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雑記帖 No.165

笑いには毒がある 狂言と現代喜劇「萩大名」(1)

挑戦の現代喜劇

萩大名

堺アートプロジェクトが堺能楽会館で企画したのは、能舞台をタイムマシーンに見立て狂言の演目「萩大名」を縦の時間軸でつないで現代喜劇と狂言で上演しようというものでした。この企画については、関係者による顔合わせにお邪魔してインタビューした記事をお届けしました。今回は、公演当日の様子をレポートします。


■はじまりの朝
現代喜劇を担当するのは、関西在住の劇団GUMBO。海外を主な活動の舞台とし、多くの芸術祭で賞を受賞してきたGUMBOですが、日本の伝統芸能である狂言の世界を題材にするのは初めてのこと。
「650年かけて洗練されてきた『萩大名』には何一つ付け加えるものがない」
GUMBOの代表田村佳代さんは、狂言を現代喜劇として作り変える難しさについてそう語りました。すでに完成されたものに手を加える難しさ。その苦闘の結果がこの日、披露されるのです。

本番当日、劇団としてもかつてない挑戦だったこともあってか、会場の堺能楽会館では朝早くからリハーサルが行われていました。日本の役者だけでなく、シンガポールや香港からも役者・スタッフが加わって、時間が限られた準備期間の中で最後の仕上げが行われています。
一方、堺能楽会館のロビーでは、堺アートプロジェクトのメンバーによって会場の準備が設えられている所でした。ロビーの壁には、プロジェクターで萩の花の映像が映し出され、プロジェクトの代表で書家の西村佳子さんの書が飾られようとしています。書は、能楽や堺能楽会館に関係のある堺の歴史年表と、作品中に登場する和歌などで構成されたインスタレーション(空間展示)作品となっています。これも能舞台をタイムマシーン化するための装置となっているようです。

西村佳子インスタレーション
▲書家・西村佳子さんによるインスタレーションも、能舞台をタイムマシーンとして機能させる装置でした。


時計が12時半となり、すっかり準備を終えてハウスオープン(開場)。
お客様が会場の扉をくぐり、いよいよと胸の高鳴る瞬間です。150席の固定座席は満席で、補助席にもお客様が溢れました。今回は親子無料招待を行っていることもあり、客席には親子連れの姿も目に付きます。
開演に先立って、今回の企画を支援した関西アーツサポートの方や、アートに造詣の深い堺市の狭間副市長の挨拶もありました。また、代表の西村さんからも、この素晴らしい堺能楽会館を知ってほしいという思いから始まった企画の意図についてのスピーチがありました。
今の私たちにとっては、なかなか馴染みのない能楽の世界。今回現代喜劇と狂言を縦の時間軸でつなぐことで、古典に親しく触れることが出来るようになるはず。さて、その試みは上手くいくでしょうか。
ついに幕が開きます。


■現代喜劇「萩大名」
能舞台の奥にある切戸口から、音楽担当の2人が姿を現します。カホンなどパーカッションのセットの前に音楽家の竹中洋平さん、音響を操作するノートパソコンの前にKelvin Wooさん。彼らが現代喜劇版の囃子方です。
続いて五色の揚幕があがって橋掛かりから、劇団GUMBOの3人の役者たちが登場します。お揃いのボブヘアと派手な衣装を身に着けた彼らは「クラウンツーリスト」のツアコンたちです。
ツアコンたちは、客席に向かって状況を説明します。時は今からほんの少しだけ未来の2020年のオリンピックの年、場所は右を向いても左を向いても海外からの観光客が溢れる京都。
「お・も・て・な・し」でツアコンが迎える今日のお客様は外国の大富豪で日本通の大名(ダイミョウ)様......ならぬダイメイヨウ様。ダイメイヨウは、
「日本ダイスキ、ワビ、サビ知ってる」
といいながら、何かあると札束でチップを渡そうとし、セルフィー(自撮り)を撮りまくるいかにもあくの強い成金然とした人物でした。

セルフィー
▲何かとチップとセルフィー(自撮り)を繰り返すダイメイヨウはシンガポールの俳優Gloria Tanさん。


ツアコンたちは、ダイメイヨウの希望にそって、京都の名所観光を提案しますが、日本通のダイメイヨウは清水寺も伏見稲荷もどこもかしこもすでに観光済み。一体どこに連れていけばいいのだろうかと、頭を悩ましたツアコンたちは、ある秘密の日本庭園を提案します。美しい萩が名物のその庭と聞いて、ダイメイヨウは「ワビサビ」の日本庭園にぜひ行きたいといいますが、この庭の見物には歌を詠まねばならないというルールがありました。
「歌なら大丈夫。カラオケ大好き!」
と、ダイメイヨウは自慢の喉を披露しますが、「その歌じゃありません。31文字の和歌のことです」とツッコミが入ります。そうなると外国人のダイメイヨウが、和歌を作って詠むのは難題です。そこで、ツアコンが用意した和歌を暗記していくことにするのですが、
「七重八重 九重とこそ 思いしに 十重咲き出ずる 萩の花かな」
という歌をダイメイヨウは勘違い。
「おならイエイ! イエイ! ココナッツイエイ! おいしい これ酒? お水? ハゲかな?」
といった有様です。
そこで扇を使って和歌をカンニングで暗記することにします。扇には10本の骨があるので、それを広げていき7本目、8本目、9本目、10本目の時に、七重八重、九重、十重を思い出そうというのです。これなら大丈夫......いや、最後の「萩の花かな」が難しい。
ツアコンは足のふくらはぎと鼻を指して、「萩の花」と覚えてもらうことにします。

扇を使ったカンニング。
▲扇の骨の数で和歌を暗記するアイディアはうまくいくのか?


そして、一行は萩の庭に向かって、能舞台の四隅の柱を巡るようにして移動します。これは柱を巡る移動で旅を表現する能楽の約束事を意識したものでしょう。

ダイメイヨウたちが萩の庭にたどり着くと庭の亭主が迎えてくれました。庭見物の際も、ダイメイヨウの頓珍漢ぶりが発揮されます。
庭の銘木である梅の木を見ても木か竹と尋ね、せっかくの名木を切ってバーベキューをしようと言い出し、北山から運んできた庭石を見てはロッククライミングをしようと言い出します。ようやく肝心の萩の花を見た時にも、亭主の「花が落下してしまった庭ですが」という言葉をとらえて「落下傘? パラシュート」と勘違い。ダイメイヨウが失礼な事を言い続けるたびに、ツアコンたちを慌てさせる一幕です。

亭主とダイメイヨウ
▲萩の庭の亭主はダイメイヨウに歌を詠むことを求める。


こうして庭見物が終わり、いよいよ亭主から歌を求められたダイメイヨウは「外国人だから勘弁してほしい」と願うのですが、亭主は「あなたは日本通と聞いてます」と許してくれません。ダイメイヨウはツアコンたちの手助けで扇を見ながら四苦八苦し、なんとか九重までたどり着くのですが、10を前にして「いくらお金をもらってもやってられない」とツアコンたちが匙を投げて立ち去ってしまいます。
手助けを失ったダイメイヨウはパニックとなり、亭主を買収しようとしますが通用しません。亭主にお金をとられた上に、平謝りをして終演となります。


■客席の戸惑い
賑やかな舞台が終わりました。
現代劇の「萩大名」を、観客はどのように受け取ったのでしょうか。
客席の様子を伺うと、どこか戸惑っているようにも感じました。お客様の戸惑いの理由は一体なんなのか。珍しい現代喜劇を見たことに対する戸惑いだけとも思えません。この原因を考察するためにも、今度は狂言スタイルの「萩大名」を体験して比較してみる必要があるでしょう。

いよいよ大和座狂言事務所さんの登場です。650年の笑いを今の私たちは理解できるのか。そして、劇団GUMBOは「萩大名」のどこをどう変えて、どこを活かしたのか。見どころは沢山あります。


終演後
▲終演後、ロビーに出てお客様と記念撮影などの交流を楽しみました。



堺能楽会館
住所 大阪府堺市堺区大浜北町3-4-7-100
最寄り駅 南海本線:堺駅
電話 0722-35-0305

堺アートプロジェクト
E-mail:sakaiartproject@gmail.com
FAX:072-334-5456

大和座狂言事務所
住所 吹田市千里山東2丁目3-3
Tel:06-6384-5016,Fax:06-6384-0870,090-3990-1122(事務局)




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