ミュージカルを作ろう!? (3) 銀河鉄道の夜 観劇レポート(前篇)

 

「20年後の堺を芸術のまちにしたい」
そんな夢を持って活動する堺市立西文化会館(ウェスティ)にとって、ジュニアミュージカル劇団Little★Starは、夢に直結する存在と言えるかもしれません。小学生から中学生、高校生までの子どもたちが、小さい頃から芸術に触れ、プロフェッショナルな指導を受けて表現者として舞台に立つのですから。

つーる・ど・堺では、ミュージカルが出来るまでの現場を知りたくて、宮澤賢治の名作「銀河鉄道の夜」の公演を目指す、劇団Little★Star「teamSpica」の練習の様子を取材しました。そこでは、子どもたちの未来を見据えて、子どもたち自身が自分で考え、行動することを大切にした指導が行われていました。劇団結成から2度目の公演とあって、子どもたちも技術的に上達しているだけでなく、劇団の一員として自主的に行動する習慣がついているようでした。

2019年3月23日の公演当日。1日2回の公演で、最初の公演はすでにチケットが完売して、当日券も無し。2回目公演も残席わずかで、540席あるウェスティホールですから、1000名を越えるお客様が来られたことになります。
さて、どんな舞台になったのでしょうか? 子どもたちの奮闘ぶりを紹介することとしましょう。

 

■舞台化のための演出

 

「銀河鉄道の夜」は、言わずと知れた日本を代表する作家・宮澤賢治の未完の代表作。法華経への深い信仰と諦観をベースに、豊富な科学知識を詩的な解釈と美しい言葉でちりばめながら、少年の繊細な心象を通した幻想的な銀河鉄道の旅を描いた作品です。
漫画やアニメ、そして舞台作品としても何度も上映されてきましたが、「teamSpica」を率いる遠坂百合子さんが今回の脚本・演出を担当しています。遠坂さんならではの表現が随所に見られました。

 

▲教室のシーン。中央は高橋惟さんが演じるジョバンニ。

 

オープニングは、詩の朗読から。「銀河鉄道の夜」から着想を得たプロローグなのでしょう。朗読しながら役者たちが姿を現します。ミュージカルに登場する、ほぼ全てのキャラクターが登場し、歌とダンスが始まります。もちろん原作には無いオリジナルのパートで、遠坂版「銀河鉄道の夜」は、大きなアレンジのある作品であることを観客に向けて示唆しているかのようです。

たとえば次のシーンは、一見ほぼ原作通りの教室のシーンとなります。授業で銀河についての先生からの質問を、主人公のジョバンニが知っているのに、上手く答えられないシーンです。ここで原作通りでない部分をあげると、ジョバンニにしか見えない2人の座敷わらしというキャラクターが登場することでしょう。

座敷わらしは、いくつかの役割をはたしていました。ひとつは、内省的な性格のジョバンニの自問自答をモノローグ(独り言)でなく、会話劇として表現する役割。
もうひとつの役割は、イマジナリーフレンド(子どもにとっての自分だけの想像上の友人)として、家庭の不幸と学校での孤独の中で暮らすジョバンニというキャラクターの寂しさを強調すること。

どこか洋風の世界観に和風の座敷わらしを持ってくるのはミスマッチのようにも思えますが、座敷わらしは宮澤賢治の生まれた岩手県に伝えられる精霊のような存在です。遠坂さんの遊び心かもしれませんが、宮澤賢治へのリスペクトを感じます。

 

▲回想シーン。カンパネルラの家で宇宙の図鑑を見る。学生服を着ているのは山下健吾さんが演じるカンパネルラ。

 

もう1つ面白い演出がありました。教室のシーン中に、もう1人の主人公カムパネルラとの回想シーンが挿入されます。カムパネルラの部屋でジョバンニが一緒に宇宙の図鑑を見たシーンで、原作のストーリーラインでも今後の物語の枕になる重要なシーンです。

2人に文字通り照明が当てられている間、よく見ると影に沈んだ背景の教室で演技を続けている「黒子」たちが存在することに気づきます。これは不思議な演出でしたが、面白い効果を生んでいました。
ジョバンニや、その友人であるカムパネルラ、いじめっ子ザネリなど名前がある、つまりシーンで個別の役割があるキャラクター以外の存在、いわゆるモブ(群衆)キャラクターは、全て黒い衣装をまとった黒子として表現されます。キャラクターと黒子キャラクターが同時に舞台に出ることで、キャラクターによりスポットがあたるといった効果があったように思えました。影が存在することで、光が強調されるのです。

 

■小説の伏線が浮かび上がる舞台

 

どうやら、この舞台「銀河鉄道の夜」は原作のストーリーラインは基本的には忠実になぞり、そこにオリジナルのシーンを組み込む形で綴られていくようです。引き続きストーリーを追っていきましょう。

 

▲病身の母に飲ませるための牛乳が届かない。ジョバンニは、牛乳屋さんへ向うが追い返される。この何気ない外出が、壮大な銀河の旅への伏線になる。

 

放課後、クラスメイトたちが浮き浮きしながら銀河のお祭りへと向かう中、ジョバンニは印刷所へ活字拾いの仕事に向かいます。活版印刷に使う活字を棚から拾い集める仕事は、インクで汚れるし、目も疲れる辛い仕事です。
印刷所へ、家へ、牛乳屋へと、お祭りで華やぐ町の中、ジョバンニは影法師と……そして座敷わらしと一緒に駆け抜けていきます。
シーンが進むにつれ、ジョバンニの家庭環境の厳しさが明らかになってきます。父は漁に出て長い間帰ってこず、投獄されたという噂も出ている。母は病気で寝たきり。姉は家を出て、別の家庭がある。残されたジョバンニは、1人家計を支える孤独な存在です。貧困と父の不在を、クラスメイトには揶揄されます。仲の良かったカムパネルラだけが、気の毒そうにしてくれるけれど、実質的な救いにはなりません。

牛乳も手にはいらず、いじめっ子たちに馬鹿にされたジョバンニは、悲しみのまま町を抜け出し人気のない丘の上で1人眠りにつきます。眠りの中で、ジョバンニは警笛の音や「銀河ステーション」というアナウンスが聞こえてきます。ジョバンニが目覚めた時、銀河鉄道の旅が始まります。

 

▲この舞台では、後の伏線となるモチーフが、舞台道具として視覚的に表現されています。

 

ところで、このシーンでは、ジョバンニは本当に目が覚めたのでしょうか。
ジョバンニは夢の中で夢から覚めたという夢を見たという解釈も出来ます。オープニングからここまでのシークエンスを見ると、宮澤賢治が絶妙に伏線を張っていることに気づきます。後の銀河鉄道の旅に出てくる重要なモチーフの多くは、ここまでのシーンでさりげなくちりばめられています。これらはストーリー上の伏線であると同時に、ジョバンニが眠る直前に見たものが夢の中に浮上したのだという「科学的」な解釈も可能にします。
もちろん、これは夢ではなく、ジョバンニは超常的な手段によって、もう一つの世界で銀河鉄道の旅へ出たのだという解釈をしたってかまわないのです。
様々な解釈を読者に委ねることが出来る懐の深さも、「銀河鉄道の夜」を名作にしているのではないでしょうか。舞台版で見ることで、そうした原作の懐の深さも浮かび上がってよく見えてきたように思います。

閑話休題。

 

■子どもたちに向けてのメッセージ

 

▲どの花もそれぞれに美しい。

 

さらに続いてのオリジナルシーンにも注目してみましょう。

この舞台「銀河鉄道の夜」のポスターには「ほんとうのさいわいは一体なんだろう?」というキャッチコピーが書かれています。
この「問い」を作品全体を貫いている「問い」だと考えると、遠坂さんのオリジナルシーンの意味が良くわかります。リハーサルのレポートでも触れましたが、現代の特に子どもたちに向けてのメッセージが込められたシーンになっているのです。
特にそれが良く出ているシーンが2つあります。1つは「花」たちのシーン。もう1つは、見せ場であるサギのダンスの後の「捕らえられた鳥」たちのシーンです。

「花」のシーンは、葉ぼたん、バラ、竜胆、コスモス、菊と、5つの花がそれぞれの美しさを競い合うシーンです。花にも色んな美しさの花があり、いずれの花もそれぞれに美しいというメッセージが感じられるシーンです。
「鳥」のシーンは、生前の罪によって鳥へと堕とされてしまった少女たちが、呪いを解く王子様=カムパネルラのキスなどいらない今の自分でいいのだと高らかに宣言するシーンです。
どちらのシーンも、自己肯定の大切さをメッセージにしたシーンで、「花」の方は「多様性」を、「鳥」の方は「自立」が強調されています。
特に、ガールズバンドへ変身して「自分らしく」とシャウトする「鳥」は、王子様をまたなくなったディズニープリンセスを思わせます。

どちらのシーンも、原作からはかけ離れたシーンのように思えるかもしれませんが、「ほんとうのさいわいとは一体何だろう?」という問いを現代で発する時、避けては通れないテーマに応えているシーンになっているのです。

 

▲男女間の平等を示すジェンダーギャップ指数が149カ国中110位(2018年)で改善が遅々として進まない日本で、女性の自立、特に少女の自立をメッセージに込めることは大きな意味があるでしょう。

 

後篇では、リハーサルでも力を入れていた沈没船のシーンからフィナーレ。そしてやり遂げた演者、関係者へのインタビューをお届けします。

 

※ジュニアミュージカル Little★Starの次回公演。

 

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