| トップページ |
雑記帖 No.073

町家の夏を染めて

「夏を彩る注染展」 町家歴史館山口家、清学院

chyusen_00_face01.jpg

白壁に日差しが照り付ける7月。瓦屋根の影も一際くっきりとしているよう。古い町並みが残る一角にある町家歴史館山口家は、400年の歴史を経た堺の庄屋さんのお宅が寄贈されたもの。「建て倒れの堺」らしい暮らしぶりが伺えるこの山口家で、伝統産業「注染」の展覧会が行われました。
「毎回、『堺の伝統産業』をテーマにした展示を行っているんです。他にも『季節のしつらえ』と『堺の歴史を知る』と、合わせて三つのテーマを設定しています」
展覧会を案内してくれたのは堺市文化財課の小林さん。今回は『堺の伝統産業』をテーマにした展示ですが、数ある伝統産業の中から季節に合わせて注染が選ばれ、「夏を彩る注染展」が開催されたのでした。この展覧会では、「にじゆら」のブランドが人気の株式会社ナカニさんが製品だけでなく展示にも協力。その展示と注染の魅力に迫ります。


■注染の魅力
注染とは明治時代に大阪で生まれた染物の技術です。注染で染められた手ぬぐいはプリントと違い裏まで染め抜かれていますが、これは生地に糊を置き染料を「注ぐ」ことで染めていくからです。
注染のひとつひとつの工程は手作業で行われていまが、この工程がビデオや使用される道具によって展示されていました。この手作業の仕事を経て出来上がった注染のてぬぐいの特徴を、展示では「さらし」「切りっぱなし」「ずっとつかえる」「せんりょう」「そめる」と料理の「さしすせそ」になぞらえて説明しています。

chyusen_01_tenji01.jpg
▲山口家の蔵には注染に使う道具や、製造過程をまとめたビデオの展示。

この注染の技法は戦後に堺に渡ってきた技法ですが、それも堺にはずっと和晒(わざらし)が伝統産業があったからこそでした。大和川や石津川の水質や流域の自然条件が、和晒に向いていたことが、その背景にはあります。

高品質の和晒を注染で染めた手ぬぐいは、布の端は「切りっぱなし」になっているので手で布を割いて、好きなサイズにして使うことも出来ます。また、ひとつひとつが手作業で染料の浸透具合によるので、どんな色に染まりどんな仕上がりになるかはやってみないとわかりません。ひとつとして同じものが出来ないし、使っていくほどに味わいが出て来るため、世界でただひとつの自分だけの染物になっていくのも注染の魅力です。
この注染を、伝統的な生活空間だった山口家でどう展示するのか。そこには一工夫も二工夫もあったようです。


■文化財をプラスする展示
chyusen_02_sarashi01.jpg
▲土間の梁から「伊達干し」をイメージした展示。


山口家の入り口を入ってすぐの土間には、高い天井を支える梁から注染で染められた長い晒(さらし)がかかっていました。これは山口家の土間の特徴を活かしての意図した展示です。
「注染を染めて水洗いした後、縦に長く吊るして乾かします。これを『伊達干し』といいますが、この土間の高さを活かすのに『伊達干し』をイメージした展示にしたんです」
さらに土間の大きな竈(かまど)や流しには、まるで住人が使っている最中のような展示がされていました。
「生活の日常の中に溶け込むようなさり気ない展示にしてみました。ナカニさんには伝統を知る若いデザイナーさんがいて、この展示もやっていただいたんです」

chyusen_02_kamado01.jpg
▲竈の蓋の上にもさりげなく。どんな人がこの手ぬぐいを使って煮炊きをしているんだろうか、そんな事を想像してみたり。


部屋をまわると茶室でのシンプルな展示や窓際での風鈴とのコラボレーション展示、壁につるされて出番を待っているようなはたきの展示など各部屋それぞれ特徴ある展示がされています。特に中庭に面した部屋でテグスで吊るした海と空の手ぬぐいの展示は、作品の中に入り込んで楽しめる展示で、まさにインスタレーション(空間展示)といえるものでした。
「最初は麻紐で吊るしたんですが、本当に部屋で注染を干しているみたいになって、建物にマッチしすぎたんですね。テグスにして透明感がある方が、アート展示的で良くなったかと思います」
あけ放たれた縁側から吹き抜ける風が、時おり注染をゆらします。注染と一緒に風が吹くのを待つ、そんな時間が過ぎていきます。

chyusen_02_cyashitu01.jpg
▲誰かが手土産をもってきたのでしょうか。茶室にそっと置かれた作品。


「文化財を文化財とし遺していく、保護していくのが文化財課の役割です。建物をきちんと見てもらうのが第一なのですが、そのものが持っている良さをより磨いてプラスして見せることも出来ると思うんです。そのものと全然関係ないものを置くのではなく、プラス部分を出す展示は文化財をより良く見せていくものだと思います」
こうしたプラス部分は感覚的なもので、人によって評価が分かれる時もあります。ですが、伝統的なものに新しい感覚を追加していくことで、再発見される魅力もあるのではないでしょうか。注染という伝統産業もまさに新しい感覚を取り入れることによって、現代的なブランドとして再評価され始めているのですから。

chyusen_02_sudo01.jpg
▲夏の建具の簀戸(すど)で涼し気に風が作品を揺らします。


このプラス部分で再評価することは、堺そのものにも必要かもしれません。
「堺の人にもっと堺の魅力を知って欲しいと思っています」
と小林さんは言います。文化財課では「季節の設え」「堺の伝統産業」「堺の歴史を知る」という三つのテーマで、これまでになかった切り口やテーマを取り上げていきます。そこにも堺のプラス部分を見せたいというメッセージが込められているようです。
「『堺の歴史を知る』テーマでは人物に焦点をあてています。与謝野晶子のようなお馴染みの人物以外にも、今は無名でも当時は著名だった人物が堺には少なくありません。今年はなんといっても河口慧海の生誕150年です。清学院、山口家、堺市博物館などをはじめいろいろな場所で展示を企画しています」
これまで埋もれていた堺の魅力を掘り起し、多面的に光を当てていく。そんな展示がまちに広がり、堺市民がまず堺の魅力を再発見することから、堺そのものが再評価される。そんなムーブメントが今まさに起ころうとしているのかもしれません。

chyusen_02_seigakukan01.jpg
▲河口慧海も通った「清学院」の展示は、子どもを意識した展示。


堺市立町家歴史館 山口家
堺区錦之町東1丁2−31
電話: 072-224-1155
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)

休館日:火曜日(ただし祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入館料:200円・20人以上の団体は160円(中学生以下・65歳以上の方又は障害のある方は無料)
 「堺市立町家歴史館 清学院」との共通入館料は250円・20人以上の団体は200円です。


堺市立町家歴史館 清学院
堺市堺区北旅籠(はたご)町西1丁3-13
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:火曜日(ただし祝日の場合は翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入館料:100円・20人以上の団体は80円(65歳以上の方、障害のある方、中学生以下は無料)
「堺市立町家歴史館 山口家住宅」との共通入館料は250円です。


検索

2018年4月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

お気に入りに追加

| トップページ |