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雑記帖 No.050

ミュージアムは生きている!

登録文化財兒山家住宅 ナヤ・ミュージアムの会

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▲「釣瓶はフォトジェニックですね」と「ナヤ・ミュージアムの会」の松尾亨子さん。

子どもの頃から親しんだ風景が消えていく。
風情を残した建物、土香り四季の移ろいを教えてくれた自然も、皆消えていく。
数百年の歴史を持つ旧家の建物が代替わりで一つ一つと消えていき、代わり映えのしない住宅地に変貌する。
そんなよくある時の無情に抗う動きが生まれたのは、1人の主婦の声がきっかけでした。

場所は堺の中南部の陶器地区。400年前の慶長年間に移住した兒山家は土地の代官を務めていました。しかし戦前は5家あった兒山家も今は3家となり、江戸時代の建物を残すのは、通称「東兒山」のみ。

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▲坂本一さんによる兒山家の版画。

「土地や建物は個人のものだけれど、風景はみんなの物。その風景を守るために何かできないかしら?」
そんな思いで訪ねてこられたのは、ご近所の主婦。
「『お掃除だけでもさせてほしい』とおっしゃってこられたんです」
掃除をはじめると大きな納屋からは、古い農具の数々が出てくるではありませんか。兒山家は、戦前は小作を抱え地域の農業を担っていました。
「堺の地域史研究家の中井正弘さんに見ていただいたら、地域の人と共につくる博物館にしたらどうかと提案されたんです」

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▲ナヤ・ミュージアムの入り口。現在は見学だけの公開はしておらず「作り手」としての参加を希望される方はご連絡ください、とのこと。はたして「作り手」とは......。 ▲軒下が広々。雨天でも沢山の人が作業したり出来そうです。

こうして希少な田園風景の中核を為す兒山家に、他にはない地域の人と個人が作る『ナヤ・ミュージアム』が生まれたのです。


■不思議アイテムが沢山! ナヤには歴史がつまっている!
『ナヤミュージアム』を案内してくれたのは、兒山家に生まれ育った松尾さん。
大きな第一展示室の正面に木製の大きな農業機械がどんと据えてあります。はたしてこれは?
「授業で習うので小学生は皆知っているんですよ。これは『唐箕(とうみ)』。穀物を脱穀した後、籾殻や藁クズを吹き飛ばして選別する農具です。色んな重さのものを選別できるように調整できるんですよ」

普通の『箕』が手でふるったり息で吹き飛ばしていたのと比べると驚くべきハイテク機械です。

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▲存在感たっぷりの唐箕。 ▲箕での作業を実演してくれる松尾さん。

第二展示室には井戸から水を汲む『釣瓶』も展示。
「釣瓶はよく井戸に落ちたらしいんですが、落ちた時に登場するのがこの道具です」
そこにあったのは金属製のかぎ爪のような道具。
「マジックハンドみたいになっていて、これで落ちた釣瓶などを拾いました」

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▲中庭には立派な井戸。 ▲井戸に落ちたものを拾い上げる道具。なんだか忍者が使う武器みたいですね。

「お年寄りは、これを見て懐かしいとおっしゃいますね」
縄ない機は堺製でしょうか? 「Made in NIPPON Osaka」となっており、雰囲気的には近代ちっくですね。
「『もののはじまりなんでも堺』といいますが、ほんとうのことですね。堺の職人さんが、色んな器具を作られていたようです」

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▲「Made in NIPPON Osaka」の表記がある縄ない機。 ▲足踏み脱穀機。

特別展示室にはさらに昭和の新しい時代のものが見られます。
「私の父や母が使っていた道具類です」
目をひくのはチャンネル式のTV。
「シャープのOB会の方が見学旅行でこちらにこられて大騒ぎでしたよ。『シャープ製だ!』『型番は何番だ!?』って」

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▲レトロなTV。 ▲かき氷機や扇風機も。

部屋の奥には駕籠も鎮座。
「昭和に入ってからもお嫁入りの時には駕籠を使ったんじゃないでしょうか」
つい一世代前までは現役だった道具たちです。

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▲時代劇を思わせる駕籠。 ▲松尾さんのお父さんが使われていたという机の上には文具も色々。

今回の取材に同行してくれたクリエイターズ工房『あをい屋』の辻大樹さんが、文机の裏をとんとんと叩き始めました。
「これは戦前のものじゃないですか? 以前似たようなものを見たんですが、裏が合板で戦後のものでした。これは合板じゃなさそうです」
「おそらく戦前のものです。父がずっと使っていましたから」
さすが差物大工でもある辻さん。大正解のようです。


■ナヤから地域の姿が見える
納屋からは蚕棚も発見されました。
「精華高校の生徒さんたちが見学にこられたのですが、詳しい先生が『これは蚕棚だ』って」
兒山家に残された書籍を調べて見ると『養蚕雑記』という書物も発見。養蚕の様子ややり方を書いた、今でいうhowto本的なものでした。

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▲発見された蚕棚。養蚕関係のパネル展示も。 ▲色んな状態の蚕を保存。

ならばと、『ナヤミュージアム』では生徒の手も借りて養蚕に挑戦。
蚕や桑の葉を集めて育てると、立派な繭が出来ました。そして糸とりの結果は?
「素人ですからうまくは出来なかったんですが、それでも半分ぐらいの長さで絹糸がとれたんですよ」

調べていくと養蚕の分業化の様子も様々だったことがわかってきました。
「地域のお年寄りに聞くと、和紙に蚕の卵をぽつぽつと産み付けさせて売っていたとか。養蚕農家に蚕になってから売るケースとか繭だけ売るとか色々なやり方があることがわかってきました。はたしてこの地域でどのようなやり方をしていたのかは現在調査中ですけれど、蚕からも地域の姿が見えてきますね」

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▲パネル展示で研究成果を発表。 ▲兒山家を軸に地域の年表を作成。

松尾さんたちは、近隣の人や学生さんの協力を得て資料づくり、パネル展示なども作成しました。兒山家と地域の関連年表は中井さんにも監修を仰いだ立派なものです。

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▲兒山家の情景をカラフルに描いた十三景。


■ワークショップ形式で古民家の再生
地域の人々と作ったのは展示だけではありません。
兒山家住宅自体の修復も人々の協力によって行われていたのです。

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▲ワークショップで使用する土壁塗りの見本。 ▲久住さん作土壁オブジェの解体と再利用ワークショップ。

たとえば土壁は、土を寝かせたり、塗った壁が乾燥してひび割れるのを待ってからさらに土を塗ったりと、ともかく時間のかかるものです。
「カリスマ左官として海外でもパフォーマンスされている久住有生さんが、『INAX the Tile space』でパフォーマンスした土壁オブジェ搬出の際、お声がけ頂き、解体作業そのものをイベントとして大勢の人と楽しみました。もちろんその土は再利用しています
専門家の指導を仰ぎながら、ワークショップ形式でイベントとして楽しみながらみんなで古民家を再生していく。
維持することが大変な古民家を残していく、ひとつの解決策かもしれません。

土壁だけでなく、焼き板や三和土などもワークショップとして、地域の人たちと一緒になって取り組んでいます。

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▲焼き板もワークショップで。 ▲昔はこんな道具で三和土(たたき)をしていました。

なにしろ兒山家の建物そのものが文化財です。
「古い建物は地域の大工さんのセンスが出るんですよね」
『あをい屋』のある堺区の旧市街地・七まち界隈にも古い建物がいくつも残っていますが、七まちの大工さんと兒山家の大工さんでは随分違うと、辻さんは感じたそうです。
「土壁からヌキが見えているのは七まちにもあるんですけれど、七まちのはもっと壁から浮き出ている。場合によっては土壁から離れていたりします。こちらは壁とヌキをぴったりと仕上げていますね」
感心しきりの辻さんです。

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▲横の木材(ヌキ)を土壁に塗り込めてしまうやり方もあるそうです。 ▲美しい本瓦葺きがふんだんに使われています。2002年に国の登録有形文化財兒山家住宅として登録。

一方で、伝統が途絶えつつあるため若い大工さんの中には古いものの価値がわからない人も増えてきています。
兒山家の屋根は本瓦葺きになっていますが、屋根の修繕に来た大工さんが屋根の上から丸瓦を放り投げて大慌てで止めたなんてこともあったとか。
「まかせっぱなしにするんじゃなくて、自分たちでも文化財の価値をわからないといけないと思ってヘリテージ講座を受けているんです」

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▲現役の「へっついさん」。

松尾さんには本来の見学コースにはない母屋の台所も見せていただきました。
「このへっついさん(かまど)は現役なんですよ。年に何回かだけですけれど、みんなが集まった時におかゆを作るのに使ったりして」
ただ展示物を飾るだけでなく、地域の人、住んでいる人とともにある。
「建物は住んでこそ、ですからね」
古くとも兒山家は現役の建物です。

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▲兒山家の台所を守ってきた荒神さん。これからもよろしくお願いします。

ナヤミュージアム
堺市中区陶器北1404


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