| トップページ |
まちあるき No.030

田辺小竹 現代アート茶会レポート

やわらかに綴る、伝統工芸と現代アート


yamaguchi-350.jpg

大坂夏の陣の直後、江戸初期に建てられた山口家住宅。昭和41年に国の重要文化財に指定され、現在もなお、近代初期の町家の風情を楽しむことが出来る貴重な建物として知られています。

今年の秋季堺文化財特別公開に併せ、ここ山口家住宅内にて竹工芸家 田辺小竹さんの個展が催されました。

山口家住宅でこうした展覧会が企画されたのは初めてのこと。この快挙の裏にあるのは竹が持つ独特の柔軟さだ、と田辺さん。
「竹という素材は我々日本人にとってとても身近なもの。歴史ある町家のなかにあってもすんなりと目に入り、違和感が無いところが、個展を実現できた根底にあると思います。」

なるほど、畳の規則正しい藺草(イグサ)の上に、元からそこに鎮座していたかのように佇む作品たち。小竹作品はいつも、まるで亜空間を生み出すかのように美しく捻じ曲がり、混沌としたオーラを放ちます。
竹本来の寛容性、柔軟性がこれほどまでに表現できる場は、そうそうないのではないかと感じました。

「どうぞ、お好きに撮影をなさってください。」
お言葉に甘えて、蔵の中に展示されている作品へと向かいました。

kura-350.jpg

『流星(2009年)』ほれぼれするほど精密な花籠。蔵の質感とのコントラストが美しい。

hisyou-350.jpg

作品『飛翔(2006年)』これは小竹さん自身が編み出した技法で、まるで鳥が羽ばたいているかの様な文様。

田辺家の竹工芸作品の全ては、竹を3ヶ月乾燥させ、作品によっては0.2mmにまで均等に裂き、角をとり、裏を揃え...そうして初めて作品作りへと進みます。すべてにおいて眩暈がするほどの手間隙がかけられているのです。
「これら前工程は、ひとつの作品を作る精神状態になるための必要な作業」と、以前話しておられたのを思い出しました。

mononofu-350.jpg

「この作品『もののふ(2010年)』は、花を生けることで凄さが増すんです」とは小竹さんの奥さま。

次の間に進むと、人が入れそうに大きな作品が姿を現しました。これはこの展覧会のために特別に誂えたもの。

chashitsu-350.jpg

茶釜が中に納まっている...?これでひとつの作品なのかしら。

syochiku-01-350.jpg

「これは茶室です。この中でお茶のお手前を行います。」
「へええ~!」山口家住宅に来られていた観光客の皆さんと、思わず一緒に声が出てしまいます。

「今回は"現代アート茶会"という催しも行います。その茶会で、実際に人が入りお手前をしていただくんです。」
さらに「茶席は、上も下も無い平等な立場になる場。虎斑竹を使い、茶席を聖なる非日常空間とするための結界(空間を区切るもの)を、竹のドームとして表現しました。」とのこと。

では早速、"現代アート茶会"に潜入してみることにしました。

開催された第一回目の茶会では、すでに立ち見の方がいらっしゃるほどの盛況ぶり。(定員は15名でした)
参加された方の中からお一人が選ばれ、実際に作品の中でのお手前が始まります。

otemae-350.jpg

まるで柔らかな布を掛けたような作品の中でお茶を点てる様子がなんとも幻想的。広い窓から差し込む光に照らされ、そこだけが何かに守られているような、まさに聖なる結界を感じました。

お手前の間、流れる静寂...
この創り出される"無"の時間が、侘び寂びの世界なのね...と、ほんの少しだけれど理解できた気がします。
茶室の中で交わされるやりとりの、なんと艶っぽいこと。

minatoyaki-350.jpg

器は堺市中区在住の陶芸作家、中橋一彰さんによる『湊焼』を使用。

中橋さんは湊焼の器を現代に復活させようと尽力されている若い作家さん。たくさん持参された器たちの、大きなコンセプトはやはり"アート"。現代アート茶会の名にふさわしく、ちょっぴりスパイスの効いた作品が中心なのだそう。
「お持ちになって初めてお分かり頂けるような、見た目に反して重いものや軽いもの、ゴツゴツして少し持ちにくいものなどを選びました。飲みにくいものや、意外と飲みやすいものなど、様々です。」

hutari-350.jpg

左:田辺小竹さん 右:中橋一彰さん

飲みにくい作品に当たった方はすみませんと、屈託無く頭を下げる中橋さんは、なんとも爽やか。
小竹さんの絶妙なフォローも加わり、部屋に張り巡らされた緊張の糸が緩み、和やかな空気に包まれます。

natsume-01.jpg

そして今回使用されたお道具のご紹介です。

natsume-02.jpg

小竹さんのご母堂、田辺光子さんの生家も、代々漆工芸品を扱っておられる家柄。
これは田辺家にお嫁入りした際に、お父様が持たせてくれた蒔絵の棗なのだそう。竹の文様が美しい。内側にも竹の意匠が入っています。
茶匙は3代目田辺竹雲斎の作品。
こんな貴重なお道具が拝見出来るなんて、堪らない幸運です。

先にも書いたように、堺市所有の山口家住宅では今回のような個展開催は始めての試み。田辺小竹作品との見事なコラボレーションで成功を収めましたが「現実問題、今後こういった展覧会を開催することは難しいかもしれない」とはお弟子さん。
しかし小竹さんは、「もっとこういった機会を作りたい」と意欲を燃やします。
「竹という素材の助けがあったとはいえ、僕の作品を展示して頂けたことはとても幸運なこと。これからは僕だけでなく、今に生きる芸術作家全体の発表の場として、山口家住宅を開放してもらいたいと思っているんです。」

長い歴史を誇る町家、山口家住宅の、古きよき日本を感じさせる空間で、その持ち味を崩すことなく様々な芸術家が活用してくれるのなら、さらに大きな可能性が生まれてくるのかもしれません。

時間差で参加したあゆみからもこんなメールが。
「茶会の間少し緊張したけれど、お手前を知らなくても参加できるカジュアルな茶会で楽しかった。でも、基本を知っておいた方がもっと楽しめるだろうな...。隣に座っていた若い女性の所作がとても自然で美しかったので、私も一度キチンと習ってみたくなっちゃった!」
ですって。お互い、素敵な時間を過ごせてよかったね。

white-hall-350.jpg

最後に、大型作品『ホワイトホール(2006年)』をご紹介。
「宇宙にはブラックホールという、すべてを吸い込んでしまう巨大な穴があるという説があります。その反対側は、全てを吐き出すホワイトホールへ繋がっているとも。これはリバーシブル作品で、ひっくり返すと『ブラックホール』という作品になるのですが、今回はあえて『ホワイトホール』に。今年は自然という脅威に様々なものが飲み込まれた年。このホワイトホールから、様々なものが生み出される世界になればという願いを込めました。」

伝統工芸も現代アートも、形、素材、色、すべてに深い意味が込められていて、作者の哲学を感じます。
日本文化に対する深い知識を基に、風情、佇まい、そして侘び寂びをアートとして表現し続ける小竹さんの作品は、ともすると伝統とアートを相反するもののように思いがちな我々の意識を、やわらかく綴る優しい糸のよう。

伝統工芸作家として、アート作家として、そして二児の父として。進化し続ける田辺小竹さんに、目が釘付けです。


田辺小竹さんは第4回与謝野晶子生誕芸術祭にあわせて、12月2日(金)~14日(水)、片桐功敦さんとの二人展を開催されます。国際的に活躍する若き芸術家たちの展覧会、ぜひ足を運んでみてください。(お問い合わせ:ギャラリーいろはに

中橋一彰さん
は陶芸教室も開かれています。ご興味のある方はぜひ。 M.O.Cスタジオ 陶芸教室

山口家住宅
堺市堺区錦之町東1丁-2-31
TEL:072-224-1155
【堺市立町家歴史館 山口家住宅・清学院共通入館券】
山口家住宅・清学院両館に入館できるお得な共通入館券250円をご利用ください。

営業時間:10:00~16:00(入館は15:45まで)
入場料:200円(20人以上の団体は160円、中学生以下・65歳以上の方・障害のある方は無料)
定休日:火曜日
アクセス:阪堺線「綾ノ町駅」下車
駐車場:なし
その他:駐車場がありませんので公共交通機関をご利用ください 。

あゆみの清学院リニューアル初日見学レポートこちら

検索

2017年10月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

お気に入りに追加

| トップページ |