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雑記帖 No.189

美味しくベトナムを知るセミナー「ベトナムの舞台芸術」(1)

ベトナムコーヒー篇

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堺とベトナムの縁は、少なくとも中世に遡ります。
今、多くの市民が暮らす堺区の旧市街区の地下には、中世の堺のまちの遺跡が埋もれています。この発掘調査は40年以上続いているのですが、ベトナム産の焼き物が発掘されることが良くあります。お皿や器だけでなく、壺や瓶のようなものも出てくるとか。これらは16世紀のものだそうです。もっとも壺そのものを輸入したのではなく、砂糖などを詰めて運搬に使ったもののようですが。
現在でも、ベトナムの総領事館が堺区にあり、多くのベトナム人が在住するなど、その縁は薄くありません。

そんな縁もあり、堺市博物館では第20回無形文化遺産理解セミナーとして「ベトナムの舞台芸術 フエ宮廷雅楽とカーチューを中心に」が開催されました。無形文化遺産については、以前アジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)の取材でお伝えしました。今回は、その無形文化遺産の価値を知ることが出来るセミナーなのですが、ただのセミナーではありません。なんとも美味しいお楽しみがある二段構えのセミナーなのです。

まずは、第一部である「ベトナムコーヒーの淹れ方の実演」の様子からお届けします。


■コーヒー生産量世界第二位のコーヒー大国


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▲ロブスタ種のコーヒー豆とベトナム式のコーヒーフィルター、その背後にはコンデンスミルクというベトナムコーヒーセット。


第一部の先生は、15年間ホーチミン市で暮らした経験もある「ベトナム料理研究所」主宰のトミザワユキ先生です。
13時開始のセミナーの前に準備中のトミザワ先生の手元には、ベトナムコーヒーのコーヒー豆がありました。そのパッケージには「ロブスタ種」と書かれています。コーヒーファンの方なら、今もてはやされているコーヒー豆が「アラビカ種」であることをよくご存じだと思います。
「日本で一般的なアラビカ種に対して、ロブスタ種は安い品種だとされています。でも、インスタントコーヒーなどに使われていることが多くて、パッケージの裏を見るとベトナム産になっていたりして、皆さん知らないうちにベトナムのコーヒーを飲んでいるかもしれませんよ。ネスカフェ(ネスレ)のベトナムコーヒーのCMを見たことがありませんか? 実はベトナムはコーヒー豆の生産量は世界第二位なのですよ」
トミザワさんに教わるまで、ベトナムがコーヒー大国であることを知りませんでした。ロブスタ種は安いこともあって、インスタントコーヒーの需要拡大とともに、ベトナムの生産量も拡大してきたのでしょう。もちろん、ベトナムの気候や土壌がコーヒー豆の栽培に向いていたということもあります。
では、ベトナムにおけるコーヒー栽培の歴史はいつ頃から始まるのでしょうか?
「フランスの植民地時代からですね。プランテーションとしてコーヒーの栽培がはじまりました」
フランスの統治が始まったのは1887年です。それまでベトナムは中国の清朝の強い影響下で阮朝が支配していました。フランスは清朝に戦争を仕掛けて勝利し、ベトナムを保護国化したのです。ベトナムはカンボジアと共に、フランス領インドシナに組み込まれ、その統治下で阮朝は1945年まで命脈を保ちました。
ベトナムコーヒーはそんな中で栽培され、それだけでなく独特のコーヒー文化を育てていったようです。

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▲ベトナムはコーヒー輸出量世界二位のコーヒー大国。


「コーヒー豆を食べてみます?」
とトミザワさんに勧められるままに、ロブスタ種のコーヒー豆を一粒いただきました。カリカリっとしていて香ばしく、意外と苦くありません。ベトナム人は、おやつ替わりにでもコーヒー豆を直接食べたりするのでしょうか?
「そんなことはないのですけれど、深煎りしているから食べることも出来るのです。本当なら挽いた粉からコーヒーを淹れてお出しするのですけれど、今日は沢山の方をお待たせするわけにはいかないので、作り置きしてあるのを温めてお出しします。飲みますか?」
コーヒー豆よりも、そちらの方がありがたい。もちろんいただきます。

トミザワさんが、コーヒーを注ぐ前に紙コップの中に入れているものが気になりました。なんとコンデンスミルクではないですか。どうしてコンデンスミルクなのでしょう。
「ベトナムは南国なのでものが腐りやすいのです。それに流通も良くなかった。牛乳をそのまま流通させると腐ってしまうので、砂糖を入れてコンデンスミルクにしたのです。牛乳もあるのですが、日本ではあまりない長期保存できるロングライフミルクですね。ホテルのカフェだと、コンデンスミルクか牛乳か選ぶことが出来ますけれど、普通はコンデンスミルクが使われます」
コンデンスミルク入りのコーヒーは初体験です。
ロブスタ種はアラビカ種に比べると風味で劣るとされるようですが、コーヒー豆を齧ったワイルドな味わいに、甘いコンデンスミルクを足して、濃くて甘い飲料にするのはあっているようにも思います。

そうこうしているうちに、時計の針は13時を指して、セミナーのお客様たちが入場してこられました。


■淹れ方の実演と喫茶文化

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▲ベトナムコーヒーを味わおうと参加者が列をなしました。


開場からしばらく待ちくたびれていたのでしょう。13時になるのと同時にお客様たちは列をなしました。今回のセミナーは人気で100名の定員に達してしまっているとか。この人数にトミザワさんも大忙しです。
お客様はベトナムコーヒーだけでなく、ベトナムの焼き菓子も一ついただけます。この焼き菓子は、「バナナとフランスパン、ココナッツミルク、それに色々」の焼き菓子だとか。
ほんのりとしたバナナ味に、ねっとりとした食感があり、焼いた焦げ味で不思議なコクがありました。この焼き菓子をコンデンスミルク入りの甘いベトナムコーヒーを飲んだ口で味わうと、甘さ控えめに感じるのかもしれません。

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▲ベトナムの焼き菓子。長く中国の影響下にあり、フランスの植民地でもあったため、料理には両文化の影響も。


一通りコーヒーとお菓子が行き渡り、一息ついたところでトミザワさんによる淹れ方講座がはじまりました。
トミザワさんが用意したのは、ベトナムコーヒーのための金属製フィルターです。最近は日本の影響でドリップ式やサイフォン式も導入されたり、あるいはもっと簡単な布で濾すやり方もあるそうですが、この金属製フィルターが一般的だそうです。
「このフィルターをお土産でもらって使い方が分からず困ったという方もいらっしゃいます」
フィルターは4つのパーツに分かれていて、コンデンスミルクを入れたカップの上にフィルターをセットして挽いたコーヒーをいれて中蓋をして粉を抑えます。
「そのままお湯をいれてしまうとすぐに下に落ちてしまって味が出ないので、最初に少しお湯をいれて粉を蒸らして、しばらく待って粉を膨らませます」
「どれぐらい待てばいいのですか?」とお客様。
「30秒ぐらいでしょうか。ちょっとおしゃべりしている間に30秒たちますよ」
しばらくおいてから、今度は残ったお湯を注ぎます。フィルターには細かな穴が開いているのですが、粉が膨らんだお陰でコーヒーが出てきません。
「全然出てこない時もあるのですが、それは表面張力のせいなので、スプーンを使って触ってあげると出てきますよ」
あとはコーヒーが落ち切るまで待てばいいのですが、時間はしばらくかかるようです。お客様からは「朝の忙しい時間には難しいなぁ」との声も。確かに出勤などで慌ただしい人だと要領よくする必要がありそうですね。


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▲金属フィルターを直接コップの上に載せ、ゆっくりとコーヒーが落ち切るのを待つ。


今回はわかりやすいようにガラス製のコップを使用していますが、ガラスのコップではなくてコーヒーカップの場合もあります。また業務用に一度に何杯も作れる大きなフィルターもあるそうです。
「ベトナムの喫茶店では、このフィルターをセットしたままテーブルに持ってくることが多いのです。コーヒーが出来上がるまでおしゃべりを楽しんだりします。エスプレッソのように濃いので、そんなに沢山の量は飲まないです」

時間を気にせずにおしゃべりを楽しむのがベトナム式の特徴なのでしょうか。
「日本だと屋台に対して警察は厳しいですよね。ベトナムでも見つかると辞めさせられたりもするのですが、道路に椅子だけだしてお店をしているのは多いのです。これだと自転車に乗るぐらいの荷物でお店をすることが出来るでしょう。もちろんちゃんとしたカフェもありますけれど」
路上のコーヒーは都市部でも一杯50円程度で飲めるそうです。街中では、カップルや家族や友達と、一杯のコーヒーをのんびりと楽しみながら過ごしている姿が良く見られます。偶然隣り合った知らない人同士でもちょっとしたことがきっかけで話が弾むこともあるとか。

コーヒー豆の産地であることや、淹れ方が独特であることもありますが、時間も場所も人間関係もゆったりとしている喫茶文化も含めてベトナムコーヒーと言えるようにも思えます。何かとあわただしい日本社会に生きる私たちですが、ベトナムコーヒーをいただくときは、せめて時間を忘れてのんびりと楽しみたいものですね。


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▲トミザワ先生によるレクチャー。お土産でフィルターをもらっても使い方がわからなかったという方もいれば、どこで手に入りますか、という質問も。アジア食品を扱っているお店、またはネットでも簡単に手に入るそうです。


では、次は第二部に移りましょう。舌でベトナムを楽しんだ後は、目や耳や脳でベトナムを楽しみます。講演「ベトナムの舞台芸術 -フエ宮廷雅楽とカーチューを中心に」でベトナムの芸術と歴史を学ぶことになります。

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