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雑記帖 No.037

商店街と生活をつなぐ店  鞄の箱

街に当たり前を取り戻す

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のんびりと自転車が行き交うアーケード。
山之口商店街は歴史ある商店街ですが、日本で三本の指に入ると言われる賑わいを見せたのも今は昔。空き店舗も増え、閑散とした印象があります。

そんな中、久しぶりに新店舗がオープン。しかも店主は30才になったばかりの若者というではありませんか。
お店の名は『鞄の箱』。午後の商店街に店主の小松史郎さんを訪ねました。

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▲持っている鞄を褒められるのが一番嬉しいという小松さん。

■僕は物を作らない
帆布鞄がずらり目をひく大きな棚。財布や小銭入れなどの革小物を並べたテーブル。『鞄の箱』店内には、実用性の高そうな商品が並んでいます。

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▲店舗を改装した際につくった大きな棚。 ▲革小物も使いやすく個性的なものが揃っています。

『鞄の箱』という不思議な語感の屋号は、どうして決めたのでしょうか?
「僕は物を作らない。職人さんじゃありませんから。僕は鞄の箱を作りたいんです。そして、そこからお客さんに取り出して欲しいと思ったんです」

何か計算してつけているような名前が好きなのだとか。
「パッと意味がわからない名前が好きなんです。何なんだろうって思って欲しい。『鞄の箱』とつけた時に、家族は首を傾げたり、『ボックスは?』とか言ったりしたんですけど、ボックスなんておしゃれなのは苦手です」

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▲「『鞄の箱』と聞いた時に、人が不思議そうに『ほえっ?』てなる顔が好きなんです」と小松さん。

鞄屋をオープンした理由は地に足がついたものでした。
「鞄屋は末端産業だと僕は良く言うんです。人間にとって必要なものとして、まずは『飲むもの』『食べるもの』、次に『着るもの』、最後に『持つもの』だと思うんです。だから末端産業なんだと」

そして末端産業だからこそ将来性があると小松さんは考えています。
「隙間産業だという認識はありません。むしろ安定した需要があると思います。服のように大手が安いブランドで入ってきておらず、荒らされていないともいえるんです」

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▲シザーバッグは美容師がハサミを入れるためのケースですが、便利なのでいつのまにか日常の鞄に。鞄業界にはまだまだ開拓する余地があります。

「鞄は常に自分といるものですから、人によっては強い愛着を持ち、鞄をどこかに連れて行く、鞄は自分と同じ風景を見ているんだという感じ方をします」
小松さんも重い牛革の鞄を好んで使っていました。
「今はカーシェアリングなど、なんでも所有せずに借りる時代ではありますが、借りる時代だからこそ持つものにこだわりたいという人は少なくありません」


■当たり前を取り戻したい
「一方でメーカーに頼っていたら生き抜いてはいけないと思います」
鞄メーカーはデザイン優先で次々新製品を販売するのですが、その姿勢は必ずしも市場のニーズと合っていないと分析します。
「鞄は生活用品、日常の持ち物ですから、機能性に優れていることが大切です。機能性を踏まえた上でのデザインが求められていると思うんです」

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▲帆布の鞄は職人が工具を入れたり、学者が貴重な石を入れたりするのにも使われていました。これは6号帆布という特に分厚い布で作られた鞄です。

『鞄の箱』で目指しているのはセレクト商品だけでなく、お客様からのオーダー製品も請け負えるようになることです。
「(大量生産使い捨ての現代と違い)昔は、鞄のオーダーを請け負ったり、使い込んだ鞄を修理することは当たり前だったんです。僕はその当たり前を街に取り戻したいんです」

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▲カラーオーダーを請け負う職人さんのパンフレット。このスマホケースは某ヒーローをイメージしたこだわりの逸品です。

以前、京都の鞄屋で働いていた時に受注や修理も引き受けることが出来る職人とのつきあいがありました。
「職人さんの中には、いいものを作っているんだけど、売り出し方がわからない人、道をそれて諦めていく人も多いんです。僕は『商い』の側からそれを支えたい」
うなぎの寝床の堺の町屋は店舗スペースの奥にたっぷりと住居スペースがあります。
「職人さんにお貸しできるような工房化できるスペースがあるのも、この店舗でお店を開いた理由の一つなんです」

小松さんが思いを抱き、山之口商店街に店を開くようになったのか。時計の針を巻き戻してみましょう。


■何故か懐かしい商店街で開店
小松さんは学生時代には演劇をしていました。
大学に入学したての頃に観劇をして、一端は断ったものの2回生の時に手伝いで舞台に上がったのをきっかけに入団したのです。
京都で鞄屋をオープンしたオーナーも演劇をしていたことで知り合い、声をかけてもらって一緒に働くことになりました。

「オーナーの夢に共鳴するところがあって、僕も夢を持って働いていました」
同じく芝居好きの職人『Shoe Scape』のHAGIHARA HIROYUKIさんとのつきあいも出来ました。30才の時に独立したHAGIHARA HIROYUKIさんは、後に自分と同じ年に小松さんが独立した時には驚き喜んでくれたとか。

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▲『Shoe Scape』の作品は店の奥に置いています。赤のがま口の名刺入れは人気で売り切れ中です。

4年半共に働いた小松さんでしたが、次第に自分自身の夢を持つようになります。
「独立して自分の店を持ちたい」
やるなら物販の仕事をしたい。それも縁のある鞄屋をやりたいと思ったのです。

「実は3年前に堺の実家の母親から急に呼び出されて山之口商店街で店を出してはどうか? と持ちかけられてたんです。その時は『商売はそんな甘い物じゃないよ』と断ったんですけど、どこか頭の片隅にこびりついていて『山之口商店街』をはじめて訪れました」
今の堺市北区で育った小松さんの地元には商店街はありませんでした。
「アーケードのある商店街に何かあこがれがあったんです」

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▲与謝野晶子の街。山之口商店街の今、です。『鞄の箱』をオープンして3ヶ月。「最高でもないけど、最悪でもない」と小松さん。

往時の賑わいは無いものの、人通りが全くないという雰囲気でもなく、道幅は広く自転車の駐輪だらけで歩きにくいなんて事もない。
「はじめて来た時は『店を探している』なんていわずに『ギャラリーいろはに』を覗いたり、店の人に持っていた鞄を褒めてもらったりウロウロして......それで最後に『チン電パン』を買って帰りました(笑)」

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▲お客様の欲しい鞄のイメージをじっくり聞いてアドバイス。

懐かしい街の空気、商店街の人に暖かく接してもらったことは小松さんに影響を与えました。
不動産屋に連絡して山之口商店街近辺での空き店舗を探し、商店街に足を運ぶようになります。
『ギャラリーいろはに』の廊主・北野さんに2度目にお会いした時に、店舗を探している話をしたんです。するとすぐに商店街の会長さん、理事さんを紹介していただいて、今の店舗を見せてもらったんです」

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▲今の物件を見に行った時に入って以来『cafe de'NARI』のマスター福田さんは常連のお客様です。

京都の観光地に比べたらべらぼうに安い家賃には驚きました。
店舗だけでなく住宅スペースがあるのも、マンションでも借りるつもりだった事を考えると魅力的でした。
「ひとりぼっちでリスクを抱えながらオープンするよりは、こうして親切に対応していただいた商店街でやっていこうと思ったんです」


■生活を結びつける店に
京都で商売をしてきた小松さんから見ると、堺市の状況はちぐはぐにも見えるようです。
「需要と供給が合致していないように見えます。鞄屋がなくて困っている人がいる。でも鞄を作っている人はいる、といったような」

観光を推す堺市だけれど、生活に必要なお店を結びつけることが必要ではないか。
「山之口商店街の周辺には企業や銀行も多くて堺の中心になるものが揃っているのに、案外みんなどこに何があるのかを知らなかったりするんですよ。生活用品店が載っているMAPなんか作ってみたいですね」

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▲堺でよく売れるバルーンバッグ。「生活用品としての鞄には無骨だけど使いやすいとか、機能的な格好良さが求められるんです。ベーシックで、普遍的なデザインが好きな人は多いです」 ▲京都ではバルーンバッグより少し小振りなこのチューリップバッグがよく売れました。

堺の街の様々なイベントや集まりにも小松さんは積極的に参加しています。
山之口商店街にお店をオープンして数ヶ月ですっかり街に溶け込んでいるよう。自転車に乗るひょうひょうとした小松さんの姿もお馴染みに。

鞄はさりげない生活必需品、同じ様なさりげなさで小松さんの『鞄の箱』は山之口商店街になくてはならないお店になりそうです。

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▲『Shoe Scape』の陳列を置くお気に入りの場所で。「仕事があるのでお芝居は難しいですけど、朗読で舞台にあがりたいですね」

鞄の箱
堺区甲斐町東2丁1-10
電話番号 072-232-2530
メールアドレス komatsu@kabannohako.com
ウェブサイト http://www.kabannohako.com




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