| トップページ |
颯爽人 No.

歴史を刻みだす「八花堂」

閉じた洋品店が、古道具とドライフラワーの店に再生

hakkadou_00_face01.jpg

指物大工の辻大樹さんが、綾之町東商店街にやってきたのは6年前。まだ学生の頃でした。仲間たちと共に閉店した呉服屋のスペースを開放したのは2009年。そして大工としての修業を経て、2012年に自力でスペースを全面改装した木工房『あをい屋』をオープン。そして3年後の2015年、次の一歩を踏み出します。
同じ綾之町東商店街に二店舗目として古道具とドライフラワーの店『八花堂』をオープンしたのです。オープニングイベントには絵本作家の長谷川義史さんをはじめ、近所の方、一緒に活動した仲間たちが駆け付けて大入り満員でした。

この『八花堂』がどうしてオープンしたのか。それを説明するには、辻さんと『八花堂』の前身『山本洋品店』の店主山本弘始(ひろし)さんの縁について語らねばなりません。

hakkadou_01_tuji01.jpg
▲指物大工の辻大樹さん。『八花堂』にて。


■山本洋品店を受け継ぐ
辻さんが綾之町東商店街に来て、最初にやった取り組みの一つが、各店舗の名前を染め上げたのれんをアーケードに掲げることでした。
そんな店舗の一つ『山本洋品店』は学生服も扱う洋服屋さん。付近の多くの子どもが『山本洋品店』のお世話になりました。
「山本さんとはよくしゃべって親しくしていました。こののれんは風で巻き上げられて吊り下げ棒にからまってしまうことがあるんですが、そんな時は山本さんが長い竿で元に戻してくれてたんです。実はこののれんの布は『山本洋品店』の白いサラシを赤く染め上げたもの。自分の所の布やったってこともあって、のれんのことが好きやったんやないかな」

hakkadou_01_noren01.jpg
▲山本さんが好きだったのれん。




しかし、出会って数年。山本さんは体調を崩されます。
「お店はご夫婦でやられていたんですが、2014年のはじめごろから店を閉めがちになって、夏には千葉にいた息子の孝三さんに相続の手続きをして引退されたんです」
一度入院したものの、退院後元気になられた山本さんは、今は千葉で元気に暮らしているとか。
「孝三さんは、週末ごとに大阪に帰ってきて在庫処分の閉店セールをしていましたが、その時はじめてお会いして店を貸してもらえないかとお願いしたんです」
孝三さんは店を閉めているよりは、と快諾。こうして『八花堂』オープンへの道は開けたのですが、大変なのはこれからでした。山本洋品店には残った商品やそれをしまっておくための什器がぎっしり。更には山本さんの厖大なコレクションの数々も......。

hakkadou_01_youhinten01.jpg
▲2014年9月あをい屋のイベントで仮オープンした山本洋品店の店内。まだごちゃごちゃしていますが、店内中央の什器をかたして随分整理しています。


夏からはじめて秋にはオープンをと考えていた当初の目論見はもろくも崩れ去り、半年以上かけて2015年5月6日になってやっと『八花堂』はオープンすることになったのです。


■歴史を刻んだ物
こうして『八花堂』の店主となった辻さんですが、何故古道具屋にしたのでしょうか?
「『八花堂』は『あをい屋』のお店に近い位置づけです。『あをい屋』をはじめた頃、友達に『何か売ってないの?』と言われたんですが、『オーダーを受けてます』って答えてました。本当は自分で作ったものとかを売りたかったんですが、あくまで工房なんで、物を置いても大量に出る木くずをかぶったりして汚れてしまう。工房の作業スペースも広げたかったし、打合せをする場所も欲しかった」

hakkadou_02_uchiawaase01.jpg
▲『八花堂』の店舗に作られた打合せスペース。学校の机と椅子が懐かしいですね。


出来上がった『八花堂』にはオープニングイベントで活躍した舞台がありますが、普段は机と椅子を置いて打合せスペースとして使用できます。

古道具屋開店の噂を聞きつけ、辻さんのもとには商店街や近隣の方から次々と古いものが持ち込まれてきました。
「レコードのオーディオセットは水野さんから、再生プレイヤーだけは別の方から。レコードも沢山もらいました」
建具に楽器、カメラ、オルゴール、映画のパンフレット......『八花堂』には色んなものが集まってきます。
「自分が作ったもの以外も置きたかったので丁度よかった。売れそうなものより、自分の好きなものを売りたいという方針です」

hakkadou_02_furudougu01.jpghakkadou_02_furudougu02.jpg
▲アナログレコードのオーディオセット。『八花堂』で現役として復活。CDとは違う美しい音色を奏でます。▲カメラ(左)とオルゴール(右)。

hakkadou_02_dryflower01.jpghakkadou_02_dryflower02.jpg
▲『八花堂』が提示するライフスタイルにぴったりの現代の作家の作品としてドライフラワーも。▲ドライフラワーの作家・福呂裕子さん。


古道具や古いもの好きは筋金入りですね。
「古い建具を見ていたらカッコイイなあと思います。古い家の空気感が好きで、古い家を触るのが好きなんです」
大工の中でも内装・建具を担当する指物大工は辻さんにはぴったりの仕事です。
「木はいいし、ガラスもいいですね。このガラス瓶は手作りのガラスで、貴重です。気泡が入っていて味わいになっている。最近は手作り風に作っているものもありますが、いずれ作れなくなるかもしれない。大きな一枚板のうねっているような奴なんかは、もうすでに作れないかもしれないですしね」
大きなガラス瓶を手に語る辻さんですが、専門の「木」となると、さらに語り口は熱を帯びます。

hakkadou_02_furudougu03.jpg
▲手作りのガラス瓶。向こうの風景、通る光に微妙な歪みが生まれ、独特の味わいを生んでいます。


「木のやれ方や抜け具合っていうのが好きなんですよ。勝手に出来た色合い。木の外の面に雨がかかって、汚れていく汚れ具合が好き。木は種類、条件で全然違ってきます。使い方、使う人が何をやっているかによっても違ってきます。たとえば同じ現場で使う木の板でも、大工さんと塗装屋さんの木の板では違う。塗装屋さんのだと塗料が付いたりして。その人その仕事によって違った木が育つんです」
資材や道具として使いだしても成長が止まらないのが木の面白さのようです。
「木は切っても生きています。極端な話、表面が汚れてもカンナで削れば元に戻ります。仕事柄、『エイジング(わざと古くする)』技術は必要です。文化財の改修でも、直した所が新しいのまるわかりだと嫌ですよね。新しくしながらも古くする。家の古さと同じ空気感でかつ綺麗っていうのが求められていると思います」
一方で、「アンティーク風」というのには疑問があるそうです。
「20~30年以上で100年未満のものをビンテージといい、100年以上のものをアンティークといいます。100年以上前のものなんて古すぎて実際にはみんな欲しくないと思うんですよね。だから、アンティーク風って流行るんでしょうけど、安っぽいなと思います」


■積み重なった歴史と同じ空気感で
辻さんは『八花堂』を改築するにあたり、ほとんど新しいものを付け加えずに、その場にあったものを利用しました。
「内壁をはがしてみたら、コンクリートの壁がそのまま使えそうだったので助かりました。鉄骨の梁もむき出しにすると恰好良くて気に入ってます。入口のガラス戸はリメイクですけど。表の外壁は天井の骨組をはぎ取った時に出た角材を刻みまくった木片をはりつけました」
古い商店街の雰囲気を壊さず、かつおしゃれな「八花堂」の外観にも納得です。

hakkadou_03_naicou01.jpg
▲山本洋品店の歴史を刻んで「やれた」『八花堂』の天井。むき出しの鉄骨も空気感を作っています。


そんな辻さんが衝撃を受けたエイジングのやり方があるそうです。
「エイジングは、ダメージを与えたり、表面を燃やしたり色々なやり方があります。以前テレビで見た職人さんのやり方が忘れられません。家の柱が腐ってやり変えることになったんですが、その人は屋根から家の埃を集めて水に溶かし、それをただ何か月もかけて新しい木材に塗り込んでいったんです。その家の柱はその家の埃で汚くなっている筈ですから、これは理に適っているシンプルなやり方です。特別なことは何もやっていない。
自分も自分なりの技術を持ちたい。自分のやり方を見つけていきたいと思いましたね」

hakkadou_03_gaikan01.jpg
▲『山本洋品店』の天井の木材を切り刻んで作った外観。


「木は切られても生きている」
ならば、その精神をもって作られた家もまた生きつづけているのでしょう。
次は「あをい屋」の2階を改装し、ver2へと進化させる予定だとか。「八花堂」だってもちろんまだまだ手を入れる場所があります。
長い歴史が刻まれた商店街の二店舗が息を吹き返し蘇りましたが、辻さんや店に関わる人々の生活と共に「あをい屋」「八花堂」は独自の歴史を刻んでいき、成長していくに違いありません。

八花堂
堺区綾之町東1丁2-2
TEL:072-245-9906



| トップページ |