イベント情報

企画展「みてさわって堺のやきもの~はじめまして、堺生まれのやきものです。」@さかい利晶の杜(3)

▲堺陶芸会の皆さん。

 

さかい利晶の杜の企画展「みてさわって堺のやきもの~はじめまして、堺生まれのやきものです。」レビューもいよいよ最後の第3回記事となります。
第1回第2回の記事で見てきましたが、この企画展はいくつかの野心的な試みがひそんでいます。ひとつは、茶碗など「うつわ」としてのやきものと、オブジェなど「造形作品」としてのやきものの両方を、あたかも右手と左手のように等分のパワーで取り上げていること。その軸になっているのは、堺陶芸会です。堺陶芸会の陶芸家が、「うつわ」と「造形作品」の両方を企画展に提供しているのです。
もうひとつの野心的な試みは、作品として展示してある「うつわ」を実際に触ることができること。ただ触るだけでなく、お茶席の場でお茶を点てて楽しむことができるということです。茶碗は、お茶席でお茶をたててこそ真価がわかるということなのでしょう。
さて、第3回の記事で取り上げるのは、残された最後の展示コーナー。現代のやきものからさかのぼり過去の堺のやきものを紹介しているのですが、ここでもちょっとした野心的なこころみがなされているようです。

 

■お茶席に見立てる

▲菱古焼 御福面大皿(左/堺市博物館蔵)と湊焼 煎茶碗(右)

 

最後のコーナーの解説は、さかい利晶の杜の学芸員の三好帆南さん。
三好「ここでは過去の堺の四つのやきものを、お茶席に見立てて展示しています」

無造作に展示品を並べるのでもなく、ただ歴史を振り返るだけでもなく、時間の流れで展開が変化するお茶席に「見立て」て、関連付けるようにしてやきものを紹介していくという趣向。茶道に接したことが無い人にとっても興味深い展示になるのではないでしょうか。
さて、堺のやきものというと、よく知られているものは湊焼です。
三好「湊焼は、江戸時代前期に京都樂家三代目道入の弟道楽が、今の堺市湊ではじめたとされています」

展示のスタートは、「初座 席入り」で、展示品に目をうつすと、小さな煎茶碗セットと、その隣りの大きなおかめの顔を模した大皿が存在感を発揮しています。煎茶碗は湊焼で、松や鶴など縁起の良い物が絵付けされています。
おかめ=福面は、盛り付けのためというよりは、飾りのための器で待合に置かれたもののようです。こちらは菱古焼といって、吾妻橋(堺駅前)あたりで焼かれていたやきものだそうです。どちらもお茶席にやってきたお客様を歓迎して、緊張をほぐそうとするような意図が見て取れますね。

 

▲復興本湊焼 交趾写綠釉大亀香合(堺市博物館蔵)

 

初座では亭主が香をたいた後、客は香合を拝見するという流れになりますが、福面のお隣には、ユーモラスな風貌の亀の香合が展示されています。
三好「これは大澤鯛六さんが、復興した昭和の湊焼で、中国明代の香合を写したものになります」
江戸時代にはじまった湊焼は、その後何度か途絶えるのですが、そのたびに復興されています。大澤鯛六さんは、つーる・ど・堺でもおなじみの堺能楽会館館主大澤徳平さんの父にあたり、酒造業を営みながら湊焼を復興させた人物です。
初座では懐石と呼ばれる食事をとるのですが、そのための器も湊焼らしいものが展示されています。
三好「湊焼エビ型の向付(むこうづけ)10個セットのうちから3つ。他にもアワビ型の器があったりと、湊焼は堺らしく海にまつわるデザインをとりいれたものが多いのです」
堺旧港に臨む堺能楽会館にはギャラリーがあり、湊焼・復興湊焼の両方で鯛六さんの名前のもとになった鯛の器も飾られています。

 

▲湊焼 赤樂海老形向付(堺市博物館蔵)

 

■茶道具に触れ、笑顔になる

 

お茶席では、初座が終わると客は一端茶室から退席します。客は露地の腰掛待合で時を過ごし、亭主が茶室の装いを改め終えるのを待ちます。後座となって、同じ場所なのに違う、というのは新鮮な驚きをもたらすわけですが、亭主の演出力が試される場面です。その時に、演出の主力となるのが茶道具たちということになるでしょう。

 

▲湊焼 赤樂蛸壺形掛花入(堺市博物館蔵)

展示されてるのは、これまた湊焼らしい個性的な面々。赤樂蛸壺形掛花入は、茅渟の海と呼ばれた泉州の海ではおなじみの蛸壺形。寒い日には暖をとる手あぶりは丸みを帯びた富士山形。
後座になって、濃茶・薄茶をいただくこととなり、いよいよお茶碗の出番。展示されているのは、湊焼として、赤樂茶碗と俵茶碗そして、堺焼として金田新平作の堺焼の御鯛茶碗の三点です。
御鯛茶碗は、鯛の頭部を大胆な切り取りで描いていてキャラクター茶碗の趣があって親しめます。ここでの堺焼は、調べてみると明治に入って堺の金物問屋金田新平家の四代目がはじめたやきものとあります。所蔵は、古代にやきものセンターとして栄えた堺市泉北にある小谷城郷土館。
なお、小谷城郷土館では、さかい利晶の杜との連携展示として特別展「堺の近代やきもの-湊焼-」が12月19日まで行われているとのこと。

 

▲湊焼 俵茶碗(左) 堺焼御鯛茶碗(中) 湊焼 赤樂茶碗(右)いずれも小谷城郷土館蔵

 

最後に、このさかい利晶の杜運営グループの宮本雅代さんからのメッセージを紹介します。
「コロナ禍で大変ですが、この展示で来た方に笑顔になって欲しい、いろんな面で堺を知って欲しいと思い企画しました。姉妹都市ウェリントンのこと。一般には知っている人のあまりいない湊焼や堺焼。湊焼の造形の細かさ。実際に見てほしい。美術館や博物館では触ることができないけれど、お茶室の中でなら触ることが出来るので、お茶席で実際に使うイベントも企画しています。茶道具は茶道具として味わってほしい」

この企画展は、今の博物館の流れである体験型の企画展として捉えることができます。その価値も素晴らしいものでしたが、堺陶芸会を軸として、「うつわ」と「造形作品」、「堺」と「ウェリントン」、「現在」と「過去」と3方向に立体的に「堺のやきもの」を展開したことが評価できるのではないかと思います。
この企画展によって、堺という切り口から、現代の茶道、やきものを支えている分厚いバックボーンを見ることができたのではないでしょうか。

 

■日 時
令和 3 年 10 月 16 日(土)~11 月 14 日(日)
午前 9 時~午後 6 時(最終入館 午後 5 時 30 分)
※休館日:令和 3 年 10 月 19 日(第 3 火曜日)
※新型コロナウイルス感染症における感染防止対策を十分に行った上で実施します。
■ 主 催 さかい利晶の杜
特別協力 小谷城郷土館、堺陶芸会、堺市博物館、堺市国際部

■ 場 所
さかい利晶の杜 2 階 企画展示室(堺市堺区宿院町西 2 丁 1-1)

■ 観 覧 料
大人:300 円、高校生 200 円、中学生以下 100 円
※「千利休茶の湯館」「与謝野晶子記念館」の観覧券で企画展もご覧いただけます。

さかい利晶の杜
堺市堺区宿院町西2丁1番1号
072-260-4386
http://www.sakai-rishonomori.com/

 

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