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雑記帖 No.092

一万年の森の守り人(1)

森に響いた歌声

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大阪・兵庫の境の豊能エリアにそびえる妙見山は、奈良時代の僧・行基に端を発する聖域で、山頂にある一万年続くであろうブナの森は大阪府と川西市の天然記念物に指定されています。普段は足を踏み入れることの出来ない森ですが、8月11日の「山の日」に特別の許可を得て人数限定のライブイベントが開催されました。行基が歩いたかもしれない森に足を踏み入れ、木霊する歌声に耳を傾けた参加者達。しかし、同時に森を脅かす危機を知ることにもなりました。その様子をレポートします。 
 
 
■一万年の森に入る 
ブナの森がある妙見山は、行基開山後、激動の歴史を経て現在は日蓮宗の霊場となっています。その歴史を知る副住職の植田観肇(かんじょう)さんが呼びかけ、地域のコミュニティや企業や人材が手を携えてはじめて境内で開催したのが「能勢妙見山山の日フェスタ」です。グルメや物産ブースにトークショー、すべて「山」をテーマにしたもの。 
「山音-yamaoto-」「森音-morioto-」と名付けられた、歌手・古川真穂さんのプロジェクト「古川真穂と光合成」によるアコースティック楽器のみによるライブもその一つ。「山音-yamaoto-」はブースのあるエリアを会場とし、そして「森音-morioto-」は天然記念物のブナの森が会場となりました。 
もちろん、一万年の森でライブが開催されるのは初めての事。森へと誘う案内人は植田さんが務めます。 

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▲能勢妙見山副住職植田さんの案内で森へ向かいます。
 

「気づかれていると思いますが、森の空気はどこかひんやりとしているでしょう」 
入林を申し込んだ30名ほどの参加者を率いながら、森への道すがらに植田さんの解説が始まりました。会場周辺も木々に囲まれた森になっています。真夏の日差しは木陰で和らぎ、樹間を通る風は涼しく感じます。 
「これは森の木々が水を蓄えていて、暑い日に放出するからです。湿度を調整して、過ごしやすい環境にするんですね。また木はフィトンチッドという物質を放出するんですが、これは人間のストレスを軽減する作用があります。鬱病の人も森に入れば症状が軽減され、一週間ぐらいは効果が続くと言われています」 
会場を離れてすぐ下り坂に差し掛かります。この斜面にブナの天然林が広がっています。 
 
この森が大阪府の天然記念物になったのは昭和58年のこと。その後、ブナは兵庫県側でも見つかり平成28年3月25日に川西市の天然記念物にも指定されました。二つの府県にまたがる天然記念物というのは珍しいものだそうです。 
「兵庫県側には8本のブナの木があり、昭和58年の調査では全体で400本ぐらいのブナの木があります。わずか6ヘクタールの森に、これだけブナが密集しているのは珍しいですし、樹齢が250年になるブナもあります。調査してから随分たちますので、本当に400本あるのか、今年調査することになっています」 

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▲鹿除けの網をくぐれば、いよいよ天然記念物の森です。

 
鹿除けの網をくぐって、いよいよ天然記念物の森に足を踏み入れました。この森には、ブナだけでなく様々な植物が生えているのですが、珍しいのはブナとカシが共存していることです。 
「ブナは寒い環境を好む木で、妙見山が南限とされています。一方、カシは暖かい環境を好む木ですから、ブナの南限とカシの北限が丁度この森、ここがお互いが存在できる限界点なんです」 
森の木々はブナやカシだけではありません。高山のモミジや、ソメイヨシノのもとになった桜の一種エドヒガン。それに今や天然のものを見ることは珍しくなったシダ植物のツリシノブも山道から見受けられます。 
「ツリシノブは葉の形から欧米ではラビットフッド(ウサギの足)と呼ばれています。ラビットフットというと幸運のシンボルでもありますから、開運の妙見山にはぴったりだなと個人的には思っています」 
植田さんの解説を聞くうちに、森のライブ会場に到着しました。 
そこには三人の音楽家と、北限の巨大なアカガシが私達を待っていました。 
 
 
■森の音を体感する 
いったいどれほどの年月そこに立っていたのか、森の主のような貫録のあるアカガシを植田さんが紹介します。 
「この尾根は南向きにあるので、この斜面にアカガシが育っているんです」 
このアカガシの根元の少し開けた空間がライブ会場です。おそらくアカガシの樹冠が光を遮って、他の植物の成長を妨げてうまれた空間なのでしょう。 

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▲古川真穂(中央)さんと光合成のメンバー。


深い緑に囲まれたこの空間にたたずむ歌手の古川真穂さんと楽器を携えた2人の音楽家の姿は、白い衣装と相まって神話の世界の光景のようでもありました。 
「皆さんお好きな姿勢で聴いてくださいね」 
という古川さんの言葉に従って、尾根の斜面の森の隙間に参加者は腰を下ろしました。座るもの、寝転がるもの、聴衆は思い思いの姿勢をとります。アカガシの木は、音楽家たちの背後で会場セットとなって、見下ろし包み込んでいます。観客席の背後には、ブナの木々が立ち並び、彼らもまた聴衆に加わっているかのようです。 
「せっかくなので、マイクを通さないで歌いますから、生の音を楽しんでください」 
ただ二つの楽器と、声だけのライブです。 
 
奏でられた歌は、木立の中に吸い込まれていきます。 
夏の盛りの森では、虫たちは地面も人の体もお構いなしに忙しく行き来しています。 
古川さんはMCで、 
「人間は自然のおまけ」 
と語ります。選曲もこの環境を意識したものだったからでしょうか、対立するものと捉えられがちな自然と人間が、ここでは一体のものと感じられます。 
この日のために作られたという「The Seeds Of Love」(愛の種)は、まさにそのような歌でした。歌の視点となる主人公は、人のようでもあり、樹木のようでもありました。聴衆もまた、森の木の一本になって、聴きほれたひと時でした。 

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▲偶然発見されたブナの若木。しかし、このままでは育ちません。
 
この歌が現実になったのか、丁度この会場の片隅には、ブナの若芽が芽吹いていました。愛の種から生まれたばかりの若いブナ。しかし、このままだと、おそらくこのブナは育つことが出来ません。それは、この森に、かつてない危機が迫っているからです。 
 
ライブ終了後、図らずも私達はその危機と遭遇することになります。 
 
 

 

能勢ブナ守の会

古川真穂総合案内所

行基のまち1 能勢(豊能エリア)
●行基の遺した星ふる山(1)
 
●行基の遺した星ふる山(2)






















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