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雑記帖 No.147

600年を飛び越えるタイムマシン 堺能楽会館(2)

魂からでて芸術に至る

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もうすぐ半世紀の周年を迎えようとする堺能楽会館は、国内では珍しい個人所有の能楽堂です。この堺の宝ともいうべき芸術空間で、館主の大澤徳平さんは能楽の枠に収まらない企画を開催してきましたが、もっと活用したいと考えておられました。

そんな中、堺アートプロジェクトの企画で、これまでにない企画が立ち上がりました。それは、古典狂言の「萩大名」という一つの演目を、狂言の大和座狂言事務所(以下大和座)と現代劇の劇団GUMBOの二つの劇団によって、古典劇と現代劇の二つのスタイルで演じようというものです。
古典から現代へつづくタイムマシンとして能舞台を活用しようというコンセプトのもと選ばれた二つの劇団が堺能楽会館で舞台の下見の様子をレポートした前篇に続き、後篇では両者の交流と対話から芸術論へと話が深まっていきます。


■枠組みを飛び出した二つの劇団
劇団GUMBOがなぜ今回の企画に参加したのか、代表の田村佳代さんは語ります。
「私たちは能舞台には立ったことがありません。劇団GUMBOは海外でやっている劇団で、今日本に戻ってくるのはいい経験になるんじゃないかと思いました。現代版で狂言を演じるのは、今回の挑戦で、自分たちのルーツを知ることにもなるし、未来の子どもたちに向かってやりたいというのが今回一番思っていることです」
劇団GUMBOは、20年に渡って海外のフェスティバルに参加し、その多くで評価され受賞してきました。そんな劇団GUMBOから見ると、海外と比較して日本では芸術は身近なものではないようです。
「お芝居をすぐに見に行くという環境が日本にはありません。私たちは海外が好きだから行ったのではなくて、海外に呼んでくれる場所があったから行ったんです。ここも一緒で、メッセージがあるのに人が来てくれない。共通性がある」

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▲劇団GUMBOの代表・田村佳代さん(右)と、大和座狂言事務所の安東元さん(左)。


もう一方の大和座の安東元さんも、伝統芸能というカテゴリーだけで見られがちな狂言で、その枠に囚われない活動をしていました。
「この数年新しい試みをしていました。狂言大和座旅団というユニットを組んで、民族楽器を入れて音楽で世界中を旅したりしました。狂言というのは、お客様に与えられるのは6割ぐらいで、あとはお客様が頭の中で補って想像するものです。しかし、現代のお客様は刺激の強いものに慣れていますから、朗読を入れたりもしています。去年ぐらいからやっているのは、本読み狂言というもので、声優さんに朗読してもらって、演じるのは私1人です。お客様は自分が相手役になった感じになるので、ライブ感覚で新鮮なようです。演じる私も1人だから制約が外されて自由になる。声優も私の動きを見ながら語るんです」

能楽や演劇に興味をもっていない人の多くは、伝統芸能という冠がつくだけで、コアなファンと関係者が、身内だけでやっている......そんな印象を持っていて、さらに足が遠のいている側面があるように思います。安東さんの活動は、そんな状況に対するカウンターパンチなのかもしれません。

劇団GUMBOも大和座も、それぞれ現代劇と狂言の世界の中で、その世界から飛び出した活動へと進みました。さらに深くお話を尋ねると、それは両劇団にとっては必然的な事だったようです。

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▲安東さんは、8月に堺能楽会館で堺親子狂言教室を開催されました。今後も大人向けのプログラムを堺能楽会館で定期的に開催する予定です。


■社会を動かすパワーを持つ喜劇
世界中で公演してきた田村さんは、狂言と笑いについてこう語ります。
「喜劇といってもギャグやコメディなど、人によって喜劇とは何かは違います。シチュエーションなのか、面白いセリフなのか、変な顔なのかもしれない。でも世界に共通する笑いはあります。萩大名の上下関係、大名がいて太郎冠者がいてという笑い。これは世界中にあるんです。上がいて下がいる。これは世界中どこも変わらない。お客様は、自分の身を照らし合わせて、下のものが上のものをやっつける様をもっとやったれ! と思うのです」
劇団GUMBOの笑いのメソッドは、フランスで生み出された「ルコックシステム」と呼ばれるものです。ルコックシステムの祖国フランスでは笑いは、時に社会を大きく動かしました。
「笑いというのは時に民衆を動かすほどの力を持ちます。フランス革命も最初は『笑い』から始まりました。メッセージ性の力で、人の心や人生、社会を動かすパワーがあるのが喜劇なのです。しかし、何を喜劇と呼ぶかは難しくて、たとえばチェーホフの三人姉妹も姉妹が不幸すぎて笑ってしまう喜劇だと言えます。今回の企画では、萩大名がどういう喜劇なのか、その共通項を見つけるのに、二三回会ってすり合わせをするのが一番大切だと思っていました。それがずれると出来ない。大失敗になると」

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社会を変えるだけの力を持っていた喜劇ですが、それはいつしか変質してしまいました。
「喜劇というのは単純で、喜劇=毒で、社会を動かす力を持つものですが、その力が抑えられたことによって、面白くなくなってしまったのです。だから人が来なくなってしまった。日本の小劇場も、知り合いが付き合いで見に行くだけになると停滞がはじまる。劇団が成長しない」
どうやら、狂言と現代劇は同じような構造で悪循環を生んでいるようでに思えます。形骸化と身内意識だけに支えられ、芸そのものがおろそかにされている。そして、同じ構造は海を越えたお隣の国でもあるようでした。この日、香港の俳優アスカ(Leung ka Wai Aska)さんは、劇団GUMBOに対するアドバイザーとして交流会に参加していました。
「香港でも京劇のようなチャイニーズシアターは伝統芸能として生きてゆけるのです。また中国の現代劇も1960年代に美しいコスチュームや豪華なセットの芝居がもてはやされました。しかし、それが無くても演劇は成り立つのです。場所と役者と観客だけがあればいい」
アスカさんは、必要なものだけで構成するプアーシアターというスタイルの芝居に行きつきました。
「プアーとは貧乏という意味ではなくて、シンプルという意味です。全てをそぎ落としているものだけを舞台にあげる。メイクをするでもなく、肉体と音楽だけがある」
音楽も、アフリカなどに口伝で伝わっている古い音楽などを採取しているのだとか。そんなアスカさんだから、能舞台をして「シンプルだからストロングだ」と評したのでしょう。


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▲香港の俳優アスカさん。アスカというイングリッシュネームは、子どもの頃から大ファンだった日本のミュージシャン・チャゲ&飛鳥の飛鳥から自らつけたもの。


プアーシアターは中身のない演劇に対してシンプルにそぎ落とした演劇。劇団GUMBOも「ルコックシステム」によるメッセージ性を伝える演劇。どちらもしっかりとした骨格があります。
「ところが、日本には何の思想をもとにやるのか、系統だった演劇教育がないんです」
と言う西原さんの言葉を、田村さんが繋ぎます。
「そう、そこから発展していって、これが私の演劇スタイルですと発見していくのが理想です。バレエなんかも、儀式的、トランス的でそこに神がいるから、上に上に行く。体に反した動きをする。それに対してトゥーシューズを脱ぎ捨てて裸足でやるところからモダンバレエは始まった。革命や反発。アスカのプアーシアターも魂からはじまって芸術に至る。プアーシアターにしろ狂言にしろ、私たちがやっていることは同じ。紀元前の歌だったり、英語の歌だったりするけど、そこのポイントは一緒。何を言いたいかのテーマを探していくのか、どう料理していくのかが違うだけです。それで色んな人からアドバイスをもらいたくて、今日はアスカにも来てもらったんです」
安東さんも、田村さんやアスカさんの意見に同意します。
「能楽はもともと野原に四隅の柱を建てて行ったものです。だから芝・居(しば・い)というんです。ルーツが似ている。根っこは同じだと思いますね」


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▲田村さんは近畿大学で「ルコックシステム」を学びました。「ルコックシステム」は世界各国の多くの演劇に影響を与えました。


百戦錬磨の田村さんがアドバイスを求めるほど悩ませているのは、「萩大名」のシンプルな完成度の高さもあるようです。
「萩大名の中に無駄なものが何一つないのです。それをどうしようかと。ストーリーも登場人物もいじらないで、どうやって萩大名を現代劇にしようか」
「650年間、名人たちが演じてきてこれとなったものですから、僕らがいじるところはどこにもないですからね」
とうなずく安東さん。田村さんは、この難しい課題に前向きです。
「いい作品を作るために、今は産みの苦しみをもっと苦しまないといけない時期かなと思っています。前に安東伸元さんにもお会いしたのですけれど、先生は82才でしたか、その82才の先生が『今の狂言に人が来ないのは自分たちのせいだ。だからやるんです』とおっしゃって闘っている。素晴らしい。舞台人の発想だと思いました。私たちも面白いものを作っていかないと。今回は、小中学生の親子招待もあって、小学校4~5年生までに本物を見せておかないと。ゴールデンエイジといって、すごく成長するんですよね」
若い子どもたちに本物を知って欲しいというのは、館主の大澤さんの願いでもあります。
「闘っているといえば大澤さんも85才で、闘っておられますよね」
堺アートプロジェクトの西村さんが水を向けます。古典と現代劇のコラボレーションという今回の試みを大澤さんはどう思っているのでしょうか。
「不安はありますよ。でももちろん楽しみですよ。楽しみでしかない。あとは終わってから、もう一回やって欲しいと私が言えば、成功したということです」

600年の洗練された狂言の演目と能舞台、その板の上で西洋のルコックシステムを取り入れ世界を相手に練磨してきた劇団GUMBOと伝統の枠に囚われない大和座が交差する。
さて、「萩大名」は大澤さんの御眼鏡にかなって、もう一度とアンコールを獲得することが出来るでしょうか。要注目です。


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▲最前列の中央左が館主の大澤徳平さん。右が堺アートプロジェクト代表の西村佳子さん。

堺能楽会館
住所 大阪府堺市堺区大浜北町3-4-7-100
最寄り駅 南海本線:堺駅
電話 0722-35-0305

堺アートプロジェクト
E-mail:sakaiartproject@gmail.com
FAX:072-334-5456

大和座狂言事務所
住所 吹田市千里山東2丁目3-3
Tel:06-6384-5016,Fax:06-6384-0870,090-3990-1122(事務局)

Theatre Group GUMBO


◆チケット/お問い合わせ
入場料  大人  2,000円   小人  1,000円
①氏名②住所③枚数④連絡先電話番号⑤ご希望の公演時間(13:00~/17:00~)を下記Email、またはFAXにてお伝え下さい。(先着順)
堺アートプロジェクト実行委員会
Email  sakaiartproject@gmail.com
FAX   072-334-5458
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