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雑記帖 No.009

芦刃物製作所

伝統産業をアートへ進化。“鉄”の裾野広げる鍛冶屋さん

【七道特集・ものづくり編】
~打刃物 アート編 ~

堺といえば?と聞かれて浮かんでくるものといえば、打刃物。
堺市内には世界に誇れる伝統技能を受け継ぐ打刃物・鍛冶職人さんが多く存在しています。

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第一弾はここ、芦刃物製作所をご紹介。
でもこちらは「伝統文化」「刃物職人」の世界とは少しばかり趣が違うような...?

芦刃物製作所で働く職人さんたちは、"刃物"を芸術の世界へと進化させ、次々に新しいジャンルへチャレンジし続けているアート集団なのです。

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代表の芦博史さんは、既に"鉄アーティスト"の域にまで登り詰めつつある人。数々の展覧会で受賞経験があり、2006年度堺市展では市長賞を受賞。芸術作家と包丁職人をマルチに使い分けるニュータイプの職人さん。

鉄自身の持つ特性...硬いかたい素材であるのに、熱を加えるとどろりと溶ける。鍛えればぞっとするほどに光り輝き、恐ろしいまでに研ぎ澄まされる。なのに水にさらすと、あっという間に錆びてしまう、その不安定な美しさ。
火を入れた鉄の味わいを、幼い頃から日々見続けてきた芦さん。先代から引き継いだ技術そのままに、純粋な想いで"作りたいもの"を作るようになりました。

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世に出るきっかけとなったのはエスキモーの使うナイフ、"ウル"をモチーフに、鹿の角の柄を付けたナイフを製作。これが周囲に面白がられ、『それならば』と改めて作品を作ります。
「ナイフはもともと好きでしたからね。学生時代から美術館など観に行っていましたし、芸術作品自体に興味が強かった。」
父の仕事を傍で見続けることで、芦さんが持つ、本来の感受性が育っていったのかもしれません。

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【雅】 2005年発表

ギラリと光る芦作品は、思わず息を呑んでしまう美しさ。そしてどこか、背筋が冷たくなるような、えも言われる恐怖が湧き上がります...。
「それは、この作品の刃の部分が実際に"切れる"からでしょう。」

"芦作品には迷いがない"これが周囲の評価だと、芦さんは笑います。
「僕は包丁職人でもありますから、刃の部分に妥協を許さないんです。この作品は作品であるとともに、凶器にも成り得る。ここが、恐怖心に直結する所以でしょうね。」
そんな不穏な感情を与える作品に、なんて芦さん自身はちっとも狙ったことではなかったのだけれど。
彫刻作家は刃物というモチーフは使うが、実際に"切れる"ほどの刃を作品として発表するのは抵抗があるもの。この作品が初めて出展されたとき、審査員側に大きな衝撃を与えたことでしょう。
この作品は堺市展「彫刻部門 優秀賞」を受賞。記念すべき初出展、初受賞でした。

「鉄という素材を使って、グローバルな展開をしていきたいんです。」と熱く語る芦さん。
「堺は世界に誇れる技術を持つ職人が多く存在する町。その技術を使ってオリジナルの作品を作れば、それはオンリーワン作品となり、オンリーワン商品になるわけです。国内では包丁のマーケットが低迷し、刃物自体の価値が危うくなってきている。なら、次は世界を相手に売ればいい。」

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2008年8月、アメリカ南部・サンタフェからやってきたシハン・プルールさん。
彼はなぜ芦刃物製鉄所を訪れたのでしょう。それは、「鍛冶職人としての修行をさせてほしい」から。
包丁鍛冶で有名な堺で、偶然「芦刃物製作所」の名が耳に入り、足を運んだそうなのです。

「彼にはたくさん教えられました。もともと、鍛冶の技術は相当なものでしたし、さらに高みへと邁進する彼の姿に触れることで、我々も目標を高く設定することが出来た。」
1年後、シハンさんは再び鍛冶修行へと旅立って行きます。
芦さんは「己自身の技術も磨かなければ」そう思い立ち、高い鍛冶技術で有名なある先生を訪れるため、イスラエルへと飛びます。そこでは10日間、マンツーマンで師事することが出来ました。
「本当に厳しい人でした。真面目な方なので、こちらが真面目に取り組むとあちらも真剣に向き合ってくれる。なんだか、昔の良い日本人のような方でしたね。」
その師匠の繋がりで、世界のトップといわれる鍛冶職人や彫刻作家との出会いも生まれます。
「お互いが尊重し合い、情報を交換することで、我々の知識も技術も広がっていく...同じ世界にいるから、分かち合えることが多いんです。各国の人々との触れ合いで、日本の刃物の素晴らしさを、逆に教えてもらいましたね。」

「日本の刃物にはまだまだ可能性がある」そう確信した芦さんは、帰国後、堺の刃物業界へ提案をします。
「鉄を扱うプロとして、新しい商品を生み出す仕掛けを作っていこう」「堺の刃物、自分達の作品を、世界へ発信しよう」と。

「作家養成所などを作り、堺だけのオンリーワン商品の開発をと話したんですが...皆、包丁さえ作っていればいいという人ばかりで。」
芦さんの熱意がうまく伝わらず、非常に歯痒い思いをしたそう。

しかしこの意識を、技術を、共有できる強い仲間が芦刃物製作所にはいます。

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芦さんの弟である芦義昭さんも、クリエイティブな感覚に恵まれた逸材。
既存の刃物製品に+αの役割りを生み出す直感に長けています。



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義昭さんは篆刻愛好家でもあります。これは作品の一部。


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ブログや印刷物など広報も担当する高田さんも刃物職人であり、作家。オリジナル作品も多数作り出す、社内のムードメーカー。

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高田さんの作品は全て海外を視野にいれたもの。商品案内のページも英語のみ。

「我々だけで、出来ることから始めればいい。」忙しい本業の合間を縫っては、心のままに作る作品たち。製品化され、ネット上で発売し始めたものも増えてきました。

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人気の『福来(フクロウ)』。ペーパーウエイトやオブジェに。
包丁とセットの商品もあります。刃物で切れない鉄と包丁とを組み合わせることで、「縁が切れず、末永く続きますように」という願いから。


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鉄のキャンドルスタンド。中の針を外せばお香立てにも。小さいながらも、圧倒されるような存在感。


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芦刃物オリジナルの篆刻刀は、篆刻発祥の地、中国で問い合わせが急増。現在は中国語での対応も開始したとか。

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芦博史さんの作品も、もう少しご紹介。

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【翔】 2005年発表

芦作品の共通点は、鉄のあるがままの姿を、形にしているよう。
「鉄相手ですから、熱に溶けた自然の力に任せるしかないんです。言い換えれば、鉄のなりたい形にならせてあげている、というところでしょうか。」

この作品もそうなのでしょうか。まるで托鉢僧をイメージさせるような...。


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【悠久なる】 2009年 うつぼ公園「花と彫刻展」より

「材料は、包丁を作った後の廃材です。錆びた風合いがとてもいいと思うし、刃物とは別のメッセージ性が感じられる。」
じゃあ、どうしてお坊様の形に?という質問にも、
「さあ?なんとなく。(笑)」
どうやら、これをこういう風に作ろう、とは特に意識せずに作っているらしいのです。
"鉄の望む形に"...もしかすると、芦さんは鉄の声が聞こえているのかもしれませんね。


「僕はね、自分が面白いと思う生き方をしたいんです。」
鉄は、和も洋も表現できる素材。組み合わせひとつ、アイディアひとつで表情が変化します。

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【突く】 2005年発表 創造美術協会賞受賞 (作品の一部を抜粋)

「どうせなら、鉄の持ち味を活かした様々な"もの"に姿を変えてあげたほうが、鉄も喜ぶし、自分も楽しい。」と生き生きとした口調で話す芦さん。
自分の本業はあくまでも鍛冶職人。でも、自分のなかで作品作りは大事な日常になっているのも事実。
「作品を作るときは楽しんでいたい。もちろん鼻歌まじりにとはいきませんが。」
火を使うし、気を抜けば大きな事故に繋がるのは本業も作品作りも同じこと。ただ、作品づくりに関しては、鉄と火と、遊ぶつもりで挑みたい...。
肩の力を程よく抜いた芦さんだからこそ、何にも囚われない、斬新な作品が生まれてくるのかもしれません。

感性豊かな鍛冶職人たちの、目指す方向は常に「世界」。
日本で暮らす者ならではの、真面目で、美しい精神のこもった鉄の作品たち。
この凛とした意識に触れたいなら、ぜひ足を運ぶことをお薦めします。
堺が世界に誇れる、芦刃物製作所に。

芦刃物製作所
〒590-0912
大阪府堺市堺区並松町14番地
TEL:072-229-4920
FAX:072-228-1689
E-mail:ginga@ashihamono.com
営業時間:9:00~17:00/日曜定休・祝日不定休


 

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