ミュージアム

リニューアル! シマノ自転車博物館(5)

▲東京オリンピック2020に日本代表として出場したロードバイク(2020年/台湾)

 

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リニューアルしたシマノ自転車博物館をアドバイザーの神保正彦さんに案内していただいています。この博物館の展示は、どのように自転車が生まれ、今どのように使われており、今後どのようになっていくのかという、過去・現在・未来を貫く目線を感じるものでした。また、ただ展示品を所蔵・展示しているだけでなく、研究成果を広げて社会につなげ、自転車文化の形成に積極的に参加していく意志をもった組織であることも強く感じたのでした。
最終回では、どうしてこのような博物館が生まれたのか、今度どのような未来を描いていくのかをお聞きすることにしましょう。

 

 

■自転車文化を世界に広げたい

 

▲古墳時代、中世鉄砲鍛冶などから続く堺の製鉄技術が近現代の自転車産業へとつながった歴史を教えてくれる展示。右端のモニターでムービーを鑑賞できます。

 

――4階のフロアから1階へともどってきました。ここのゲートからフリーゾーンのエントランスへ出ることができますね。
神保「チケットをもっていれば当日は出入り自由です。このゲートを出ると、堺と自転車というスペースになっています。堺に住んでいる方も、遠くからこられた方も、この自転車博物館に来た時に、実は堺というのは自転車と深い繋がりがある町なのだという事を再確認してもらえるコーナーです。つーる・ど・堺としても押さえておきたいところではないでしょうか」
――おっしゃる通りです(笑)。
神保「お客様が少人数で来られた時はこちらの画面で、グループで来られた時には大画面でムービーをみていただけます。内容は古墳時代からはじまる鉄の歴史と中世以降の刃物や鉄砲の流れから、自転車と堺の関わりを知っていただけます」
――教材としてもコンパクトで理解しやすいムービーになっていますね。こうやって博物館を一通り展示を見せていただくと、なんといっても熱意にしろ、費用にせよ、かけているエネルギーがものすごいと感じます。やはりシマノさんにとっても、ここは重要な施設なんでしょうね。
神保「そうですね。島野鐵工所創業者の島野庄三郎がフリーホイールを作り始めたのが1921年。その彼が1958年に亡くなるんですね。三兄弟の長男であった島野尚三が弱冠30歳の時に、二代目社長として会社を任されることになります。自転車産業も大変な時期に重責をまかされ、その後のシマノの発展を主導していくことになります。その尚三が1991年の時に、1921年創業ですから70周年で、それなりに業態も安定してきていて、地元に恩返しをしたいという気持ちがあって、シマノ・サイクル開発センターという財団をたちあげました。その財団が1992年にサイクルセンター自転車博物館(旧館)をオープンしたのです」
――大仙公園にあった旧館の自転車博物館ですね。
神保「その時の尚三の思いとは、シマノが発展してきたのも、堺でやってきたという部分もあったので、その恩返しもあったし、それから自分たちが一所懸命やろうしてきている自転車文化をもっともっと広めていきたいという思いがあったんです。自転車博物館が堺と世界の橋渡しになる。そんな尚三の思いが形となって博物館というものになったんですね。これはビジネスとは別に自転車文化を広げていきたいというところが大きかったのかと思います。その後尚三の長男の島野容三が当財団の理事長となり、(2001年に株式会社シマノ社長、現在は会長)そろそろ建て替えの時期だということになり、先ほどいただいたお言葉のように、力の入った博物館としてリニューアルできたのだと思います」

 

――初代の庄三郎さんがフリーホイールを作られてから100年。節目の時に開館されたことになりますね。それで、自転車文化を広げていくというような目線だから、そのフィロソフィーが感じられる展示だったのではないかという気がします。
神保「自転車というのは他愛もない乗り物なんですけれど、多分移動手段として考えると、これから先色んな技術が進んだり、AIが入ってきたりして、もっと快適で便利な乗り物は出てきますよね。でも、自転車というのは、自転車博物館に最初に掲げていた言葉『自転車とは限りなく自由な乗り物』とありましたが、人がはつらつと健康的に生きていくためにはあるといい乗り物で、単に便利で快適なだけではない自転車という乗り物が、そこに役立てるのかなと思います」
――確かに、こうやって自転車博物館を見せていただいて、電動とか勝手に動く乗り物が出てきたとしても、自分の足でこいでいくものが廃れることはないんだなと思いました。本当に自転車が好きな方というのは、楽しみを感じて、笑顔になっているんだろうなという感じがしますね。
神保「そんな自転車の普遍的な価値のようなものを、ご来館された方がそれぞれに何かを感じてもらえたらと思います」
--昨年のリニューアルオープン時はコロナ禍でしたけれど、来館者の方はどうだったのですか?
神保「コロナになる前からすると、大きく減ってますね。まだ戻ってないかなとは思います。元々、小学校の社会見学などに使われていましたので、その辺りがまた増やしていければと思います。また、最近はインバウンドの海外から来られる方が増えてくるときに、駅近ということもあって来やすくなってるかなとも思います」
--まだまだ大変ですけれど、今日も海外からのお客様らしき方々が来られていて誇らしく感じました。海外の方はもちろん、特に堺の子どもたちにはマストで来てほしいです。

 

 

■堺ブランドの復活

 

▲堺市をホームタウンとするプロバレーボールチームの堺ブレイザーズがホームゲームで行ったシェアサイクルの臨時ステーション設営。

 

――ここ2年間は海外の方を堺でお見掛けする機会は減っていましたが、以前はすごく色んな国の方が来られていたようでしたね。
神保「海外の人は、行った先で自転車を使うというのは、馴染みの方が結構いらっしゃいますよね。そういう手配としてシェアサイクルのようなシステムがもっと利用しやすくなればと思います。たとえば堺の環濠エリアと古墳エリアは歩いていくにはちょっと遠いですが、電車とかバスで行くというほどではない。自転車がちょうどいい距離感です」
――わかります。
神保「単なる自転車のプロモーションをしたいということではなくて、実際に自転車で回るとちょうどいいということを、人々の認知、コモンセンス(常識)に出来たらいいですし、その時にはシマノ自転車博物館が中心でありたいなと思います」
――先日バレーボールの堺ブレイザーズの試合が築港エリアの体育館で行われたのですが、あそこも公共交通が脆弱で歩くには遠いけど、自転車だと最寄り駅からすぐなんですよね。試合の日にシェアサイクルが社会実験で導入されていて、良い試みだと思いましたね。
神保「行政の方にも興味を持っていただいているのですが、特に観光エリアは当然ですけれど、実は堺には価値ある観光資源がたくさんあって、驚くような歴史があるのですが、車で移動していると目に入らないし、歩いていたのではそこまでは及ばないので、自転車で回ると見えてくるものが沢山ありますよね。堺が元々持っている歴史、文化、人というものをどうやって伝えていくかという時に、自転車がもっと役立てるでしょう。そういう所はぜひもっと盛んにしていきたいです」
――先ほどもありましたが、堺は自転車でめぐるとそういった文化資源に出会いやすい町ですよね。自転車が活用できる町になっていけばいいですね。
神保「そういう意味でも、自転車の町と言った時に、堺がベンチマークになっていくといいですよね」

 

▲シマノ自転車博物館がある環濠エリア(旧市街区)付近から、古墳エリアへの移動は自転車が便利。

――プラザ合意以降、製造拠点が中国などへ移り、堺は製造としての自転車の町とはいえなくなってしまったという中で、シマノさんがこうやって頑張っているというのは希望にもなっているのではないでしょうか。
神保「産業の話、経済の話としては同じものであれば安い方がいい。そういう意味では、やはり中国製の自転車に日本製は多分太刀打ちできないかもしれません。でも、たとえばお酒だったり、化粧品だったり、楽器だったり、そういうもののお客様、使う人というのは、出来れば安いものをとはいいませんよね。出来れば良いものが欲しいはずです。なぜかというと、それはどれが自分にとって得かじゃない。どれが自分にとって意味のある価値のあるものかが大切だからです。自転車も、ぜひそういうものになってほしいと思うのです」
――確かに自転車には、手軽で安いというニーズだけじゃないですものね。機能やデザインへのニーズも高いですものね。
神保「だからこれこそが堺の自転車というものが出てきた時には、堺ブランドの自転車が復活することだって十分あり得ると思います」
――包丁とかもそうでしたね。ここ10年ぐらいかけて、堺ブランドの包丁が確立して知れ渡ったように思います。
神保「もちろん本当にいいものという質、クオリティが大事ですよね。それが条件として、その背景にあるストーリーに魅力的な人がいて、それを伝えようという意志があったら、お客様もそれを欲しいと思のではないでしょうか。自転車もぜひそういうものになってほしいですね」
――自転車ファンにとっては、堺のシマノさんは輝かしいブランドですよね。
神保「しかし、メインフロアーに展示していたオランダのミルク運搬自転車のように、地域地域で求められる自転車の形だったり要求要素って違ってくるんですよね。ですから、堺の人がどんな自転車だったら堺らしいよねというのが提案できるか、やはり文化が大事だと思うのですが、それが育たないとなかなか難しいかもしれませんね」
――だとすると、堺の自転車ブランド復活には、文化としてやはりもうワンポイント必要なのかもしれませんね。
神保「包丁でもね。単なる技術だけじゃないと思うんです。そういう連綿と続いてきた文化というものが必要だと思うのです」
――今、包丁作りに関わってる職人さんは、そんな多いわけではないですが、それぞれの職人さんの個性がありますから、私はこの職人さんの包丁をというチョイスが出来るのも、それだけ堺の町に包丁の文化が根付いているからなのかなとも思いますね。

 

▲近畿のサイクリングルートの紹介。堺は古代から、奈良、和歌山、熊野などへ向かう街道が通る交通の要所でした。サイクリングルートのセンターになってほしいですね。

 

神保「こんな活動も地道に続けながら、子どもたちが年間3万人も自転車の絵を描いてくれて、何千人も子どもたちが見学に来る。そういう中から、堺に誇りをもってくださったら、堺ならではの自転車というのが出てくると思います」
――一方で、スポーツサイクルでいうと、5月にツアー・オブ・ジャパンで、堺ステージがありますね。
神保「博物館もその日は入館料無料にして、堺市さんとの関係でお手伝いさせてもらったりしています。ツアー・オブ・ジャパンは、いわゆるステージレースの一つで一番核になる世界的なレースですので、そのスタートが堺というのはすごくシンボリックなことかなと思います。沢山の人が来ますし、もちろんレースファンだけではなくて、地域の人も自転車レースというものを知るいい機会になると思います。ツアー・オブ・ジャパンを何年も続けているということで、今年もあるんだなという認識が深まっているのかなと思います。また、レースのその日だけで終わってしまう話ではなくて、じゃあ自分もスポーツバイクに乗ってみよう、大和川のサイクルラインから石川のサイクルラインまで行ってみよう。そんな風に一人一人がスポーツサイクルに馴染んでいってもらえると、シンボル的なイベントもより広がっていくのかと思います」
――なるほど。一日だけのスポーツイベントはシンボル的には重要だとして、やはり日常的に楽しんでもらえることも大切ですね。
神保「スポーツサイクリングというのは、それなりに知識や準備が必要ですが、今は多くの人が楽しいでいただいてます。その時には、環濠エリアとか古墳エリアに加えてフォーカスを広域にすると、大和川サイクルラインもありますし、和歌山や奈良の方に行くのもいいですし。そういう意味でも自転車文化のセンターに堺はなれるのではないでしょうか」
――そうなるとインフラ的にも堺の自転車環境が整備されることが重要ですね。
神保「大和川サイクルラインが整備されて、石川サイクルラインとつながります。それと先ほど話にでたバレーボールの体育館やサッカーのJグリーンのある築港、それから万博会場の方にもつながっていくと、そうした足を延ばしたサイクリングというのも楽しんでいただけます。別に堺が中心でなくてもいいのですけれども、堺を含めたエリアが盛んになっていくといいですね」

 

▲オリジナル一筆箋。つーる・ど・堺も大プッシュします。シマノ自転車博物館のお土産にぜひ。

 

――歴史的にみても、堺は近郊の農村部から木綿を仕入れて繊維産業の中心になったりしてきた感じがあるので、周囲を巻き込んでハブとして活躍してくれたらいいですね。
神保「自動車博物館でもオリジナルアイテムで手ぬぐいをやっていますよ」
――つーる・ど・堺の一筆箋もお土産でおいてくださってましたね。では、そういったことも一例として今後はこの博物館は自転車文化発信の拠点として、施策し活動していくというような形になっていくのでしょうか?
神保「博物館という意味では、まず資料を分析して、展示していくというのが一番の軸になります。自転車の歴史や技術というのを、今日見ていただいたように今後もやっていきます。また、サイクリングをどう楽しむかという部分も、並行してやっていくことだと思います。これまでもやってきた健康サイクリング、それから自転車散歩というサイクリングのイベントは博物館が行っています。ホームページでは、そういった活動の予定も見ていただけます」
――体験型のイベントや自転車教室もあって、自転車に接する場所にもなっていくということですね。展示には未来のスペースもまだまだいっぱいありましたし、今後も楽しみですね。
神保「展示をシンプルにするために、パネルではなくモニターの中に色んなデータをいれています。たとえば、メインフロアーのCゾーンでは、好循環という話をさせていただきましたが、あのモニターの中には自転車に乗ると健康になることのエビデンスも沢山入ってます。なので来ていただくたびに新しい発見がある博物館になっていると思います」
--博物館にいくたびに新しいデータや知識にであえるかもしれないんですね。今日はありがとうございました。

 

▲今回は紹介しきれませんでしたが、特別展スペースもあり、「世界最長のハネムーン」など個性的な『旅の自転車』展示がされていました。

 

いかがだったでしょうか? リニューアルしたシマノ自転車博物館。ただの箱ではなく、博物館を媒介にして自転車と地域をつなぎ、積極的に文化を振興させていく現代的な博物館ではないでしょうか。その魅力を生み出しているのは、自転車へのリスペクト、地元堺への思いがぎゅっとつまっているからこそだとも感じました。

その堺ですが、過去においては、古墳時代からの長い鉄の技術の集積があったからこそ、自転車製造拠点としてまさしく堺は自転車の町となり、その結果として現在においてシマノ自転車博物館が堺の町に設立されました。
そして未来。どのような形になるかはわかりませんが、堺が再び自転車の町となるためには、堺オリジナルの自転車文化を築いていく必要がありそうです。この自転車博物館を見ればそのポテンシャルは十分あるようにも思えたのでした。

 

 

 

シマノ自転車博物館
住所:〒590-0073 堺市堺区南向陽町2-2-1
電話:072-221-3196
web:https://www.bikemuse.jp/

開館時間: 午前10:00~午後4:30(入館は午後4:00 まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始

 

 

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