先日レポートした「大学生と学ぼう!SDGs2024」に、主催の個別指導アップ学習会のスタッフとして参加されていた芦村彩乃さんもその一人です。芦村さんがコーディネーターとして活躍するフリースクール「お昼間の塾わなどぅ」では、「#学校ムリでもここあるよ」というキャンペーンに毎年参加しているのだとか。フリースクールってどんなところで、「#学校ムリでもここあるよ」ってどういうキャンペーンなのでしょうか? 中百舌鳥にある”わなどぅ”を訪ねました。

 

▲真っ赤なソ連国旗がなつかしい。左上の「欲しいものリスト」には楽器やボードゲームもみえますね。

 

わなどぅは、地下鉄「なかもず」駅の出口から地上に出てすぐの小さなテナントビルの三階にありました。表に看板が出ていなかったのですが、何か理由があってのことなのでしょうか?
芦村「前は通っている所をみられたら、不登校の子が通っているところやって言われるのを気にするんじゃないかと思ってました。でもそろそろ看板出そうかなと考えています」
わなどぅは、いわゆるフリースクール。看板を出す出さないの変化も、子供たちを取り巻く世相の変化ともかかわっていそうです。
教室はビルのフロアまるまるが一室で、子供たちが遊んだり勉強したりするスペースと事務所スペースは垣根なく一体となっていて解放感がありました。
部屋の片隅には、参考書などが詰まった本棚もあれば、漫画の並べられた本棚や楽器におもちゃ、手芸の用品なども見えます。ホワイトボードには、注意書きや時間割と一緒に折り紙やスケッチが飾られていました。
――これは子どもたちが作ったんですね。なぜかソ連の国旗がありますね。
芦村「赤の色鉛筆をめっちゃ使ってましたよ。これもすごいでしょ。この子たちがどれだけすごかを知って欲しいんです」
そういう芦村さんの手には小さな輪ゴムがありました。
芦村「これでサバゲ―が始まるんですよ。普通の輪ゴムと違ってあたっても痛くないんです。やった後は、部屋の全面にゴム散らばりまくりで。でもすごいでしょ。こんなん思いつかないじゃないですか? 大人はこうやって遊ばないとダメって思ってるじゃないですか?」
子どもの発想力もすごいけれど、その発想力を受け止めることができるわなどぅの懐の深さもなかなかのものではないでしょうか。

 

■「不登校やらへん?」から、わなどぅがはじまった

▲お昼間の塾わなどぅのコーディネーター芦村彩乃さん。

 

――芦村さんがわなどぅを作ったという認識でいいんですか?
芦村「そもそもうちの会社は色々やっているんですけれど、社長から「不登校やらへん?」って言ってくれたから「やります」って感じで、その結果がフリースクールやったというだけなんですけど。私はもともとアップ学習会の教室長をやっていて、13~4年ぐらい前って不登校って(言葉が)なかったじゃないですか、登校拒否ってお母さんが言ってしまう時代やったから、来るんですよ。「ここやったら個別で教えてくれるんでしょ。集団はうちは無理です。人が多い所は無理です」みたいな子がうちには来てくれるんです。でも、今みたいに学校休んでもいいんだよといった風潮もないから、やっぱりお母さんは学校行かさなあかんと思ってるし、けど子どもは行かれへんしで、どんどん精神的に追い詰められている家庭があったんです」
――苦しい状況ですね。
芦村「私は一教室長だったんですけど、夜中の2時に「子供が暴れてて!」ていう電話がかかってきて、どうにもでけへんなぁという無力感をずっと感じていました。私の任せてもらっていた教室は地域的に不登校の子が多かったのかもしれないですけれど。不登校って言われたって、何をしていいかわからへん。こっちとしては他の子と一緒に対応するけれど、「はいテスト範囲の回収回収、はい来週テストやでーテスト範囲みせてー」とか言っても、(不登校の子は)「テスト範囲……!?」あかんな、学校の話題は出せないな。「もうすぐ修学旅行やろ、こうこうこうこう」。(不登校の子は)「修学旅行行くん……!?」 そういうお子さんたちなんですけど、なんか頑張ってくれるんです。最初は勉強せなとか、「お母さんに迷惑かけてるから、もうこれ以上迷惑かけたらあかん!」と頑張ってくれているんですけど、他の地域の子とか、同じ学校の子とかがいるっていうてよう来らんくなるんですよ。そんなんで離れていく。お母さんも苦しい。子供は離れていく、私も先生も、なんなら同じブースに入っている隣の席やったっていうだけの他の生徒まで悩んで、全員が悩んでいるのに何も解決せずにその子は辞めちゃうんですよね。なんかそうなると、私もお母さんがおかしなって子供殺して一家離散とかにならへんかとか色んな事を考えちゃうけど、やっぱり塾は来てる子、在籍している子、優先じゃないですか。在籍している子の成績をあげる場所やから、退会した子を追えないんですよ。それがすごい悔しくて色んな事を考えている時に、「不登校やろう」って話が出て、前向きやったかなと思うけど(笑)」

 

▲「出席認定って昔からあったんですけど、出席認定って難しいんですよね」

 

――最初にフリースクールとしてわなどぅを立ち上げた時は、どんな感じだったんですか?
芦村「色んな場所のフリースクールに見学に行かせてもらって、正直めっちゃ簡単やんって思ったんです。でも、めっちゃしんどかった(笑) ほんまに大変なんですよ」
――何が大変でした?
芦村「最初はめっちゃ簡単って思ったんですけど、知識がいるじゃないですか? 不登校の歴史を知らないとだめだし、子どもの心理を分かんないといけないし、子どもが置かれている状況を理解しないといけないし、そうなってくるとお母さんがどう接しているかわからんとダメ、家庭状況がどうなってる? お母さん、どうやって接してる? どうやってそうなってきたからこういう言葉になるんやっていうのを、メカニズム全部把握しないと。すごいびっくりしましたよ。深い世界だと思います」
――そういうことは何か出来事があって気づかれたのですか?
芦村「来てくれる子どもたちかな。やっぱり。初っ端から、そんなにドライな子じゃないんですよね。元気なタイプだったりもする。やっぱり当時の不登校って、本当にしんどい。もう色んなことを受けて受けて、精神的にぐっときてる、疲れてる子たちだったから。初めましてぐらいの子から、もう結構ハードな子たちも多くて、自傷他害なんか全然あるし、そういうのって見せないじゃないですか? それに気づいてしまった時の私の精神的なざわざわ(笑) 周囲がしんどいんですよ、そういうのを聞いて」
――周囲も含めて接し方を考えないといけないんですね。
芦村「出席認定って昔からあったんですけど、出席認定って難しいんですよね。時には校長先生がこうやって(すごい態度で)名刺をとったり」
――そんなこともあるんですか?
芦村「その頃は私もまだ若かったってのもあるんでしょうけど」
――そんな態度なのは芦村さんが女性だからっていうのもあるでしょう。
芦村「男性の校長先生、教頭先生、担任の先生、教科担当全員男性で4~5人の男性に囲まれてソファーに座らされるって結構しんどいですね。いやー帰りたいって(笑) そらこの子もしんどいよなーみたいな感じですよ」
――そうか、子どもも大人の男性に囲まれて認定もらわないとだめなんですね。
芦村「でも、子どもたちはその中でも偉いなって思うんです。子どもは絶対お返しもくれるし、自分は子育ても全然したことがない人間ですけど、3歳までに子どもって親孝行が終わるって言うじゃないですか、ほんまやんとおもいます。普段から親孝行してもらってるなと思います。私が甘えてるわ、子どもにって。教えてもらってることが多すぎるし、毎日勉強させてもらってるし、毎日経験させてもらってるなと」

 

■自由なスタイルのわなどぅ。学校とも役割分担を

▲勉強したり、遊んだり。楽器もあれば、参考書もある。わなどぅは子どもたちが自分のやりたいことをじっくりと見つける場だと思えました。

 

――わなどぅに通っている子たちは、年代的にはどういう層になっていますか?
芦村「去年までは中高メインで、ほとんど高校生だったんです。っていうのが、うちは通信制高校を自分も運営しているので、同時にフリースクールを利用するっていう形の子どもたちもいたから。高校生メインって感じだったんです。けど、コロナでぎゅってされて社会生活を始めた子たちが今小学生の子たちなんですよ。運動会やったことがない年代が今5年生なんです。そういう子たちは急にマスク外していいよ、とか、給食の時にめっちゃ喋ってもいいよとかいわれて混乱なんですよね。しかも休みなさい。行ったらあかんって言われていたのに、毎日行けと言われて、毎日宿題させられて、プラス習い事とかしてるでしょ。体力もないしね。いっぱいいっぱいですよね。っていう子たちが、折れたなっていう気がしてる。今年は、だから小学生なんですよ」
――ここでは、そういう色んな年代の子たちっていうのは、同じ時間にいるんですか?
芦村「はい。わなどぅの時間割では、開室が10時30分から11時の間に来てねって言ってて、遅刻欠席はないので11時8分とかに来られても全然何も言わないですけど。11時から50分間が学習の時間。これもみんなじゃなくて希望者だけ。で、お昼ご飯以降は自由にしてもOKなので、いつでも大丈夫な子には週4日ならいつでもおいでって言ってます」

 

▲アップ学習会を運営する株式会社パーソナル・サポートさんは、様々なタイプの塾を経営し、多様な人の夢の実現を応援しているそうです。写真は「大学生と学ぼうSDGs」での芦村さん(の背中)。

 

――なるほど来た子どもたちは、学習の時間やったら好きに勉強してる感じですか。
芦村「そうなんです。学習指導要領にのっとってくださいって言われてた時もありましたが、今年は学校さんも、すごい意識してやってくださっています。その子にあった学習とか、その子がやりたいと思っている学習とかは全然OKしてくれることが多いんです。それでも出席にしてもらえることも多いんです」
――そういった変化があったのはいつから?
芦村「絶対的に昨年の文科省が出したCOCOLOプラン以降ですね。でも、学校の先生も戸惑いじゃないですか。家庭訪問は子どもに来ていらんって言われるし、やめてって言われるけど、ほったらかしとったらほったらかす! と言われて、距離感むずみたいな」
――なるほど。じゃあそれ以降ってやっぱり学校との協働みたいなものだったり、先生学校の方の意識も変わってきた?
芦村「学校はトップダウンじゃないですか。言われたからやっているというのは、すごく感じるんですけどね」
――そりゃそうですね。
芦村「学校は団塊の世代がびゃーんって抜けて、そこで採用になった人たちが増えました。年配の方がいて、中堅が結構抜けるんですよね。それに、いい先生は出てちゃってる感じがします」
――特に大阪は不人気で先生のなりてがない。なっても辞めてしまうという話ですしね。
芦村「大阪は不登校がめちゃくちゃ多いんですよ。多分今でも全国で一位やったと思うんですけど。間が抜けていることもあって、先生がいない。先生が大変」
――その辺も聞きますね。定員割れで人手が足りない。
芦村「数学の先生が技術家庭を持たないといけなくなったりとか、情報の授業をされてたりとか、ダンスを教えないといけないし。そんな大変な中で中学校やったら、自分の空き時間に不登校の子の家行ってピンポン押してみたいな感じじゃないですか。そらもう無理やでって思うんです(笑) だから、ちょっとなんかこう役割分担してほしいと思うんです。私らからしたら。子どもはこういう風に思ってます。もちろん子どもにも確認しますよ。お母さん、お父さんがOKださないと、学校に情報出さないですけど、言っといて欲しいとか、これは言わんといてとか、言っといてくれる子が多いんです」
――なるほど。
芦村「子ども達は学校に行けるんやったら行きたい。担任の先生どんな人なんやろうって思っている。私は名刺にコーディネーターって入れてるんですけど、人をつないでいきたいんですね」

 

■かならず“ギャラドス”になってしまう

▲「こっちがまずキャッチしてあげないとダメじゃないですか。子どもは絶対に出してくれると思うんで。サインを出しているのを、こっちがキャッチしないとダメ」

 

――通う子どもたちが小学生ということもあって、新しい課題もでてきてますね。
芦村「小学生って難しいですね。自己決定するのも、そんな経験のない子たちやから。なんでこの子たちは「だって先生が言ったもん」って言うんやろうと、昔から思ってたんですけど、自分の言葉が絶対的になる瞬間ってあるんですよ。あれはかなり怖いです。中学生高校生とやっぱり違うところだと思います」
――子どもたちが、そのまま鵜呑みにしちゃうってことですか?
芦村「そうです。スモールトラウマっていうんですけど、子どもの時のすごい些細なことやのに、今でも引きずっている事ってありますよね。全然それを与えちゃうな、じゃなくて与えられる。できちゃう。知ってても知らずでも。子育てのお母さんの大変さ。私も「子どもを怒らずのびのび育てるぞー!」ってゆうてたのに、めちゃ怒ってる。「あかーん、そんな所登ったら危ない! 早く片付けってゆうたやないの!」って怒ってる」
――結局バンバン怒ってる。
芦村「伝えたいことが全部は伝わらないんですよ。そういうところにすごく悩んでいる(笑) 小学校は、こんなん30人とかいてるの……」
――小学校の先生とか、保育士さんとかってすごいですよね。
芦村「私、保育士の友達に何人か連絡しました。どうしたらいい? 「ほめてあげてください」ってみんなに言われました(笑)」
――なるほど。まずほめろ。

 

▲「ぴかぴかのギャラドスになるほうがええやろ?」手にしているのは、子どもたちがサバゲ―をする輪ゴム。

 

芦村「こっちがまず子どものサインをキャッチしてあげないとダメじゃないですか。子どもは絶対に出してくれると思うんで」
――難しいことですよね。フリースクールでも発達特性のある子というのは多い?
芦村「多いんじゃないですか。学校に馴染めない。集団に馴染めない。切り離せない課題だと思います。それも難しくて、学校で受けた影響によるストレス性の二次障害で外に出たくない、人と会いたくないなのか、もともともっている発達障がいというもので、人との関わりが難しい、コミュニケーションがとにかく難しい子で、人と関わりたくない家から出たくないのかは、私らにはわからないので」
――わからないでしょうね。本人にもわからないし。
芦村「検査をしても、ASD、自閉症で出る可能性があるし、お医者さんでも違っちゃう」
――すごく適当な所もありますからね。アンケートに回答させてて、はいあなたは発達障がいです。はい、判定料何千円みたいな。
芦村「そう。この子たちはお金がめっちゃかかってる子たちじゃないですか。学校行かんだけでね。学校給食費と教材費だけでよかったのに、うちに来たら月謝もかかるし、病院代もかかるし。この子たちは社会的弱者ではあるんです。この子らにはわかりにくいって言われたんやけど、「あんたらみんなコイキング(弱いポケモン)やでって、コイキングはピチピチやってるけど大きくなったらギャラドス(コイキングが進化した強いポケモン)なるやろって。あんたらは別に青いギャラドスにならんでいいねん。金色のギャラドスかもしれへんし。進化は絶対するねん。その過程はなんでもええねん。必ずギャラドスになるから。なってしまうから。しおしおのギャラドスになりたいか? しおしおのギャラドスよりかっこいいぴかぴかのギャラドスの方がええやろ。だったら今からやることが大事やで」って」

(第二回へ続く)

 

お昼間の塾わなどぅ

https://afsc-wannado.jimdofree.com/

#学校ムリでもここあるよキャンペーン
https://cocoaru.org/

 

 

 

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