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雑記帖 No.171

堺能楽会館50周年~現代狂言と巡る旅~(1)

「堺が立ち上がらないと、大阪が笑いものになる」

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堺旧港を臨む大浜公園のほど近くにある堺能楽会館は、全国的にも珍しい個人所有の能楽堂です。2019年2月に記念の50周年を迎えるにあたって、2018年3月から2か月おきに特別な公演を行うことが決まりました。さらに、堺能楽会館のためにクラウドファンディングも企画されているとか。
これらを計画しているのは、つーる・ど・堺でも何度か登場していただいた大和座狂言事務所の狂言師・安東元さんです。50周年を目指す一連の動きについて、安東さんにお話をお聞きすることにしました。


■堺能楽堂に海外富裕層を招く

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▲堺能楽会館で「萩大名」を演じる安東元さん。

堺能楽会館は、江戸から明治・大正・昭和にかけて酒造業で財を成した大澤家が、50年前にビルと一緒に能楽堂を中庭に建てたものです。最近耐用年数の基準が70年に引き上げられたこともあり、建て替えまであと20年は使われ続けることになりました。
「しかし、今のままでは20年も設備がもたないのですよ」
と、安東さんはいいます。
「音響設備、排水設備、電気設備、全部が古い。この前も公演の日の朝に突然電気がつかなくなって、慌てて電気屋さんを呼んでなんとかしてもらいました。日本舞踊の公演の時には、どうしてもスピーカーから音が出なくて、急きょ(無線でつなげる)ブルートゥースのスピーカーを持ってきたりしました。能狂言をするだけでしたら、舞台があれば何もいらないのですけれど、それ以外の色んな事もしていこうと思ったら、まず音響設備がなくてはいけません。堺能楽堂はせっかくいいものを持っているのに、活かしきれないのです」
今後堺能楽堂を活かすためには音響設備をはじめ様々な設備を整える必要があり、その費用を集めるためにクラウドファンディングが検討されているのです。

音響や電気系統以外にも、ぜひともリニューアルしなければならない設備があります。それが排水設備、ようするにトイレです。50年前の建てられた堺能楽会館のトイレは古くて未だに和式トイレです。
「堺市はこれから百舌鳥古市古墳群がユネスコ世界遺産に登録される可能性があり、海外からのお客様が増えるでしょうが、そんな時に和式トイレでは欧米の人たちは敬遠します。今、海外の富裕層と呼ばれる人たちはなかなか日本には来ません。それは日本のホテルの問題です。七つ星ホテルはなく五つ星ホテルも少なくホテルの格式が低い。富裕層はビジネスホテルには泊まりません。その点、堺能楽会館はすぐ近くにホテル・アゴーラリージェンシー堺があるのがいいですね」
ホテル・アゴーラリージェンシー堺は、アメリカのフォーブス・トラベルガイド2017で、大阪では3軒しかない掲載店の1つに選ばれ、星獲得にこそいたりませんでしたが「お勧め」の評価を得ました。
「ホテル・アゴーラリージェンシー堺から堺能楽会館までは、正装してぱっとこれる距離ですから、ディナー前にとか、ディナーの後に堺能楽会館に来て公演を楽しんでもらうことも可能です。海外からのお客様が増えている今、これだけ条件が整った堺が立ち上がらないと、大阪全体が笑いものになりますよ」
ただ設備が古くなったから改修するというだけではなく、安東さんが考えているのは堺市や大阪府の観光の目玉として、堺能楽会館を位置付けるという壮大な計画でした。

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▲中央はホテル・アゴーラリージェンシー堺。画面右の30年間塩漬けだった空き地には、2020年の夏ごろにホテル・アゴーラリージェンシー堺アネックスを中心としたアーバンリゾートタウンがオープンする予定。


これは図らずも大阪府内で相対的に堺能楽会館の価値が高まっているという状況のせいでもあります。
「昨年12月に大阪能楽堂が閉館しました。あまり無い『陽』の舞台で僕は大好きだったのですが。こうなると、大阪府下で駅から近くて交通の便がいい上、座敷席ではなくて座席のある堺能楽会館は本当に貴重です」
座敷席だと外国人や足の悪いお年寄りが観劇するのは難しくなります。堺能楽会館はめったにない条件の整った施設なのです。
「堺能楽会館を観光の目玉にするプロジェクトをやるべきです。将来的には産官民学で協力してやりたいのですが、誰かがやらないと動き出しませんから、まずスタートアップは民間でやりはじめます」
お上には頼らずまず民間でなんて、いつの間にか安東さんも堺カラーに染まってきたようです。


■堺を、プロデュース
海外から来る観光客にとって、堺は魅力的なまちだと安東さんはいいます。
「京都には箱庭的な面白さがあるのに対して、大阪は中身が面白いまちです。ただ、最近は大手の資本が入ってきて大阪のエンターテイメントも東京の真似をするようになってきている。もっと人間味のあふれるところで勝負すべきだと思うんです。人の強さ、個の強さで。その点、歴史的にも現在も独立心の強い堺はもっと面白いまちですよ。権力に属さないまちで、みなさん『ものの始まりみな堺』とおっしゃいます。いいフレーズですよ。このフレーズは著作権はないですよね?(笑) 堺能楽会館があって、近くにはさかい利晶の杜もあって、その先には古墳もある。魅力的なまちですよ」

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▲江戸時代に今の位置に移転された堺旧港。大澤家も作った堺の日本酒は、海外へ輸出され多くの富をもたらした。


しかし能楽を堺で推すには気になることがあります。ここで歴史を振り返ってみると、堺能楽会館が作られたのも、長く堺の商家には能楽の謡をする習慣はあっても、堺に能舞台が無かったので、その足らない部分を埋めようとしたのがきっかけでした。ずっと能舞台が無かったということは、堺のまちと能楽はしっくりしない部分があるのではないでしょうか。
「能楽は世阿弥さんが、当時の武家社会に向けて作り上げたものです。堺は商人のまちですから、能楽は根差さなかったのではないでしょうか。その代りに千利休が仏教に影響を受けて、わびさびでブレイクした」
能楽は武家のためのものだとしても、権力者を笑う狂言は庶民的な演劇のように見えます。
「もともと庶民のものだった芸能を室町時代に世阿弥さんが能楽という総合芸術にしました。能楽は能と狂言からなって、能は権力者が主人公の悲劇、狂言は庶民が主人公の喜劇とまったく対照的です。これは陰陽五行の思想に基づいていて、表があれば裏がある。光があれば影がある。その二つがあることで精神のバランスが取れて冷静な判断ができる。そのバランスを昔の人はわかっていたんでしょう」
だとしたら、商人のまちとして歴史を刻んできた堺に能楽の要素を入れるのも、バランスがとれていいかもしれませんね。

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▲プロデューサーとしての顔も見せる安東元さん。

安東さんは、このバランスは現代の日本全体で崩れているといいます。
「今の芸能は西洋一辺倒になっています。西洋のものだけでなく、日本のものも理解したらうまくバランスのとれなると思いますよ。実は僕も大学時代はずっとクラブDJをやっていたんです。その経験は狂言をするときにも生かされていて、空間を支配する感覚がわかるのです」
クラブDJをしていた狂言師とは、一見両極端な事をしている印象ですが、確かに役者さんの中にはその存在感で劇場の空間を埋め尽くし、全てをコントロールしてしまうような人がいます。安東さんが音楽でフロアの熱狂を操るクラブDJの経験を、伝統芸能の中に活かしているというのは、確かに両者を知った経験を活かしているいい事例のようにも思えます。

そして、安東さんが堺能楽堂で2か月に一度しようとしている公演も、日本の伝統と西洋発祥の音楽の両方を知る安東さんならではのものが企画されています。まさか能舞台でそんな演目が上演されるなんてと驚くような安東さんの企画がどんなものか、後篇では詳細をお聞きします。

(後篇へつづく)

堺能楽会館
住所 大阪府堺市堺区大浜北町3-4-7-100
最寄り駅 南海本線:堺駅
電話 0722-35-0305

大和座狂言事務所
住所 吹田市千里山東2丁目3-3
Tel:06-6384-5016,Fax:06-6384-0870,090-3990-1122(事務局)



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