「紙」からはじまった地域活性化

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中百舌鳥のふとん太鼓が練り歩くお祭りの日、交通規制で参加者の到着は少々遅れ気味。
大阪府立大学ではこの日、「南大阪地域学会」の第5回大会が開催され、「つーる・ど・堺」と縁深い2人の研究発表が行われました。1人は颯爽人に登場した”ロックンロールするプロデューサー”樋口恵介さん。もう1人は「つーる・ど・堺」の代表取締役 田中幸恵です。
2人の研究発表に共通するキーワードは図らずも「紙」。そして地域の活性化でした。
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▲府立大学のモニュメントは、下が粗い石で上が磨かれた石で、若者が精錬されていく姿を現しているそうです。 ▲司会は南大阪学会の西田正宏さん。

 

■捨てられない紙メディアの誕生
堺と南大阪のバーのガイドブック『シェイクス』を手掛けた樋口さんは、中百舌鳥エリアに地域を絞った飲食店のガイドブック『ナカモズグレイト!』を制作する際に「捨てられない紙メディア」とテーマを定めました。
「いいものを作らないと捨てられる。捨てられたら僕の負けです」
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▲樋口恵介さん。大手とは逆の発想で『ナカモズグレイト!』の制作にあたりました。
携帯しやすいポケットサイズや紙質など印刷物としてのクオリティにこだわり、プロのカメラマンの撮影や文化的なコラムを掲載するなど、ただのカタログではないブランド力のあるメディアを目指したのです。
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▲『ナカモズグレイト!』。vol1は折りたたみ式でした。

 

「お客様が知りたいのはどこでメシを食うかの情報です。飲食店以外を掲載するとタウンガイドになって飲食店の比率は減る。そんなもの誰も読みたくない」
だからガイドするのはあくまで飲食店。クーポン券をつけないのは安売りをしないため。
「うちの店はこんな店だけれど、よかったら来てというスタンス。『ナカモズグレイト!』はクールなメディアなんです」
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▲樋口さんが最初に手掛けたバーのカタログ『シェイクス』。

 

マスターが常連客に良い店を紹介するシーンを想定して、「俺たちの店を俺たちが紹介する」形式にもこだわりました。
「マスター達は飲食のプロ。僕は広告のプロです。『ナカモズグレイト!』を大きくすることが僕の仕事でした」
こうして樋口さんは、彫刻家が岩の塊から理想の姿を掘り出すように、余計なものを排除して『ナカモズグレイト!』のブランド力を高めたのでした。
「『ナカモズグレイト!』に掲載されている店は確かな店だ」
いつしかそんな信頼感を勝ち得ていたのです。
■ガイドブックから町作りへ
『ナカモズグレイト!』は思わぬ副産物ももたらしました。
「マスター会と称した打ち上げに、マスター達が70人も集まったのです。営業時間が重なるため顔は知っていても話をしたことがない人たちが初めてつながったのです」
出会いから『ゆかた祭り』や『カクテル・ゴー・アラウンド』といったイベントが生まれました。
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▲研究報告は府立大学の教室で行われました。

 

新聞にも取り上げられると樋口さんの元に堺市の図書館から、「堺市で刊行されるものは資料として集めたいので『ナカモズグレイト!』を提供して欲しい」と連絡が入りました。
「図書館の方には『これまで狭いエリアに限定したガイドブックは無かった』と言われました」
後日、ネットで調べると『ナカモズグレイト!』は10人もの予約待ち。貸し出され、人気の冊子となっていたのです。
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▲商工会議所とコンビで『メイドインさかいフェア』に出展。

 

「ローカルからグローバルへ、まわりをまきこんでいくことが地域活性化につながっていくのではないでしょうか」
地域で始まった動きは注目され、他の地域からの人を呼び込みます。
「昨年の『メイドインさかいフェア』では『ナカモズグレイト!』vol4を5000部近く配布しました。受け取った人の多くは他の地域の人です」
『ナカモズグレイト!』がブランド化を目指したことによって、中百舌鳥という地域のブランド化にも貢献しています。
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▲樋口さんが所属するコスミタリア・グループでプロデュースした地下足袋「祭神」はニューヨークのデザイナーにも評価されました。ローカルからグローバルへの一例。

 

■紙メディアでコミュニケーションの誕生
後半戦は田中が壇上へ。
まずは「つーる・ど・堺」設立の経緯について解説します。
今から18年前、(株)ホウユウで制作した『与謝野晶子百首かるた』の販売サイトとして、与謝野晶子情報を主に紹介したのが始まり。その後2000年~2010年まで堺の情報を発信していくサイトへと変化し、2011年にリニューアルして再出発します。
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▲『つーる・ど・堺』の田中幸恵が壇上へ。
ホウユウはいち早くデジタル化、ネット化を進めていたのですが、この時期に「紙」への原点回帰が始まります。きっかけとなったのは『Paperフリマ』。紙のフリーマーケットです。
「印刷会社では印刷物を作る時に紙を裁断したあとの余り紙=『端紙』が出ます。業者にお金を払って処分してもらうのですが、この端紙をどうにか生き返らせることは出来ないだろうか? と始めたのが、紙の雑貨作りと、それを格安で販売する『Paperフリマ』なんです」
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▲9月28日に開催されたペーパーフリーマーケット(ホウユウの1階ガレージにて)。

 

最初の『Paperフリマ』は2011年の12月25日に開催。
直に紙を見てもらうユーザーの声を聞くことが出来たのは大きな収穫でした。
「『つーる・ど・堺』の活動を通じて見えてきたのは、堺の地元で活動している人たちがつながっていない事です。気軽に集まる場がありませんでした」
2012年。直接紙雑貨を販売する店舗をつくる計画がたちあがります。縁もあって山之口商店街のコミュニティスペースをプロデュースすることとなり、5月6日に『紙cafe produced by TOUR DE SAKAI』がオープンしたのです。
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▲山之口商店街にオープンした『紙cafe』。コミュニティカフェとして街の人々が集う場を提供しています。
■リアル空間での活動が人をつなぐ
こうした経緯ではじまった『紙cafe』では、紙雑貨の販売・企画と堺の魅力のコラボレーションが進んでいきます。
印刷業界は、実に7割が同業者の中で仕事が回っており、新しい市場の開拓として地域の顧客を掘り起こして行きたいという意向がありました。
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▲堺の魅力をもっと知って欲しいと、堺マップを印刷したランチョンマット。お店に来られたついでに堺の名所をめぐってみては? ▲古墳や灯台、自転車など堺名物をイラストにした堺柄。名刺は市役所の女性職員の方に人気です。

 

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▲一番人気は紙パフェ。器はバカスというサトウキビの絞りかすを使った非木材紙。 ▲府大の前川先生も驚いた『ぱんだこふん』。

 

『紙cafe』ではワークショップや講習会、ライブなど、地元で活動する人たちに多く利用されるようになってきました。
11月に行われた堺商工会議所主催の「メイドインさかいフェア」では、「紙」をテーマに紙の仕事に関わる5社が協力したイベント内イベント、『紙モノ市場』が開催されています。
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▲『紙cafe』でのライブの様子。堺を中心に活躍するギター&打楽器の「water drop travellers」。
デジタルから紙への回帰と地元の魅力の掘り起こし。
「捨てられない印刷物を、私たち印刷業者が作っていかないといけない」
奇しくも樋口さんと田中の着地点は極めて近いものでした。
「堺全域から南大阪を扱っていた『つーる・ど・堺』ですが、ごく狭い範囲での集中的な活動にシフトしてきました。今や活動はもっぱら堺区です」
地域密着でグローカル化へ、紙からの地域貢献が始まっています。
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▲ローカルからグローカルへ。地域から世界へ羽ばたく活動を続けます。

 

南大阪地域学会

大阪府立大学 中百舌鳥キャンパス

上方文化研究センター内「公開講座」係

TEL 072-252-1161 内線4387

email minamiosaka@ao.osakafu-u.ac.jp

樋口恵介
紙cafe

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