| トップページ |
雑記帖 No.227

SKP50第三弾"怪の会"(2)

魂の宿る舞台

表紙

紋付き袴姿の泉祐介さんの口上が終わると、五色の幕が開き、役者が姿を現しました。橋掛かりを渡り、能舞台の上へ。
盛り沢山のプログラムの最後を飾る狂言『梟』の始まりです。

後篇も前篇に引き続き、堺能楽会館開館50周年記念プロジェクトSKP50第3弾「怪の会」の観覧レポートをお届けします。


■狂言「梟」

登場
▲安東睦郎さんの「兄」が、安東元さんの「山伏」を連れてくる。


「梟(ふくろう)」の登場人物は、「兄」「妹」と「山伏」の3人。
最初に登場したのは、狂言師安東睦郎さんの演じる「兄」です。この「兄」の「妹」の様子がおかしくなり、困り果てていました。そこで安東元さん演じる「山伏」に相談します。山伏が、服部花奈さん演じる「妹」に祈祷をすると、どうやら何か動物が憑りついている様子です......。

祈祷
▲山伏は動物が憑りついたらしき「妹」(服部花奈)に祈祷を試みるが......。


朗読と薩摩琵琶に講談で、夏の1日に日本の恐怖を味わってきた「怪の会」ですが、最後の『梟』は怪異を扱っているものの、そこはやはり狂言。喜劇として観客を笑わせます。

祈祷の力をもった山伏は、現代でいえば医師の役割をもっており、当時の権威でした。権威のある山伏が力を尽くしても、妹に憑りついた動物をどうしても退治できない。山伏が動物なんかに敵わずに右往左往する様は、権威がコケにされている様子で、狂言の生まれた室町時代の民衆は胸がすく思いで喝采を送ったのでしょう。

てんやわんや
▲祈祷はうまくいかず、てんやわんやの大騒ぎに。


結局、山伏はいいところなしで退場。橋掛かりを渡って舞台から去る後ろ姿に、現代の観客も拍手を送ります。

これで「怪の会」のすべての演目が終わりました。お客様の入りも良く、反応も上々でした。演者の皆さんの手ごたえはいかに?


■演者インタビュー

SKP50の取材では、毎回演者さんにコメントを戴いています。特に初登場の方には、開館50周年記念のプロジェクトということもあり、堺能楽堂の舞台としての印象もお聞きしています。


●俳優 泉祐介さん

泉祐介さん
▲俳優の泉祐介さん。


放映新社種族の俳優・泉祐介さんの芸歴は長く、そのスタートは昭和の大スターエノケンこと榎本健一が活躍した軽演劇時代にまでさかのぼるそうです。

泉「私も色んな舞台に立ちましたが、東京の武道会館とかキャバレーとかも。でも、能楽堂の舞台に立つのははじめてです。これからも無いでしょうし、私にとってもええ経験をさせてもらいました」
――舞台に立ってみての感想はいかがですか?
泉「そうですね寸法的にも、今はこれくらい小劇場も多いのですけれど、キャパ的にもやりやすいのは非常にやりやすかったですね。お客さんも近いですしね。劇場の持っている雰囲気というのも良くて、そういうのも大事ですね」

泉祐介2
▲演目と演目の間に登場し、舞台の空気を入れ替える。


――今回は、演目の合間合間で口上を言うのは大変だったのではないですか?
泉「いえいえ、好き放題言っているだけでしたよ(笑)」


●服部花奈さん

服部1
▲妹を演じた服部花奈さん。「ほっほー」のセリフは子どもがマネしそう。室町時代のギャグですね。クセになります。


大ベテランの泉さんと対照的なのが、2016年から狂言の勉強をはじめたという服部さん。今回の狂言『梟』が初舞台だったそうです。

――どういう経緯で、狂言を学ばれたのですか?
服部「私は英語通訳案内士が本職なのですが、安東さんと出会って、海外の方などに狂言や伝統芸能を英語で発信していくというプロジェクトを立ち上げた時に、人に紹介するならまず私がしなきゃいけないと思って狂言を習い始めたのです」
――実際に自分でやるのはすごいですね。今回は初舞台でしたが、感想はいかがですか?
服部「もともとSKP50にはかかわっていて3月の狂言では後見(演者の助けをする人)をしていた、5月は音響をしていました。演者として出たのは今回がはじめて、なぜ私はここに?? という気分でした。でも、演者の1人として、大切にしているSKP50に出られたことは嬉しかったです。私のセリフは『ほっほー』しかなかったけれど緊張はしながらも、精一杯やろうと思い、120%でやりました」

服部2
▲本業は英語の通訳士です。


英語で伝統芸能を発信するという服部さんのお仕事は、伝統芸能の未来にとって今後ますます大切になってくるはずです。舞台の内外での活躍に期待します。


●講談師 旭堂南青さん

南青1
▲講談師旭堂南青さんが演じたのは「怨みの片袖」。


2018年の11月には南青改め南龍の襲名が控えている旭堂南青さん。お客様を巻き込んだ緩急自在の語り芸を楽しませてもらいました。

――今回の舞台はいかがでしたか?
南青「いや、よかったですよ。携帯さえ鳴らなければ......(笑)」
――あれはどうするのかと思いましたよ(笑)スルーするのかと。
南青「みんな幸せになって欲しかったからいじりましたよ。スルーは絶対しない。これは天が与えたもうた笑いに変える千載一遇のチャンス! 怪談やけど笑いに変えてやりましたよ!(笑)」
――最初に『怪談は苦手だ』とおっしゃっていましたが、にもかかわらず怪談というテーマで引き受けるのに抵抗はなかったのですか?
南青「いや、それは(講談の)ネタとしては(怪談は)あるので、やる分には問題はないんです。今日もお子さんが何人かいらっしゃいましたけれど、因果応報で、悪い事をしたら必ず悪い事が自分の身に降りかかってきますよ、という教えのためにさしていただいているんです。ただ、僕は怪談をする時は、必ず前は笑かすようにしているんですよ」
――あえてなんですね。
南青「笑かして笑かして、すっとその世界に入っていただけるように。そして終わった後、あらかじめ『静まり返るんで』って言っていたのが、ほら言った通りになったでしょうって笑ってもらう。陰々滅々で終わらせないというのが僕の信念です。やる以上は楽しんでいただきたいので、『静まり返るのが嫌なんです』っていうのもネタなんですよ。ただ携帯電話だけは予想外でした。でもそのハプニングも巻き込んでね」


南青2
▲能楽師・狂言師の魂が宿る舞台は、ちゃんとした声を出すといい効果を、気の抜けた声を出すと声が通らない。


――さすがですね。では、50周年を迎えた能楽堂の印象はいかがでしたか?
南青「やはり狂言師や能楽師の魂がこもっている所なので、こっちがしっかりしたことをすればしっかりこたえてくれる会館というか小屋なので、魂宿っているんじゃないか、50年ですし、能舞台ですから、声がちゃんと自分に返ってくる。場面のひとつひとつ、ちゃんとした声を出したら返ってくる。だせへんかったらばらばらになってしまうということを感じましたね。だから気を引き締めてさしていただきました」
――なるほど、F1マシンなんかでいうピーキーな調整がされた舞台という感じだったのですね。やりごたえはありましたか?
南青「やりごたえがありました。ネタの途中で気が抜ける時がどうしてもあるんですけれど、人間ですから。そういう時はあんまり反応が良くないですね。いつも言えているセリフが言えないとか。気を緩めたら、いい結果が生まれなくて、気を張ってしっかりやろうという気持ちがあったらしっかり応えてくれる舞台でしたね」


●鶴田流薩摩琵琶 瀬戸一平さん

瀬戸1
▲鶴田流薩摩琵琶の瀬戸一平さんが演じたのは平家物語から「壇の浦」。堺能楽堂は、お客が入っている方が音が通る不思議な舞台。


瀬戸さんは、薩摩琵琶のキャリアは8年になるそうですが、音楽以外でも意外な経歴の持ち主です。

瀬戸「僕は10年前から奈良でゲストハウスをやっています。それまでずっとバンドでドラムをやっていたのですが、ゲストハウスをはじめるとなかなかできない。ゲストハウスで何かをしたいなと思っていました。そして奈良といえば正倉院の琵琶(笑)。薩摩琵琶を人から紹介されて始めたのですが、歴史が好き、音楽が好き、そしてマニアックという僕の三大好奇心を満たしてくれるのが琵琶だったのです。やってみてこんなにはまるとは思いませんでしたね」
――瀬戸さんにとって琵琶の魅力とはどのようなものですか?
瀬戸「琵琶の音の魅力というと、独特なさわりのついている音ですね。びーんびーんという。普通はそういう音にならないんですが、わざとそうしている音です。ひずんだ音だけれども、哀愁があるという音はすごいんじゃないですかね。人にダイレクトに入ってくるというか、地の部分に入ってくる、自然に分からないうちに入ってくる。防御しようがない音だと思います。それが日本の音なんでしょうね」
――今回の「壇の浦」は瀬戸さんがえらばれた演目なのですか?
瀬戸「もろ怪談というのが僕が持っている中ではないというのもあるのですが、琵琶法師耳なし芳一が一番得意としたのが、平家物語の『壇の浦』と書かれているのです。また鶴田流の代表的な曲なので、琵琶を知らない皆さんに一番わかってもらいやすい曲かと思って選びました」


瀬戸2
▲琵琶はバンドでドラムをしていた瀬戸さんの新しい相棒。


――堺能楽堂の舞台の印象はどうでしょうか?
瀬戸「今回リハーサルもやったのですが、誰もいない中より、お客様が入った時の方がすっきりするのに驚きました。お客様が入って音が吸収されるという感じが一切ないんです。どこの会場でもお客様が入ると音が吸収されるものなのです。しかし堺能楽堂は逆にお客様がいない時はだとわーんっていう感じだったんですが、お客様が入ると音がスコーンといく」

この話には、横にいらっしゃった泉さんも首肯されます。
泉「あれは不思議やったね」
瀬戸「ええ、お客様が入った方が音がまとまりますね」
泉「お客様が入ったことを想定しているんやろうね」
瀬戸「能舞台が全部そうなのか、他でしたことがないので分からないのですが、少なくとも堺能楽堂はそんな特徴がありましたね」


●「本読みの時間」 竹房敦司さん

竹房1
▲「本読みの時間」の竹房敦司さん。


朗読の語りで恐怖を表現してくれた竹房さん、今回は2演目に登場しました。「怪談」ということで特に気を付けたことなどはあったのでしょうか?

竹房「25分1人だったので、あまりゆっくり間を取りすぎると退屈すると思ったので、テンポはつけたつもりです。あとは怪談、怖い話なので、お客様をびっくりさせられるのかということころで、声の強弱に重点を置いたつもりですね。『お前が来ぬならこっちからいくぞ』、で『ひー』と思って思えればと思いましたけれど(笑)」
――とてもディテールの印象的なお話で、やはり語りの上手い方がやってくれるからこそ面白いお話だとも感じました。
「キーになるところが印象に残るか残らないか、我々が考えなければならないところですね。朗読は結構目を閉じて聞いていらっしゃる方もいて、舞台から見ていても目をつぶって一所懸命きいてはるのはわかるのですが、いやいや目をつぶってたら(大きな)声を出した時に怖いで(笑)」

竹房2
▲終演後ロビーでファンと談笑。


――(笑)なるほど。ところで竹房さんは怪談と笑わす話だとどちらが好きとかあるのですか?
竹房「どうやろう? どっちもあるから成立するというのがあるので、僕の中ではどっちがというのはありません。ただ怪談の方がやりやすいのはやりやすいです。笑いを取る方がやっぱり難しいですね。笑いを自然にとることの方が難しくて、特に朗読で笑いを取るのは難しい。怖い話の方が朗読ではみんなそれなりにイメージしてくれる。もともと朗読というのはイメージなので。そういう意味では怖い話の方がやりやすいかな。どちらが好きというのはないですけれど、怪談の方が入りやすいですよね。みんな怖い話と思って聞くので」
――そうですね。丁度お化け屋敷に入るみたいで面白かったですね(笑)


●「本読みの時間」甲斐祐子さん

甲斐1
▲「本読みの時間」の甲斐祐子さん。


毎回衣装チェンジでも楽しませてくれる甲斐さんですが、今回は黒一色から涼しげで鮮やかな和装のコントラストが見事でした。そして多彩なのは衣装だけではありませんでした。

――今回は「本読みの時間」さんが大活躍の回でしたね。演者さんとして、そしてプロデュース面でも。
甲斐「泉さんに口上いいをしてもらうというのは私の発案ですね。全体(の演出)としては、江戸時代にはお金持ちとかが自分のお家に役者を呼んで、ご飯を食べながら百物語のちいちゃい版したことや、見世物小屋とかを参考にしました。そういう風に、怪談を囲むような人がいたり、狂言師がいたり、講談があって、薩摩琵琶があってと、見世物小屋のような形でやったら面白いと思ったんです。見世物小屋だから、私がいつもみたいに現代語でしゃべるよりは、もっと時代がかった喋り方をする人が口上いいに入ったら面白いんじゃないかなと思ったのです。最初は」
――それが泉さんだったんですね。
甲斐「でも、ご相談をしている時に、泉さんも司会の経験が多いとおっしゃっていたので、だったら、変に演出をいれるよりも、泉さんにお任せした方がいいかなとなったのです。一個一個の演目は怪談や怨念っぽいものがこもっている話なので、空気を換えてもらうのがいいかと思ったのです」

甲斐2
▲甲斐さんの発案だった泉さんの口上いいは、絶妙の演出でした。


――確かに毎回毎回泉さんが出てきたら空気が代わるというのがありましたね。さて、今回ご「本読みの時間」の朗読は宮部みゆきさんの本でしたね。このチョイスの理由は?
甲斐「うちはどうしても現代小説の書き手さんのものを主に使うので、宮部さんの時代ものはすごくいいなと思いました。宮部さんの時代物は、人情話が多いので、どこかにちょっとだけ怖いだけじゃないところがあるのが好きなんです。今回はあの二つのお話は、百物語まではいかないのですれけれど、江戸時代にお金持ちの家に集まって怪談をするというお話の中から選んだんです。まさに今回作っている舞台建てと同じような様子だったんです」
――なるほど、時代物でありながら、それだけじゃない所もSKP50らしくて良かったですね。


●大和座狂言事務所 安東元さん

安東1
▲大和座狂言事務所の狂言師安東元さん。SKP50のプロデュースを館主の大澤徳平さんに一任される。


今回はSKP50で最大の危機だったかもしれません。本来の開催日7月7日は、西日本を中心に大災害となった集中豪雨があり、公演延期となりました。それを乗り越えての、振替公演ですが、結果は大成功でした。プロデューサーでもある安東元さんとしても、胸をなでおろしたのではないでしょうか。

安東「内容が素晴らしいので、再演は決めていました。スケジュールを調整して決まったこの8月14日が、お盆に仏滅だったのですが(笑) 振替公演で、また平日にも関わらずこんなにも沢山のお客様に来ていただけました」
――内容も充実していました。
安東「やってる本人がびっくりするほど盛り沢山でしたね。毎回毎回変えて違うもので続けていかないといけない」
――では、次回は何をされるのでしょうか?
安東「9月は能舞台を使った催しですし、神様をフィーチャーすることにしています。神様に対して持っているリスペクトをテーマに、バリ舞踊なども登場して『祝ノ会』をやります」
――また、ワンアンドオンリーの会になりそうですね。

安東2
▲SKP50では、終演後に堺能楽堂の能舞台体験も。

公演延期というトラブルがありながらも、むしろ客足は上々だったSKP50。毎回新しいファンを獲得しているようです。野心的な挑戦は、これからも続きます。



堺能楽会館
住所 大阪府堺市堺区大浜北町3-4-7-100
最寄り駅 南海本線:堺駅
電話 0722-35-0305

大和座狂言事務所
住所 吹田市千里山東2丁目3-3
Tel:06-6384-5016,Fax:06-6384-0870,090-3990-1122(事務局)



20181103_kusabira01.jpg

20181103_kusabira02.jpg


検索

2018年10月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

お気に入りに追加

堺「意外史」探訪
| トップページ |