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雑記帖 No.105

千利休が見出した"炭"の美 能勢菊炭 (1)

「炭が無ければ茶は茶として成り立たない」

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オレンジ色の炎が黒炭から湧きあがって炭肌を焼き、黒炭は姿を保ったまま白化していきます。 
この炭は、能勢菊炭。断面があたかも菊の花のような放射線状の文様を描くことから、その美しさを茶聖・千利休に愛され、現代でも正式なお茶席では菊炭を使うのです。 
「炭が無ければ茶は茶として成り立たない」 
とまで評価される菊炭を焼く炭焼き師・小谷義隆さんに会いに向かったのは、北摂に残る「日本一のさとやま」能勢町・田尻地区です。 
 
 
■炭焼き師の仕事 
緑なすさとやまの谷間に、小谷さんの「能勢さとやま創造館」はあります。菊炭を焼く窯はここに一基、山の中にもう一基あるそうです。菊炭を焼くのは冬。12月以降で遅くとも6月ごろまでです。 
「木に水があがっているといい炭は出来ません。木が活動していない、言うなれば木が冬眠している12月~3月の間に伐採します」 
この時期、炭焼きに使うクヌギは広葉樹なのですっかり葉を落としています。 
「炭には部分部分で名前があって、窯の中のどの場所にどの部位をいれて焼くかも決まっており、焼ける時間もわかっています」 
大型冷蔵庫ほどの枠に積まれたクヌギの原木、9枠分が窯の中に入ります。 

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▲炭焼き師・小谷義隆さん。背後には炭焼きに使われるクヌギの原木が積まれています。


「窯の中に原木を縦てて入れていきます。窯の中はドーム状になっていますから、上の空いたスペースに細い柴にしたものを詰めていきます。窯の入り口には薪を詰めて、一昼夜かけて温度をあげていきます。そうすると自発炭化現象というのがおこり、燃えるのではなくオレンジ色になって熱を出していきます。これが連鎖して炭化していきます」 
この薪をくべる作業を一週間続けます。 
「木の主要成分であるセルロースとリグニンが抜けていき、窯の表面からは最初は水煙があがります。それが白煙になって、白濁色になって、青色、薄青色、紫色、最後は透明になります。このあと、六日間かけてゆっくり冷やしていきます」 
冷やしたといっても炭の取り出し作業は高温の中での作業になります。 

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▲父・安義さんの代から25年間使い続けている菊炭窯。


「窯の中の温度は80度~90度。作業時間は3時間から場合によっては6時間かかります。作業中に体重は3キロは落ちて、水も3リットルは飲みます。3月だと気温は0度ぐらいなのでいいのですが、6月になると外気で体を冷やすことが出来ないので、ばてますね」 
窯から炭を出すと、また原木を詰めて炭焼きを再開します。これをローテーションで、冬中やっていくのです。 
しかし、 
「出来た炭のうちで、お茶席に使える炭は2割程度」 
と、小谷さんは厳しいチェックを行います。それは、茶道においては炭はただの燃料を越えた存在だからです。はたしてお茶の世界で炭はどんな役割を果たしているのでしょうか? 
 
 
■高性能な日本の炭 
ガス火やIHヒーターが一般的になった私達の生活の中で「炭」は縁遠い存在になりました。 
「ガス火は空気を熱して、空気の熱で焼きます。空気に接している表面から焼けていくので、表面は焼けても中は生焼けになったりします。しかし、炭火はオレンジ色の光からマイクロ波が出て表面を透過して中から焼いていきます。電子レンジもマイクロ波を出して水分を振動させて温めるのですが、炭火のマイクロ波は電子レンジより長い波長だそうです。だから、表面がこんがりと焼けた時には、中身もジューシーに煮えた状態になっているんです。お肉もいいですが、野菜のおナスなんかも最高ですね。炭火は強火の遠火という料理人が一番欲しがる火なんです。また空気を使わないので、風に影響されずアウトドアにも最適です」 
アナログな技術でありながら、ハイテクに負けないだけの魅力があるからこそ、まちには炭火を謳った店が数多くあふれているのです。 
 
「今から数年前にお亡くなりになったのですが、炭の世界では誰もが知っている炭博士・岸本定吉(林学博士)さんは、日本の炭は高性能だとおっしゃっています。日本には黒炭と白炭など多彩な炭があるのも、その理由の一つです」 
お茶席で使われる「菊炭」は、黒炭と呼ばれる炭に分類されます。焼鳥などでよく耳にする備長炭は、これとは別の白炭になります。 
 
「黒炭が窯の中で時間をかけて火を消す『窯内消火法』で作られるのに対して、白炭は1400度の窯の中から外に出して一気に冷やす『窯外消火法』で一気に締めます。代表的な白炭である和歌山の備長炭はウバメガシで作り、硬くて折った断面はつるんとしています。白炭は火を起こすのは大変ですが、一度火を起こすと300度で安定し、風をあてると一気に1000度にあがります。焼鳥屋さんなんかだと、必要な時に団扇で扇いで火を起こして、また後ろを向いて別の作業をしたりするので、白炭がぴったりです。白炭は業務用に向いています」 
一方、黒炭は柔らかくて断面には放射状の模様が入ります。火は簡単につき、何をする必要もなく700度ぐらいにあがります。 

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▲火を起こしにくい白炭に対して黒炭はバーナーであぶるだけで火が起きます。

 
小谷さんに、実際に黒炭に火をつけてもらいました。 
「炭になりきってない所があると煙が出るんですが、ちゃんとした炭は煙も出ません。お茶室で煙が出ると困るので黒炭は丁度いいんです。また白炭だと火をつけると大きくはぜるんですが、黒炭だとそんなこともありません。火をつけると小さくパチパチという音がするでしょう、これは木の中の水泡がはぜる音なんです」 
この小さな音は、静かな茶室の中で聞けば、風情を感じることでしょう。 
「黒炭の中でも菊炭と呼ばれる炭を作ることが出来るのは選ばれた原木だけです。木の皮が薄くて密着していること。細かな菊割れ文様が放射状にあること。菊炭はこの菊の形を残したまま白い灰になり、最後には崩れ落ちるのです」 
扇がなくていい、煙を出さない、そして美しい菊の文様のまま次第に白くなっていく。そんな菊炭に美を見出したのが、千利休でした。 
 
 
■千利休に見いだされ美 
「千利休以前は、茶の湯においては裏の仕事でした。それを表に出してくれたのが千利休さんだったんです」 
利休によって、炭に燃料以上の価値が見出されました。 
「お茶事では、順番にお湯が沸いて、黒い炭が赤く燃え盛り、白い菊の花となって、時とともに自然に炭が落ちていく。ガスや電気だとこうはいきません」 

お茶の世界でどれだけ炭が大切なのか、後日お茶の先生に聞いてきました。
「茶事では最初に炭手前の初炭で炭を型どおりに並べて火をおこします。そのうちに火の起きる音、水の沸く音が聞こえてくる......」
冬の炉に使う灰、夏の風炉に使う灰はそれぞれ違って、茶人は自分の手で灰を作るのですが、「お炭拝見」でお客様が炉を見るときに、灰を見れば茶人の実力がわかるのだそう。
「茶事をするたびに新しくできた灰は別にしてとっておきます。古い灰が減ってくるので、その時に変にならないかドキドキしながら少しずつまぜていくんです。私は地震が起きたら、しまってある灰を抱えて逃げますよ」
昔と違って、日常の中で炭手前から稽古をすることが難しくなった。そんな中でお茶を伝えていけるのかが、悩みだそうです。
閑話休題。
 
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▲冬用の菊炭セット(左)と夏用の菊炭セット(右)。消防法や建築基準法の制限もあって、炭が使えない場所もあります。そういうところでは、陶器に電熱線をまきつけたものを使ったりするそうです。

 
「私も炭焼きをして、三千家だけでなく、藪内流、玉川遠州流、石州流、江戸千家など茶道の方々とお付き合いをしています。茶道についてはまだまだですが、皆さんからお話をきいて、お茶のアウトラインはわかってきたように思います。作法も、効率のいい立ち居振る舞いをすると、美しい動作になる。そういうことなのではないかと思います。炭も一期一会、ここでしか会えないものなのです。炭焼きをしながら、千利休の言葉はすごいな、感動を与えてくれるもの、美しいものとはなんや、ということを考えています」 

炭がなくなればお茶がお茶でなくなる。 

そんな言葉を噛みしめながら、炭を通じて、茶の湯の美、そして日本の美を感じ考えるようになった小谷さんですが、その前身は実は地元能勢町の職員でした。安定した職員としての職を捨てて、なぜ炭焼き師になったのか。後篇では、小谷さんの半生に迫ります。 
 
   
(後篇へ続く) 

 
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