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雑記帖 No.222

陶の里の息吹(1)

国有形登録文化財兒山家住宅のピアノコンサート

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堺市中区の陶器川の川沿いの広い敷地に大きな古民家が建っています。これまで何度か紹介してきた国登録有形文化財兒山家住宅です。
2018年6月9日、この兒山家住宅でピアノコンサートが開かれるということでご招待いただき、久しぶりに足を運ぶことにしました。
文化財といっても、この兒山家は真空パックにして保存されているだけのような存在ではありません。ちょっと他にない"生きた"文化財なのです。これまでの兒山家住宅の活動を振り返えりつつ、兒山家住宅の最新情報をお届けします。


■陶器川が作った田園を行く
中区、ただひとつの鉄道の駅である深井駅。
深井駅から出ている路線バスは、道のくねる住宅地を抜けて、いつしか田畑の目立つ風景になしました。最寄りのバス停で降りると、すっかり田園の風情です。
水を張った田んぼの脇の道を歩くと、少し小高くなったところにある神社に突き当たります。これは陶器の神様を祀っていることで有名な陶荒田神社です。神社の脇をすり抜けるようにして進むと、道は下り坂になっており陶器川に突き当たります。

このあたりは陶器山の北の丘陵地帯のすそ野に広がる田園地帯。そのただなかを、泉北丘陵に端を発した陶器川は、東から西へと貫き、石津川に合流しています。
住宅地だらけの堺市にあって、この地域は珍しく田園風景が残っていますが、丘陵を削って河岸段丘の風景を作り出したものこそ、この陶器川です。

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▲陶器川が創り出した河岸段丘の風景。


陶器川に架かる橋の前に、道案内のボランティアの方が立っていました。懐かしい顔です。以前の取材でお世話になった河上さんです。挨拶をして、案内通りに道を曲がると、丁度陶器川が大地を削って流れ、一つ目の段丘に巨木に囲まれた大きなお屋敷が建っているのが良く見えます。さらに道を挟んで傾斜がありもう一段段丘があります。

この緑の島のようなお屋敷が兒山家住宅です。
右手に漆喰の塗り壁、左手に二段目の段丘の傾斜を見ながら道を行くと、ようやく兒山家の門にたどり着きました。


■陶の里に400年
兒山家は、400年前の慶長年間に栃木県からこの地に移り住んだ小山(おやま)氏の末裔で、当時陶器藩の藩主「小出氏」に似通った名を慮って小山から兒山と改名し大庄屋を努めていました。後に登録文化財となる兒山家住宅は本家が代官となった折、大庄屋の仕事を行うことになった分家が建てた建物です。

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▲兒山家住宅(右)と、二段目の段丘(左)。


門をくぐると、こちらも久しぶりに遭った兒山家の兒山万珠代さんと、妹の松尾亨子さんに挨拶をしました。
地域に残る有形の文化遺産として、先祖から受け継いできた兒山家の保存にずっと取り組んでこられたお2人です。

堺の地域歴史研究家の中井正弘さんの提言を受けて、兒山家の納屋や蔵を改装して、陶器地区に伝わる農具などを収めた博物館「ナヤ・ミュージアム」を開館し、田園風景を守るために、実際になにわの伝統野菜を栽培する「楽畑」の活動を始めたりしました。
歴史ある兒山家は維持するだけでも大変で、台風被害を受けた屋根を直し、屋根を圧迫する楠の巨木を伐採せずに残すためにも剪定を行ったりと休む暇もありません。業者に頼んで終わりとはせずに、漆喰壁の修復技術や剪定技術習得のためのワークショップをするなどして、守ってきたのでした。

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▲兒山家を守ってきた1人・松尾亨子さん。


そうやって大切に守り抜いてきた兒山家住宅で、今日はこれまでとちょっと違う特別なイベントだそうですが、それはどう違うのでしょうか。
「これまでも共催で狂言やコンサートを行ってきましたが、今日ははじめてナヤ・ミュージアムが主催とし開くイベントなのです」
その記念すべきイベントの出演を引き受けてもらったのは、兒山家と縁がある作曲家の松尾泰伸さんです。

大切なイベントの会場である土間をあがった座敷には、大勢の聴衆が詰めかけていました。この聴衆を前に、まずは妹の亨子さんがご挨拶。
「以前から松尾さんには協力いただいていたこともあって、節目のイベントの時に松尾さんにピアノを弾いていただこうと思っていたのが、今回叶うことになりました。松尾さんには、『陶の里ピアノコンサート』という素敵な名前も考えていただきました」
陶の里とは、古代に須恵器作りが行われていた陶器地区の歴史を踏まえた名前ですね。さて、松尾泰伸さんとはどんな音楽家なのでしょうか。


■自然の息吹の中のコンサート
松尾泰伸さんは、作曲家でありピアノ・シンセサイザーアーティスト。一言でヒーリングピアニストとされている時もあります。
作曲家として、数多くの作品を世に送り出してこられましたが、その中でも一番知られている仕事といえば、東日本大震災の鎮魂歌として作られた「天と地のレクイエム」の作曲でしょう。この作品は、フィギュアスケーターの羽生結弦選手のエキジビジョンプログラム楽曲に選ばれ、一躍脚光を浴びたのでした。
「今日は撮影も自由にしてください」
と、亨子さんの言葉。

兒山家の建具もすっかり葭戸(よしど)になって、あけ放たれた縁側から風が通り、木立ちのざわめきも聞こえてきます。壁の柱時計も鐘を鳴らして時を告げます。早く演奏を始めなさいと、兒山家がせかしているかのようでした。

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▲兒山家とピアノに曲を捧げる松尾泰伸さん。

葭戸を開けて松尾さんが現れました。そのままピアノに向かいます。
最初の一曲、ピアノの調べの美しい曲を聴衆は耳を澄ませて聞いていました。松尾さんは、弾き終わってから、この選曲の意味を解説します。
「1曲目は『Delight』という、私の曲の中ではおめでたい曲で、3年前に捨てられる運命だった、ピアノにおめでとうという意味で、この曲を贈りました」

兒山家にあったこのピアノも朽ちかけていて、どうにかならないかと松尾さんが相談を受けたときには、ほとんど鍵盤も融けかけたようになっていたのだそうです。捨てられる運命だったピアノが、どうにか見事に修復され、このコンサートはそのお披露目でもあるのです。
「もうひとつは、ナヤ・ミュージアムさんがはじめての主催のコンサートということで、『Delight』を弾かせていただきました。まことにありがとうございました」
と、まずはお礼を述べる松尾さん。

こうしてはじまったコンサート。後篇では、コンサートの様子と、これから兒山家がどのような道を歩もうとしているのかを、レポートします。


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花と景観の中、登録文化財兒山家一般公開......兒山家一般公開
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兒山家住宅
堺市中区陶器北1404
web:http://blog.zaq.ne.jp/nayamuseum/(ナヤミュージアム)

















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