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颯爽人 No.007

Mitsuaki-T* 高田 充晃

越境する刃物職人

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高田 充晃
profile
2002 芦刃物製作所勤務
2008 プライベートブランド 
Mitsuaki-T* 立ち上げ



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今、堺生まれの美麗な刃物が世界を魅了しています。
「100% made in Sakai」。全て堺製を謳い独創的な美を放つ刃物の作り手は、芦刃物製作所に勤め、プライベートブランド「Mitsuaki-T*」を立ち上げた高田 充晃さん。海外からも注文の絶えない、注目のアーティストです。


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「世界のたくさんの人に喜んでもらえるのが嬉しいんです」
と、高田さんは語ります。
きっかけは昨年ニューヨークで開催されたギフトショーに参加したことでした。知り合いのスペースに作品をディスプレイした所、多くの外国人から賞賛の声がよせられました。その声に応えるべく、帰国後に芦刃物のホームページ上に英語ページを作った所、注文が殺到するようになったのです。
「最近では、ヨーロッパやシンガポールでも認知されてきました」
高田さんがお土産用にと作った小さなペーパーナイフは、舞い込む注文のため見本を手元に置いておけないほど。
「海外進出への壁って、英語だけだって気づいたんです」
問い合わせはメールなので、自分のつたない英語でも大丈夫と、高田さんは笑います。

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▲ギフトショーでのディスプレイ。華やかかつ繊細な高田さんの世界観をご覧あれ。

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▲"竹"をイメージした『かぐや姫』。柄の最後まで鉄が入っているので丈夫で、かつ握りやすいそうです。2003年堺刃物コンクール堺市長賞受賞作。 ▲木の枝に擬態する昆虫をイメージした『ナナフシ』。芸術性の高いこの作品は、ロシアの方の目にとまり、もうワンセット製作中とのこと。

この高田さん、実は堺生まれでもなければ、刃物製作とは無縁の経歴の持ち主。これほどまでに高い評価を得る刃物職人となった経緯についてお聞きしました。


■『音』から『鉄』へ
転機は、東京から大阪への転居を決めたことでした。
「煮え切らない性格なんで、後ろ髪を引かれることがないようにって思ったんですよ」
東京では、音楽録音関係の仕事をしていた高田さん。しかし、長年勤めた録音スタジオが廃業。これを機に、職業も生活環境も一新しようと決心します。
大阪で選んだ仕事も鉄工所でのフック造りでした。
「汗をかく仕事がしたいな、と思って」
空調が完璧に整っていた職場とはまったく逆の職場。
鉄工所でも高田さんの転職は驚かれました。
「せっかく東京でおしゃれな仕事をしてたのに、嫁さん残念がってへん?」
などと上司に聞かれたことも。
「そんな女(ひと)じゃないですよ」
どちらかといえば、奥さんが堺出身だったことが関西との縁でした。この縁が、後に大きな実を結ぶとはこの時誰も考えなかったことでしょう。

高田さんの「鉄」との出会いも、このお仕事から。
余った鉄をもらい、自宅でナイフ造りを始めたのです。
ベランダ、風呂場を工房にして、ヤスリがけから始まり、七輪にドライヤーで送風して温度を約1000度にあげた小さな炉で鉄を赤らめ、鍛冶屋のような域に達しつつありました。
ですが、そうこうしている内に、再び転機が訪れます。フック造りの職場も海外に仕事を奪われ、転職してわずか2年でまたも会社が廃業という憂き目にあったのです。

すでに鉄の魅力に魅せられていた高田さんは、更に深く鉄と関わる刃物の世界を目指すため、芦刃物製作所の門を叩きます。
「刃物やさんって、大抵子供が跡を継ぐんで、だめもとで『仕事ありますか?』って訪ねたら、丁度人手が足りない時だったんです。パートからで構わないので! とお願いして何とか採用してもらいました。ちょっとでも時期がずれてたら、ここにいなかったかもしれません」
芦刃物製作所では、高田さんにとってさらに幸運なことが待ち構えていました。それは、これまでとは比べものにならないほどの「完璧な設備」に出会えた事。
高田さんの目が、とっておきのオモチャを手に入れた子供のように、キラキラと輝きます。

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▲刃物の製造は、金属をハンマーで鍛える鍛造とプレス加工があります。こちらは金属を打ち抜くプレス加工のプレス機。 ▲こちらでは刃物に柄をつけています。各作業はそれぞれの担当の職人さんが行うのが普通ですが、Mitsuaki-T*ブランドでは、すべて高田さんの手で作業が行われています。


■常識を覆す、「カワイイ」刃物
「女の子に『カワイイ!』って言われるのが好きなんですよ」
ロゴマーク入りの趣味のいい紙箱に収められていたペーパーナイフは一本一本趣きが異なります。
小さな刃に花びらと散らされた刻印。柄の部分には色の違う組紐がまかれます。
赤を基調とした柄のナイフは華やぐ若い娘のイメージでしょうか。紫の柄のナイフは、さながらはんなり御寮さん。

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▲海外の人達も目を奪われた高田さんのペーパーナイフ。一本一本個性があります。ニューヨークのギフトショーの時点では、まだこのケースは無かったため、しょっちゅう「ケースは無いの?」と尋ねられたそう。日本に帰ってから急いで作ったとか。

この可愛らしいペーパーナイフはもともと、
「せっかく堺に来てくれた人に何かいいお土産は作れないか?」
と、端切れの鉄を手に考えたのが始まりなのだそう。刃物は堺名産とはいえ、確かに土産物にするには、手軽さには欠けるかもしれません。
でも、この小振りでおしゃれなペーパーナイフなら、贈る人の個性に合わせてチョイスする楽しみもありますから、土産物にはぴったりです。

「仕事の合間に作ってるし、手間がかかりすぎるから数が作れなくて」
平均すると月に10本程度の生産数。なにしろ、こだわりが隅々にまで行き渡っており細密な作業が必要なのです。
「台までセットで完成なんですよ」
刃の先端を差し込む台は、寄せ木造りで、ナイフの組紐に合わせて、一つずつ微妙な色や模様がコーディネートされています。

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▲組紐や革製の鞘同様、この寄せ木細工も高田さんの手によるもので、独学で学び作られたというから驚きです。

「実はこれ、ペーパーナイフといいながら、ちゃんと刃がついてます。切れすぎて困るって言われることもあるんですけど、刃がついてないのは刃物じゃないですからね」
堺の刃物として買っていただく以上、ここは譲れない所です。
「堺の刃物として売っていながら、実は他産地で作っている商品も多いんです。洋包丁に至っては全部堺で作っているとなると、実際には半分以下でしょう」
高田さんの作品には、「100% made in Sakai」のキャッチフレーズが誇らしげに刻まれています。

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▲鉄の端切れを手にとる高田さん。使い道のなかった鉄材も、高田さんの手にかかると、美しい芸術作品に!

伝統の堺の刃物への誇りと同時に、斬新な作品を作る柔軟な発想を持つ高田さん。その一見矛盾する個性はどこから来たのか、ルーツは少年時代にまで遡ります。


■何者でもあり、何者でもない
父親が転勤族だったため、高田さんは引っ越し続きの子供時代を送っていました。関西から関東に、姫路、東京、和歌山、横浜......引っ越しの間隔も短く、じっくり友人を作る暇もない日々です。
ようやく落ち着いたのは中学二年生、神奈川は大磯の地。その頃には、高田少年はすっかり「友達を作る技術」を身につけていました。
「臨機応変。誰とでも打ち解けることが出来る対応力がついたんです。沢山の友達よりは、限られた人とじっくりつきあう方が好きですけど」

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▲時にお茶目な表情も見せる高田さんですが、刃物について語る時は、熱く真摯な一面が覗きます。 ▲NYのギフトショーでは、包丁研ぎのデモンストレーションを披露しました。

居場所を転々としてきた高田さんに、自身の『アイデンティティ』を尋ねると、
「どこにでも対応できること」。
なんとも高田さんならではの答え。
刃物だから、伝統だから、という固定観念に囚われない発想。また、同時に「刃物としてこだわるべきこと」といった本質を外さない感性は、この融通無碍なアイデンティティによるものでしょう。


■ディテールとバランス、多面的なアート
高田さんのホームページには、「detail is life!」、「ディテール命!」の言葉が掲げられています。
ソフトとハードの差はあっても、音楽業界と刃物造りには共通項も多いとか。
「レコーディングは、どのマイクを選ぶか、どこにマイクを置くか、アンプは? スピーカーは? テープは? どれを選ぶか、チョイスの積み重ね。刃物造りも同じです。素材をどうするのか、型をどうするのか、どの機械を使うのか......」
東京の洗練されたセンス、そして大阪の感性、両方を併せ持つ強みが高田さんにはあります。
「何はともあれ、デザインにはこだわりたいですね」
東京にいたこと、大阪を知っていること、両方を併せ持つ強みが高田さんにはあります。

「矛盾するかもしれませんが、トータルバランスが一番大切だと思っています。これは昔、上司にずっと言われていた部分です」
ディテールのためのディテールになってしまうと、小手先だけの作品になりかねません。しかし、トータルバランスを重視することで、高田さんの作品は刃物としての本質を常に見失わずに完成されているのでしょう。

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▲Mitsuaki-T*のロゴ。

高田さんの作品パッケージには、不思議なロゴマークがついています。これは、星のようにも太陽のようにも見え、花のようにも葉のようにも見えるというロゴで、物事の多様性(multi-sided)を表しているのだそうです。
「このナイフをどう楽しんでくれてもいいんです。見るだけでもいい、雑に扱ってくれてもいい。綺麗に飾ってくれても、触れて楽しんでくれてもいい」
そう、ペーパーナイフを手に取りながら高田さんは言います。
人それぞれの楽しみ方があっていい。ロゴには、そんなメッセージが込められているのです。


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▲長男も訪ねてきた職場。

「刃物にこだわっているわけじゃないんです。刃物は好きですけど」
これからの展望を聞くと、そんな意外な答えが。
「物作りはずっとしてると思いますけどね」
実は三人の男の子の父親でもある高田さん。小学生になる長男は一度職場へ見学に来たことがあるそうです。器用なお父さんの血は争えないのか、最近は家で日曜大工のお手伝いをしたり、自分で壊れたオモチャの修理に挑戦することも。
「誰か一人ぐらい、物作りを継いでくれるとうれしいんですけどね」
最後には、そんな父親の顔もちらりと覗かせた高田さんでした。


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