カラフルに美しいまち サンディエゴ紀行

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■フェスティバルのまち
オラ! サンディエゴ!
つーる・ど・堺史上最も堺から遠いまちからのレポートをお届けします。その舞台はサンディエゴ。アメリカ合衆国の西海岸カリフォルニア州にあるメキシコ国境に隣接した大きなまちです。人口135万人の歴史ある港町サンディエゴは、1700年代の街並みが保存され、路面電車が走る、堺市民にはちょっと親近感の沸くようなまちです。景観は美しく、そこかしこにアートが息づき、まちはギャラリーのようです。
実はサンディエゴを訪れたのはアートが繋いだ縁でした。2016年3月に「さかいアルテポルト黄金芸術祭」で堺を題材にした演目「魅惑のザビエルナイトvol.3 堺編」を上演した「劇団ガンボ」は、関西在住でありながら主に海外で活動する劇団。その活躍に注目した「サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバル」が「劇団ガンボ」を招待し、それに同行することになったのです。

 

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▲劇団ガンボの堺公演「魅惑のザビエルナイトvol.3」。
では「サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバル」とは何か。フリンジとは「周辺にあるもの」という意味。時は1947年。スコットランドの首都エディンバラで開催されたエディンバラ国際フェスティバルに招待されなかった劇団が、会場「周辺」で自主的に公演を行ったことがフリンジフェスティバルの始まりでした。
この独立精神を種に生まれたフェスティバルは、その後世界に広がり、各地で独自のフリンジ組織が生まれ、あちこちの都市でフリンジフェスティバルが開催されることとなったのです。サンディエゴのフリンジフェスティバルは2016年で4回目となる若いフェスティバルですが、内外から150組のアーティストを招き、のべにして6万人以上の観客を集める規模になった勢いのあるフェスティバルです。

 

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▲メイン会場となったスプレックルズ劇場でのプレスレビューの様子。大きな劇場の舞台に仮設の観客席が作られました。
演目も、演劇、ミュージカル、会話劇、一人芝居、人形劇、ダンス、サーカス、民族舞踏、音楽とコンテンポラリーダンスのコラボなどと幅広く、パフォーマンス系のアートがどういうものなのかを俯瞰出来てしまうほどです。海外から招待されラスベガスでショーをやるような劇団も数多く、中には学生劇団もありますが、一律10ドル(1000円強)と安価なチケットも魅力です。またボランティアスタッフとして1日5時間のボランティアを3回こなせば、好きな公演を無料で見ることもできます。
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▲劇団ガンボの田村佳代さん(右)とすっかり友達になってしまったボランティアスタッフのダイアナさん(左)。オフィスにつめっぱなしでなかなか公演を見に行く余裕がはなかったそうですが、最後に劇団ガンボの公演を見に来てくれました。

 

こんなにも敷居が低く一流のパフォーマンスアートを提供するのは何故なのか。フェスティバルの実行委員の1人であるリリーさんに、サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルの哲学についてお聞きしました。
「いい質問です。サンディエゴフリンジの哲学とはこういうことです。アーティストとはわたし達に出来ないことが出来る人たちです。私達はアーティストに発表の場を提供する。そしてサンディエゴ市民には、アーティストが発表する素晴らしいアートに触れる機会を提供する。それが私達の哲学です」
メイン会場は100年以上の歴史がある由緒あるスプレックルズ劇場で、周辺も含め12ヶ所の劇場のどこかで連日パフォーマンスが開催されています。サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルは、市民にとってアートに身近に触れることが出来るフェスティバルだといえるでしょう。

 

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▲ショーの合間のアーティストとの交流も楽しみのひとつ。写真中央の若い男女はペアのアーティスト「A Little Bit Off」。超人的なアクロバットとコミカルなショーを披露。
サンディエゴでは、サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバル以外にもフェスティバルは多く、常にどこかでフェスティバルが開催されているようです。そんなサンディエゴのまちを歩いてみましょう。
■アートが身近なまち
今回、サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルに招待されたアーティストには地元ボランティアのお宅にホームステイが用意され、劇団ガンボは二軒のお宅にお邪魔しました。
うち一軒は、サンディエゴ発祥の地オールドタウンと呼ばれるエリアにある元女優のスービーさんの一軒家でした。このお宅は、それこそ古い映画に出て来るようなアンティークな豪邸で、周辺もお屋敷が立ち並んでいます。オールドタウンは、18世紀にカリフォルニア州で最初の伝道所が出来た入植者たちのまちで、まちなみにはそんな歴史が香ります。
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▲サンディエゴ発祥の地オールドタウン。古いアメリカ映画の中に迷い込んだかのようです。

 

もう一軒のホームステイ先は、現在の中心地ダウンタウンにほど近いジョンさんとキッカさんの日本でいえば3LDKぐらいのアパートメント。
「私はこのキッチンが大好きなの」
とキッカさんが言う可愛らしいアンティークなキッチンが魅力的な、こちらも年代物の建物です。
年代物といえば、ダウンタウンのブロードウェイにあるメイン会場のスプレックルズ劇場も100年以上の歴史ある劇場で、「オペラ座の怪人」がいてもおかしくない、いやいないとおかしいような風情です。手の込んだ装飾は美しく、楽屋や舞台裏、天井のどこにも歴史が刻まれています。

 

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▲公共交通機関は赤いトラムと赤いバス。
こうした古い建物と新しいビルが林立するまちなかを、近未来感のあるデザインのトラム(路面電車)が走る景観はダウンタウンの魅力のひとつでした。
オールドタウンにせよダウンタウンにせよ、サンディエゴの住民が歴史ある建物で実際に暮らし使い大切にしているからこそ、他にはないまちの個性が残されているのです。どの建物もどこかガタがきていて四六時中修理が必要なほどですが、手間がかかるのもまた愛おしんでいるかのようです。古い建物となると、それが貴重な歴史的な建物であっても、すぐに壊して建て替えてしまいがちな日本とは大きな違いを感じずにはいられませんでした。

 

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▲”アメリカで一番美しい都市公園”バルボアパークの自転車止め。
そして古さの中に価値を見出す感受性を持つサンディエゴの人たちは、新しいものへの感性も繊細です。
スプレックルズ劇場近くの広場は新しく改装されたばかりのモダンなスペースで、壁面アートやモニュメントが華やかに彩っています。自転車止めひとつとっても、アート作品のようでおしゃれ。
このおしゃれな自転車止めは、広場だけでなく、スーパーや公園など町角でよく目にしました。自転車の形をした自転車止めなんて、説明不要の分かりやすさは他にないでしょう。自転車のまち堺でも、こんなまちの景観の楽しいアクセントを取り入れて欲しいと思わずにはいられませんでした。
■多様性のまち
アートに溢れるサンディエゴの文化レベルの高さを底支えしているのは、サンディエゴ文化の多様性にあるようにも思えます。
発祥の地オールドタウンが伝道所から始まったように、リベラルなカリフォルニア州の中ではやや保守的な傾向もあるというサンディエゴですが、多様な文化も売りなのです。国境を接するメキシコ文化を筆頭に、日本、韓国、中国、タイ、ベトナム、インドなど様々な国のレストランとファーストフードがいたるところにあります。まちゆく人々の人種も多様です。サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルの演目も国際色豊かで、民族衣装を着て観劇に来られるお客様の姿も目立っていました。
ホストファミリーのジョンさんに、なぜリスクがあるかもしれない外国人のホームステイを受け入れたのかを尋ねてみました。
「海外のアーティストの異文化を知ることは私たちにとってもいいことだし、宿泊するアーティストにとっても私たちの異文化を知るのはいいことでしょう。両方にとってポジティブなことだから引き受けたんです」

 

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▲ニュージーランドの「Le Moana」は、1918年サモアを襲い多くの犠牲を出したスペイン風邪のパンデミックをテーマにした「1918」を公演。開演を控えた劇場周囲には民族色を感じさせる衣装のお客様も見受けられました。
他国の文化だけではありません。
サンディエゴのまちなかでセクシャルマイノリティのシンボル・レインボーフラッグを店頭ではためかせる店舗も目につきます。LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)劇場であるダイバーショナリー劇場は、サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルの会場となり、フェスティバルのオフィスにはレインボーカラーの傘がデコレーションされていました。
LGBTのアーティストやスタッフも少なくなかったのですが、セクシャリティをオープンにしSNS上でも社会問題として積極的な発言をしている人もいれば、親しくなってから「友達にだけ教えてるんだ」と教えてくれた人もいました。マイノリティが自分のパーソナル情報の公開についても主体的に選択できるほど社会が成熟していると言えそうです。

 

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▲フェスティバルのオフィスにはレインボーの傘のデコレーション。
まだ課題はあるだろうけど、サンディエゴでダイバーシティ(多様性)が日本とは比べものにならないレベルで実現していました。ホストファミリーのジョンさんは、ダイバーシティはサンディエゴの特徴だと首肯します。
「サンディエゴはダイバーシティのまちだけど、アメリカの全部がそうではないよ。アメリカ南部、特にテキサスなんかはサンディエゴとは全然違う」
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▲音楽グループの「bkSOUL」と社会や政治問題を取り上げるパフォーマンスグループの「Collective Purpose」の公演は、アメリカにおける黒人の公民権運動の歴史から個人の悲哀までをテーマに10年間共同で積み重ねた「STILL MOVING」。
黒人への銃撃事件でアメリカの人種差別の根強さがまたもあらわになっています。一方で、多様性のまちサンディエゴもアメリカでした。異文化への理解と、アートへの受容性の高さを持つジョンさんのような市民がサンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバルを支えている。またフェスティバルによってアートや多文化に触れる市民が増え、理解ある市民を育てる。そんな好循環がサンディエゴとアートの間にはあるようでした。
最後に、5回の公演を終えてフェスティバル閉幕前に一足早く帰国した「劇団ガンボ」には吉報が舞い込みました。「最優秀コメディ賞」と、フェスティバルの精神を最も体現した独創的なショーに贈られる「フリンジ・オブ・フリンジ賞」の二つの賞をダブル受賞! 受賞が発表された時、大歓声があがったとか。堺でもぜひ再公演をお願いしたいですね!
サンディエゴインターナショナルフリンジフェスティバル
劇団ガンボ

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